⑪魔法使いの里編
「今日も平和だねぇ、パチン」
「平和とは程遠い空気が破裂したみたいな音がしたんだけど」
「ん~、へいきへいきー」
「なんだったの?」
「単なる直撃したら即死する魔力の球」
「それが平気なのは幼馴染ちゃんだけだよ」
~ ~ ~
「我がシュードブラックホールを片手で打ち壊すとは……本物の紅焔の魔女さまで間違いありませんね……」
「――現世でその名を呼ぶなと言ったはずだが」
「は、は! も、申し訳……ございません……」
「二度はないぞ」
「しかと戒めます!」
「幼馴染ちゃん」
「なぁ~に~♪」
「トランジション素早すぎて二重人格を疑うよ」
~ ~ ~
「なんで紅焔の魔女って呼ばれてるの?」
「えっとね、はい!」
「あ、髪が赤くなった」
「私特異体質らしくって、魔力を練るとこうなっちゃうんだ」
「へー、そうなんだ」
「……怖い?」
「かっこいい」
「……でへへ♪」
~ ~ ~
「紅焔の魔女さま。失礼を承知でお願いがございます」
「え~、無理」
「そ、そこをなんとか! 一族存亡の危機でございます!」
「無理なものは無理だもん。私、もう魔女じゃなくて普通の女子高生だしー」
「幼馴染ちゃん、一応話だけは聞いてあげようよ」
「しょうがないなあ」
「紅焔の魔女さまをああもたやすく御するとは……まさか神か?」
「そうだよ!」
「さり気なく嘘教えないの」
~ ~ ~
「かくかくしかじか」
「封印が解けた悪魔を倒してほしいってことか」
「む~」
「いつになく嫌そうな顔をしてるね、幼馴染ちゃん」
「だって嫌なんだもん」
「どうして?」
「魔法使いの里って遠いから」
「まあまあそう言わず人助けだと思って」
「往復十年かかるよ?」
「さすらいの魔法使いさん、僕たち学校があるのでこの辺で失礼しますね」
~ ~ ~
「ご、ご安心を、神よ。こんなこともあろうかとワープポイントを設置してありますので、移動には数秒程度の時間しかかかりません」
「……ちっ、余計なことを」
「幼馴染ちゃん?」
「えへへ♪」
「そんな可愛い顔しても僕は誤魔化されないよ」
「くすん」
「やはり神」
「違うって」
~ ~ ~
「わかりました。元より一族の問題ゆえ、こちらで対処いたします」
「急に物分りが良くなったなあ」
「よし、僕くん学校行こ!」
「たとえ紅焔の魔女様のご助力があれば死なずに済む者が数万人いようと」
「学校学校たーのしーな♪」
「たとえ紅焔の魔女様のご助力があれば万の月日を投じて築き上げた里の文明の保持が叶おうと」
「今日のお弁当なーんだろーな♪」
「たとえ紅焔の魔女様のご助力があれば一族が命を賭して成し遂げた平和が守られようと」
「僕くんと一緒でうーれしーな♪」
「紅焔の魔女様には一切関係のない話です」
「……それで、敵の規模はどれくらい?」
「すげぇ。あの幼馴染ちゃんが外圧に屈した」
~ ~ ~
「ぬわははははははは我は深き眠りより目覚めし大悪魔アスモデウス――」
「紫炎『アジサイ』」
「ぎゃああああああああああ!」
「さ、さすが紅焔の魔女さま! あのアスモデウスを一撃で屠――」
「絶炎『ダリア』、滅炎『ヤグルマギク』、狂炎『ラナンキュラス』」
「……」
「僕がいなければ先に死んでたのは魔法使いさんの方だったね?」
~ ~ ~
「沢山お土産もらえてよかったね、幼馴染ちゃん」
「も~最悪! 学校終わっちゃたし僕くんとのイチャラブスクールライフが!」
「まあまあほら、マンドレイクで作った健康ドリンクでも飲んで」
「うあ~超まっずいよぉ!」
「青汁みたいに飲み干してしまった」
「でもこれで三日三晩寝ないでイけるんだよね~
「効能がコワすぎる」
~ ~ ~
「そういえばこの綺麗な宝石みたいなのって何だろう」
「あ、ダンジョンコアだねそれ」
「えっ、使用すればダンジョン生成・拡張ができるっていう噂の?」
「噂の!」
「すごいなあ。どう使うのが一番良いんだろうか」
「オークションで売り払うのが一番儲かるよ?」
「夢もロマンもない現実的な提案来ちゃった」
~ ~ ~
「せっかくだから使ってみたい」
「どこで使うの~?」
「やっぱり通いやすい場所がいいかな」
「私たちが通いやすい場所といえば!」
「そう。それは――」
「平日毎日通うからって学校の地下をダンジョン化していい理由にはならねーんだぞ!?」
「行き遅れ三十路先生の叫びも虚しく、ダンジョンコアは作動するのでしたとさ」
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