⑧ブレイクタイム編

「スタバの新作フラペチーノが飲みたい、飲みたいの!」

「というわけで本日はイオンモールに入っているスタバまで幼馴染ちゃんとやってきた」

「フラペはいいね。フラペは心を潤してくれる。人類が生み出した文化の極みだよ」

「糖質ジャンキーの極みみたいなやべぇ台詞並べだしちゃった」

「きょろきょろ」

「どうしたの?」

「今日は歪曲感情表現ちゃんとヘタクソ手裏剣エイムちゃんはいないの?」

「それ本人の前で絶対言っちゃダメだからね?」


~ ~ ~


「じぃ」

「幼馴染ちゃんが獲物を見定めるハンターみたいな目で行き交う人々を見ている」

「どいつもこいつも番(つが)ってて浮かれてるよね」

「男連れでこんなところ来てる幼馴染ちゃんが言っても単なるブーメランだよ」

「私はいいの」

「なんで?」

「だって地球の平和守ってやってるし、言うなればこいつらのちっぽけな命なんて全部私の善意で保たれてるんだよ?」

「増長した魔法少女ってやべぇな」


~ ~ ~


「私が異世界で勇者として魔王をなぎ倒してた頃の話なんだけどね」

「さらっと始める世間話にしては気になりすぎる冒頭だ」

「魔王から、世界の半分をやるって言われたから頷いたの」

「結果自分が破滅しそうだけど」

「破滅したのは向こうだったよ」

「どういうこと?」

「私にとっての世界って地球(こっち)と異世界(あっち)の二つだから、その半分ってことは異世界丸々という解釈が成り立つの」

「魔王もとんだ拡大解釈に舌を巻くしかなかったんだね」


~ ~ ~


「お腹いっぱいになったら眠たくなったの」

「それで?」

「んと……」

「うん」

「抱きまくらにしていい?」

「いいよ」

「……邪魔者がいないとあっさりすぎて気持ち悪いの」

「超わかるー」


~ ~ ~


「僕くん、あったかーい♪」

「具体的にはどれくらい?」

「春の陽射しくらい?」

「平凡だね、五十五点」

「じゃあ僕くんやってみてよ!」

「今こうして照れて真っ赤になった幼馴染ちゃんのほっぺたくらい温かい、かな?」

「……ず~る~い~!」


~ ~ ~


「すりすり、すりすり」

「僕の幼馴染ちゃんがめっちゃマーキングしてくる件」

「薄汚いメス猫どもの臭いを今のうちに上書きして消しておかないと」

「時折幼馴染ちゃんは友達に対してえらいシビアな対応をするよね」

「序列ははっきりさせないと勘違いしちゃうから」

「なんか野生動物の群れの長みたいなこと言い出した」


~ ~ ~


「わ~ん! まま~!」

「迷子はっけーん!」

「脱兎のごとく俊敏さで駆け出した幼馴染ちゃん」

「ほ~ら、もうだいじょうぶだよ~」

「いないいないばあでもして和ますんだろうか」

「見て見て。エンゲージリング選んでるカップルの彼氏の資産が永久凍結する魔法かけたよ~♪」

「それで喜ぶの幼馴染ちゃんだけだよ?」


~ ~ ~


「びえ~ん! びえ~ん!」

「う~ん、異世界だとかなり受けたのになあ」

「異世界って僕が思ってるより大奥みたいにドロドロしてるんだなあ」

「じゃあじゃあ、好きとか愛してるっていう反吐が出るくらい甘い言葉が反転して罵詈雑言になる魔法!」

「びえ~ん! びえ~ん!」

「う~、結婚の挨拶に行くと絶対相手方のご両親から塩ぶちまけられる魔法!」

「びえ~ん! びえ~ん!」

「はぁ、しょうがないなあ。蛇口からポンジュースが出るようになる魔法」

「きゃっきゃ」

「それ最初からそれ使いなよ」


~ ~ ~


「ごくごく、にぱ~♪」

「泣いたカラスが笑ったよ~!」

「というか蛇口どこから出したんだろ」

「え、こうやって」

「衝撃でガラス割れるくらい見事なフィンガースナップ」

「すご~い!」

「そ、そう? えへへ」

「嬉しいのはわかるけど連発した分あらゆる場所に蛇口が出現して大混乱の原因になってるからそろそろやめようか」


~ ~ ~


「ありがとうございます、本当にありがとうございます!」

「めっちゃお母さんにお礼言われてしまったね、幼馴染ちゃん」

「僕くん、わたしね」

「赤ちゃんが欲しい」

「あと三年は待ってね」

「ん?」

「あれ?」

「わたしたち」

「ぼくたち」

「「入れ替わってる!?」」

「二人だけだと落ちが雑すぎる」

「ちゃん、ちゃん♪」

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