[5-4]癒しの金平糖、これからへの迷い
準備ができたと迎えに来てくれたルスランさんの案内で、僕らは応接間に通された。
立派なソファーと高級そうなテーブルがある以外、ここもずいぶんと殺風景だ。調度品や装飾品といったものがほとんど置いてない。
「どうぞお掛けください。緑茶と紅茶、どちらがいいですか? お茶が苦手なら、リンゴジュースとコーヒーもありますよ」
「ありがとうございます。僕は、緑茶で」
「僕はコーヒーがいいな」
「ぼくはリンゴジュースがいいですにゃ」
結局バラバラになってしまった僕らの注文に嫌な顔もせず、ルスランさんは執事みたいに手慣れた様子で飲み物を出してくれた。そうしているうちに、
「秘蔵のワインを持ってきたよ」
「駄目です、お酒は二十歳からですので」
「そうなのかい? 人間は制限が多いのだね。金平糖は大丈夫かな?」
「金平糖なら大丈夫ですね」
王様、ルスランさんにワインボトルを取り上げられてしゅんとしているのが可愛い。
ふかふかのソファーに並んで座った僕らの向かい側に浅葱様は腰を下ろし、カラフルな中身が詰まった丸いガラス容器をテーブルに置いた。
星のような形の砂糖菓子、金平糖。京都のお土産屋さんで可愛く包装されたものを見たことがあるけれど、食べたことは数えるほどしかない。
「綺麗だし、美味しいよ。さあどうぞ」
「ありがとうございます」
勧められるままに数個を手のひらに取り、イーシィにもわけてあげる。猫より太くもふもふの前足は、その見かけに反してとても器用だ。上手に金平糖を受け取り行儀良く食べ始めたので、僕も
思えば、こっちに来てから甘いものなんてほとんど食べていない。金平糖ってこんな優しい味なんだね。口の中で崩れて溶けていく甘さに癒やされながら
「一週間ほど前の夜、日課の
王様の背で、白灰二色の翼がぶわっと広がった。腰とソファーの間から伸びた尻尾が地団駄を踏むように床を叩く。
「
「ここに居ない者へ怒っても仕方ないでしょう。……それで、恒夜さんは入国を希望されるのですか?」
興奮する王様をルスランさんがなだめ、僕へ話を振ってくれた。いよいよこの時がしてしまい、僕は何と答えようか迷う。
ここで言う「入国」とは一時的な居留ではなく、龍都の国民として戸籍登録をするということだ。
一週間前……僕がここへ来て間もない頃かな。黄昏竜も僕の存在を感知して襲ってきたのだろうし、神竜族にはそういう能力があるんだろうか。もしくは、僕が異界の龍神――悪魔かもしれないけど――の
楽しみにしていてくれた王様には申し訳ないけど、僕はまだ龍都の「国民」にはなれない。かといって、次にどこを目指して何をする、という具体的な構想も見えてない。
王様に「神様候補になってもらう」ためには事情を話す必要がある。でも、どこから話そう。クォームの話をすれば、ここが元々ゲームの世界だったって話もしないといけなくなるだろう。それは気まずいし、話すべきではないと思えた。
どちらにしても、ルスランさんの問いには答えないと。切り出し方に迷っていると、隣で聞いていたイーシィがしなやかな尻尾をぱたりと打ち振って言った。
「今後については、こーにゃんとぼくで決めてからお話にきますにゃん。まだそゆ話、全然できてないのですにゃ」
「なるほど。では、今後については日を改めて、ということで……いいですよね、浅葱様」
「えーっ、良くはないよ」
王様は不満そうだけど、イーシィのお陰で時間の
「ありがと、しぃにゃん。王様、ルスランさん、すみません。いろいろ考えたいこともあるので、少し時間をいただけるとありがたいです」
イーシィとルスランさんの言葉を借りる形で返答すると、王様は寂しげにため息をつきつつも頷いてくれた。
「仕方ないね。君たちがどうするかは私の口出しするところではないけれど、恒夜、君は黄昏に狙われているようだから、護衛なしで結界の外へ出てはいけないよ。何なら、城内に引っ越しても構わないからね」
「ありがとうございます」
面倒くさいを繰り返しながら襲ってきた、
僕がこれまで修復してきた所は龍都のような結界に守られているわけではない。彼女が本当に世界の終焉を望んでいるとしたら、一刻も早い対処が必要だ。
王様は城へ泊まるようしきりに勧めてくれたけど、僕とイーシィは一旦、古書店へ戻ることにした。
話したいことも、話すべきことも、たくさんある。今後の方針も決めなきゃならないし、クォームに相談したいこともある。前世というか、かつての僕が住んでいた古書店は、それらに向き合うにはちょうどいい場所に思えた。
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