⑬お弁当忘れちゃった編

~ ~ ~


「あ」

「間抜けな声を出してどうしたのかしら、僕くん?」

「ツンデレちゃん。実は今日お弁当作るの忘れちゃって」

「なんだ、そんなこと」

「と、思うでしょ?」

「な、なによ」

「アレを見て」

「幼馴染ちゃんが……死んでる!?」

「僕くんの手作りお弁当がないと生きられない身体にされてしまったんでござるなあ」


~ ~ ~


「ど、ど、どうすればいいのよこれ!?」

「お弁当があればいいんだけど」

「お、幼馴染ちゃん、あたしのを食べなさい! ほら!」

「あ、それは」

「……違う」

「ひぃっ」

「僕くんの卵焼きはこんなにしょっぱくないもんどうして私を騙そうとするのねえそんなに悪いことしたただ私は僕くんの手作りお弁当が食べたかっただけなのになのになのになのになのに」

「空腹時の幼馴染ちゃんはうっかり触れるだけ病んじゃうから気をつけてって言おうとしたのに」

「もっと早く言いなさいよ!」


~ ~ ~


「幼馴染ちゃん」

「ごめんなさい僕くん許してごめんなさいもう二度と僕くん以外からの施しは受けませんごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「うーん」

「ど、ど、どうするのよ!?」

「しばらく放置かな」

「どうして!?」

「この幼馴染ちゃんもこれはこれで可愛いから?」

「やっぱり僕くんも地味に歪んでるでござるよなあ」


~ ~ ~


「こんなだめだめな私は真冬の太平洋にでも飛び込んで溺死しちゃえばいいんだ」

「そんなとこよりもっといい場所があるよ」

「どこ」

「ここ」

「何を言ってるの」

「僕に溺れてみない?」

「ギュウ……」

「溺れた?」

「ううん♡ まだ全然溺れないよぉ♡」

「おいそこの幼馴染ちゃんすっかり目の色ピンクになってるわよ!?」


~ ~ ~


「心配して損したわ! 心配して損したわ!」

「ねえねえ、僕くん。なんであの人怒ってるの~? 更年期~?」

「同い年よ! しゃー!」

「違うよ。ツンデレちゃんは、怒りながらじゃないと素直にお喋りできないだけなんだよ」

「大昔の邦楽みたーい! あははー!」

「津波にでも何でも飛び込んでやるわよ!」

「このネタどこまで通じてるんでござるかな」


~ ~ ~


「おいしい♪ おいしい♪」

「家庭科室で僕くんがちょっぱやでこしらえたお弁当食べてご機嫌でござるなあ」

「……ちょっと、抜けるわね」

「あまり乱暴にキジを撃ち殺してはいけないでござるよ?」

「女だからお花摘みよ! というかそっちの用事じゃないわよ!」

「……」

「はぁ。……そんなにあたしのお弁当、ダメかしら? 結構自信あったんだけどなあ」

「影で落ち込むツンデレちゃんをおかずに食べる僕くんのお弁当おいしい♪ おいしい♪」

「幼馴染ちゃん、覗き見は良くないよ?」

「一緒になって白米かきこんでるくせにどの口が言うでござるか」


~ ~ ~


「覗き見なんて失礼よー! うきー!」

「えへへへ♪」

「僕くん、何見てるんでござるか?」

「これ」

「空っぽのお弁当……って、あれ、これって……」

「幼馴染ちゃん、何だかんだ言いながら全部食べたんだよね」

「いったいどっちがツンデレなのかわからんでござるなあ」

「もう二度と幼馴染ちゃんの心配なんかしてやらないわよ!」

「知らぬは本人ばかり」

「でござるなあ」


~ ~ ~


良いお年を~。

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