[4-4]助けの一手、謎の女子と技術担当


 神殿の映写機は、子供たちに里の歴史や昔話を見せるため使われていたものらしい。

 部屋を暗くしフィルムを映写機にセットして、光を当てて白幕に投影する感じ。つまり完全なアナログで、そもそもデータ送付とかいう話じゃなかった。


 この映写機も大崩壊から機能を停止していたのが、神殿の機能回復と同時に動かせるようになったって。先生は子供たちをカーペットの敷かれた床に座らせ、野菜の育て方についての解説を流し始めた。子供たちが夢中になっている隙に機能を検分しようってわけだ。

 胸ポケットからスマートフォンを取り出そうとしたところで軽い振動。明るくなった画面で、ナビキャラクォームが手を振ってる。


[はーい、ルリだよ! データはくぉむの謎パワーで無線送信できるから試してみてね♪]


 え、誰?

 見ず知らずの誰か……おそらく女子から返事が来たことに動揺しつつ、僕は何とか返事を打ち込む。


[すみません、映写機はアナログ仕様なので、データは映写できないみたいです。写真をプリントアウトする方法はありますか?]


 先生が黙って見守ってくれているけど、返事待ちの時間がすごく長く感じる。たぶん一分も掛からず、ログが動いた。


[気合いで!]


 無茶振りきた!

 ここに何と返信したらいいのか思い付かず固まっていると、それほど間を置かずにまたログが動いた。


[失礼、こちら技術担当。エディターボードから神殿の仕様を書き換えることで、機能の追加ができるはず。今からCSSとプラグインを送るから、コピーして試してみ?]


 え、技術担当さん? クォームじゃなく?

 混乱する暇もなく、ログウインドウに読めない文字列が並ぶ。CSSはWebサイトのスタイルを指定するプログラミング言語で、プラグインは拡張機能を追加するためのもの、程度の知識はあるけど。僕は、いま誰とやりとりしているの?

 どう見ても英語ではない、ギリシャ文字をアレンジしたみたいな文字列の一つ目を、慎重にコピーする。エディターボードを開いて画面をスクロールしつつ探せば、下のほうにCSSの項目を見つけた。開いて、貼り付けペーストし、保存して、反映ボタンをタップする。


 いつものような現象は起きなかったけど、更新が完了するとページにプラグインの項目が増えていた。一度トップページへ戻って、もう一つの文字列をコピーする。プラグインの項目を開いてテキストボックスに貼り付けペーストし、保存して、同じく反映。

 映写機は現在使用中だけど、大丈夫かな。ログウインドウに[インストールしました]と打ち込んで送信すれば、即座に[OK]の返事が来た。相手が誰か全く想像できないけど、クォームより手慣れてる感がある。


[映写機本体を再起動すれば、システムが追加されるはず。内部ストレージに写真データを保存して映写できるから、無線送信で試してみな。上手くいかないようなら問い合わせくれれば、対応してやるよ。頑張れ]

[ありがとうございます、技術担当さん]


 クォームでもルリさんでもない、第三の人物。そもそも人かどうかも怪しいけど。

 初心者でもわかる説明って難しいものだから、すごく頼もしさを感じる。お礼を打ち込み送信したら、即座にログにサムズアップマークがついた。え、いつの間にそんな機能がついたの。


 謎パワーは謎のままだけど、言われた操作ならできそうな気がした。スマートフォンを胸ポケットに仕舞い、先生に説明しながら上映が終わるのを待つ。

 システムが更新されたら再起動が必要、というのは一般常識だけど、アナログ映写機にも当てはまるのかな。僕は操作を知らないので先生にお任せするしかない。でもレスター先生はすんなりあくしたようで、僕にあれこれ聞き返すこともなく手慣れた様子で映写機を操作していた。その様子を、集まって来た子供たちが目を輝かせて見ている。


「ささ、皆さん、離れなされ」


 群がる子供たちを下がらせ、レスター先生が映写機を再起動する。カチリというスイッチ音に続けて、ヴォン、という起動音。途端に映写機が銀色の光をまとって輝きだした。

 この光、修復が成功した時にスマートフォンからあふれる銀光と同じっぽい……?


「恒夜さんはしん使様のようですな。昔は年に何度か神使様が里を訪れて、新たな技術や恩寵ギフトを授けてくれたものでしたが」


 しみじみと語る先生の言葉に、なるほどと会得した。年に数回あるシステムアップデートや新仕様追加、神様うんえいからのプレゼントなんかは、そうやって行われていたんだね。

 神使と言われて、クォームを思い出す。彼は龍神みたいな悪魔だから、僕は神使というより……何だろう?


「僕は、ただの旅人です」


 上手い返しが思いつかず、身分を偽る人みたいな言い方になってしまったけど、先生は突っ込んだりせず微笑んでくれた。見れば映写機の輝きは収まっていて、旧式アナログだった機械が見るからに最新型ヘと変わっている。


「今までのスライドフィルムも使用可能のようで。新機能は、追々覚えてゆくとして……恒夜さんの持つ機械との連動は、いけそうですかな?」

「はい、見てみます」


 先生と場所を代わり、新たに増えた操作パネルに触れてみる。コンビニのコピー機にありそうなタッチパネルのメニューを開いて確認すれば、データ受信、閲覧、再生……実装されたのは最低限でシンプルな機能のようだ。

 スマートフォンの写真フォルダを開き集合写真を選ぶと、上部に共有アイコンが見つかった。タップすればリロードが入り、画面に「送信しますか」のポップアップが浮かぶ。恐る恐るOKを選ぶと、映写機のパネルに「読み込みますか」の文字が浮かんだ。


 想像以上にわかりやすい、すごい。本当にこれ、どんな謎パワーなんだろう。

 期待と緊張に震えそうになる指で、OKを押す。数秒の読み込みのあと、パネルに「完了しました」の文字と一緒に集合写真のサムネイルが浮かんだ。


 やった! 成功だよ!




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