[7-7]神の兵器、いつかに備えて


 いつもながら、ほとんど待たされることなくログが動いた。クォームが人間じゃないので技術担当さんとルリさんもそうなんだろうけど、サポート体制が手厚すぎて心配になってくる。食事とか睡眠とかお仕事とか、ちゃんとできているのかな……。

 脱線する僕の思考を軌道修正するように、ミニキャラのクォームは真面目な顔だ。


[理論上はできるはずだぜ。でもカードはパーツなんだろうな、こっちからだと文字列が読めないらしい]


 なるほど? つまり施設本体が必要ってこと?

 でもこの場合の施設って……。


「確かに、そう。切札は神様が造った兵器だから、本来は城の軍務室にあるスロットに差し込んで使うんだ。……そっか、やっぱり城で試すべきだったね」


 横から画面を覗き込んだリレイさんが、少し消沈した声で呟いた。確かに本来はそうなんだろうけど、仕様通りに有効化したら、結局は兵器になってしまうんじゃないだろうか。

 そうならないように、個人で使えるように仕様変更するコードをリレイさんが書き込んでくれた、のだと思うのだけど。


[スペルがわかれば、解析できそうですか?]

[そもそもどうやって書き込んでんだ? インクか電子か、別の魔法的なアレなのか]


 横にいるリレイさんをうかがえば、彼は少し黙考したあと僕を見て言った。


「電子コード……かな。表面には見えないけど、スロットに差し込めば読み取れるやつ」

「お城に、書き込む機械があるんですか?」

「そう。思えば、神使が有効化するときにも何か端末使ってたな……そっかアレがないと駄目なんだね」


 SFジャンルに関しては貧弱な僕の想像力が、店でポイントカードを読み取る機械をイメージした。あそこまで庶民的な見た目ではないだろうけど、神様って運営チームだもんね。日本人の発想なら、僕とそう遠くないかもしれない。

 チャットにリレイさんの話をそのまま書いて伝えると、ややあって長文が返ってきた。技術担当さんだ!


[君の端末ならカードリーダー機能が搭載されているはずだから、代用できるかもしれない。ライブラリの入力画面を開いてそのままカードの上に端末を重ねてみてくれるかな。読み取り可能かこちらで試してみるので、そのまましばらく待っててくれ。]

[わかりました。]


 そっか、最新機種のスマートフォンには読み取り機能がついてるんだ、すごいな。ライブラリも使うのは初めてだ。リレイさんに見られているのが緊張するけど、画面を見るだけならゲーム云々の話はわからないよね……?

 ホーム画面の辞書アイコン、実装されたばかりのライブラリを開いてみる。図書館の背景イラストにメニューボタンが三つ。検索、閲覧、入力、……入力画面を開く。

 リレイさんのアドバイス通り試すのは『緑の浄化』だ。テーブルに乗せて、カードの上にスマートフォンを置いてみた。すぐに画面が切り替わり、Now loadingの文字が画面を走ってゆく。五秒ほどして「データを取り込みますか?」のダイアログがポップアップした。これは「OK」でいいよね?


 恐る恐る選ぶと、再びローディングが始まる。どきどきしながら見守っていると「同期しますか?」と聞かれた。流れのままにOKした途端、スマートフォンが光り出す。もしかしていつもの……と思ったけど緑色だから違う、光っているのは切札のほうだ。

 これも、クォームの謎パワーなんだろうか。リレイさんが真剣な目つきでスマートフォンを見つめていることに緊張しつつ、僕も流れを見守る。『同期』の意味がよくわからないけど、この感じなら成功してそう!

 しばらくして光が収まり、画面に「完了しました」の表示が出た。端末を動かすのが怖くて恐る恐るOKをタップし、慎重にホーム画面へ戻れば、笑顔のクォームに迎えられる。


[何だこれ、広域回復魔法……? 何かすごい効力持ってそうだな。使い方はそっちでわかるのか?]


 視線でリレイさんに確認すると頷いてくれたので、吹き出しに返信を書き込む。


[使い方は大丈夫そう、です。画面に同期って出ましたが、有効化できたんでしょうか?]


 テーブルに置いたままだと文字が打ちにくい。通話に切り替えたほうがいいかと思ったけど、今はできないようだ。さっきので謎パワーを使い切ったのかもしれない。

 少し待って、ログが動いた。


[端末は動かしても大丈夫。有効化というか、端末側にスペルを読み込ませてカードと同期したんだ。本来は使い切りのようだが、これなら魔力さえ補充すればカード自体が損壊しない限りは繰り返し使える。他にもあるなら同じ手順で同期可能、効果や魔力残量は端末の画面で確認できるはずだ。使用方法は一緒にいる天使さんに聞いた方が確実だろうな。不明なことは聞いてくれれば調べるよ。]


 え、なんかすごい! 急いでスマートフォンの下からカードを取り出し確かめてみた。柄や文字に変化はないけど、文字の裏側がほんのり発光しているように見える。

 一度に消費する魔力量がわからないので使い勝手は不明だけど、文字通りの切札になりそうでちょっとわくわくしてきた。ライブラリも開いて確認しないといけないけど、取り急ぎ返事を打って送信する。


[ありがとうございます! あと二枚あるので、試してみます。わからないことがあれば相談するかもしれません。]


 ログにサムズアップがついたので、あとはこちらでということだろう。暴走の心配はなさそうなので、残り二枚、『黒き稲妻』と『紅蓮ぐれんの火炎』も取り出し試してみる。先ほどと同じ流れでエラーが起きることもなく、二枚とも同期が完了した。やったね!


「なるほど、軍務の制御盤コントローラの代わりにこの端末で操作するってわけだ。……どう見てもIT技術系のアイテムなのに、魔力で作動するなんて面白いね。神々が遺していったものに似ているかも」

「えっ、あ、そう、なんですね?」


 浮かれていたところに鋭い指摘が入り思わずうろたえるも、なんかもういろいろバレている気がする。

 このまま中途半端な誤魔化しを重ねてゆくより、ちゃんと事情を打ち明けて協力をお願いしたほうがきっと、いいんだろう。何から話そうかと迷っているうちに、リレイさんが先に口を開いた。


「それ、色からして切札だろうね。ちょっと操作してみてくれる?」

「はい!」


 溜まり切った緊張からか無駄に大きく返事してしまい、恥ずかしくて顔が熱くなる。でも別に赤くなってはいないんだよな……と思いつつ、言われるままにホーム画面を確認して、二度見した。

 吹き出しの上部に、緑、黒、赤の宝石みたいなアイコンが増えている。そろっと指先で触れてみれば、手元のカードと同じイラストが画面に現れた。対象、範囲、消費魔力、という項目が見て取れる。


「なるほど、ここで使用対象や範囲を指定して発動させるって感じか。軍用と同じ使い方だけど、ちょっと手間取るのが難点かな」

「元は兵器ですもんね。手軽には使えないところも切札っぽいです」

「確かに」


 納得したように頷くリレイさんは、さっきより表情がやわらかい。切札が無事に使えそうだから安心したのかもしれない。

 僕も大仕事を終えたような錯覚を覚えて、安堵の息をついた。


「終わりましたかにゃ? ぼく、おしゃかなとパンぜんぶ食べちゃいましたにゃん」

「そうなの? もちろんいいんだけど、結構食べたね!?」


 ずいぶん静かだと思ったら、イーシィってばこっちのやり取りには興味なかったようで、いつの間にかテーブルの食べ物を食べ尽くしていた。

 この子、再会してからずっと偏食してるけど本当に大丈夫なのかな。後でこっそりリレイさんに相談してみよう。




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