[2-8]乗れない僕と、魔獣使いの少女
結論からいえば、やっぱり無理でした……まぁ当然だよね。
見かねた銀君が自分のウエストポーチを首に掛けて、ベルト部分を掴めるようにしてくれた。僕は落ちても怪我はしない体質だし、この辺りは地面が
何度か試してみて、飛んでる間なら比較的安定するってわかったので、練習も兼ねて『銀君に乗って飛ぶ』と『二人で地面を歩く』をおりまぜつつ目的地へ向かうことにする。
半日も乗って落ちてを繰り返していれば、こんな僕でもだいぶ乗れるようになってくるんだから慣れってすごい。
そうして、銀君の想定よりはゆっくりペースだったけど順調に行程を進み、日暮れの時刻に差し掛かる頃合いに。
地平線へ沈みゆく太陽を背景にして浮かび上がる、集落らしきシルエットが見えてきたのだった。
銀君は僕に配慮してくれて低空飛行だったので、すごく目立つことはないはずだけど、人里が見えてきた時点で彼は人の姿になり、残りは徒歩で行くことになった。子供たちが多い里なので、不必要に驚かせないためだという。
これは僕の予想なんだけど、この世界には
なぜかというと、オンラインゲームをするユーザーで特殊な背景や設定を持たないキャラを作る人はほとんどいない、と思うから。
小説やゲームのストーリーを作る上で、
クォームが言ってた『おのずと世界は成長し、存在を確立してゆく』っていうのは、メインキャラもNPCも背景キャラも区別なく、同等の存在……
今さらなのだけど改めて僕は、ここがもはや『ゲームの世界』ではない認識と、世界を修復するという責任の重大さを胸に刻み込んだ。
「銀君、もしも僕が里の子供たちに失礼な言動を働いたら、遠慮なく叱ってね?」
「突然どしたの!? 大丈夫だって、こーやんはちゃんとしてるよー!」
動画や写真で見た砂漠に沈む夕陽は強い朱色のイメージがあったけど、砂が白いせいか、地面に落ちかかる残照は薄紫とオレンジが入り混じる不思議なグラデーションだ。隣を歩く銀君の表情はだいぶ見わけにくくなってきたけど、夕陽を飲み込む真紅の目は光を放つように輝いている。魔狼の血を引く彼は、暗闇で目が光るタイプなのかな。
すっかり日が落ちるまでに到着できるか心配だったけど、それは思わぬ形で
光量の落ちた
銀君が立ち止まり、空に向かって手を振った。左右に大きく広がった翼、そのわりに胴体部分は大きく、絶対に鳥のシルエットじゃない。待って、あの姿、もしかして――。
「ラチェ、アズル! 僕だよー! 友達も一緒だよ!」
銀君が大声で飛びかけた、と同時。真上に到達した影が風を巻かせて僕らの目の前に降りてきた。
金と茶が入り混じる
「グリフォン!」
と、その背中に誰か乗ってる。すごい、もしかして魔獣使いってやつ!?
手には小型のクロスボウ。巻き上げ式になっていて、少ない力でも強力な一撃を繰り出せる小型弓……だっけ?
「そそ、グリフォンのアズルと、ラチェルだよ。ラチェ、こいつは
「銀ちゃんの友達なら大丈夫だね。ふたり、今夜は泊まってくの?」
「うん、そっちは大丈夫かな? 食べるものは持ってるから、何もお構いなく屋根だけ貸してもらえればいいんだけど」
「えー一緒にごはんしようよ! あたし、先生に伝えてくるから」
口を挟むタイミングがわからずぼうっと眺めるだけの僕の前で、あっという間に今夜の予定が決まってく。
ラチェルという名前の女の子は銀君と親しいんだろう、嬉しそうに声を弾ませて手綱を引いた。大きな翼が空を叩き、砂混じりの風が逆巻いて僕と銀君の髪や服をはためかせる。
グリフォンってあんなに大きいのに、助走なしで飛び立てるんだ……。
「こーやん、ほらしっかりしなよ。すっかり暗くなる前に里に入らないと」
バシバシと軽く背中を叩かれて、「んあ」みたいな変な声が出た。自分の声を自分で聞いて、はっと我に返る。
「ごめん銀君! グリフォン、格好良すぎて!」
「わかる、格好いいよね! あの子たちは里に住んでるから、明日じっくり見せてもらうといいよ!」
ゲームや小説では危険なモンスターとして出てくることが多いグリフォンを、まさか手懐けて乗りこなしてるなんて。あの子、いったい何者なのかな。
せっかく銀君が紹介してくれたのに自己紹介もまともにできなかった自分を反省しつつも、浮つく心は抑えきれなかった。
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