[2-6]魔狼の添い寝、懐かしいこえ
食事をしながら、銀君にも僕が見た光景をかい
僕がそれを見たことについては、特に突っ込まれなかった。気にならないはずがないと思うけど、気を遣ってくれたんじゃないかな。
よくよく考えれば、僕は食事だけでなく睡眠も必要ない体質なんだよね。
銀君が倉庫から毛布を何枚か出して簡易の寝床を作っている間に、僕は空の容器を集めてダストボックスへ。倉庫には
歯磨きに保存水を使うのは心苦しいけど、僕はともかく銀君に
「すごいなー、ここ。食料とか薬だけでなく、武器も備蓄してあるよ。こーやん、銃は使えないの?」
「えっ、銃があるの?」
一般的な日本の中高生が銃に触れる機会なんて普通は皆無だから、当然使い方なんてわからない。それでも、本物の銃と聞けば心のテンションがちょっと上がってしまう。
急いで駆けつければ、何やら重装なケースの中に拳銃と
「
「ううん、事故が怖いからやめておく」
心
自衛のすべについては考えるべきだけど、自分にできることがまだ
「じゃ、僕が持っとこかな。残り五発か……ま、十分だろ」
「すごい。銀君、拳銃使えるんだ?」
「両手でならねー。僕、魔法向けの種族特性なのに魔法苦手で」
「そうなんだ」
ダークエルフといえば攻撃系の魔法って印象があったけど(
でも、さっき僕を助けてくれた時は、銃声なんて聞こえなかったけどな……。
「さてさて、暑くなる前に動きたいから、今日はもう寝よ。シェルター内っていっても砂漠の夜は冷えるから、僕がお布団になってあげるよ」
「うん、え?」
今、なんて? と、聞き返すまでもなかった。ぐんと伸びをした銀君の
えぇっ、銀君って変身できる
「これで、くっついて寝ればあったかいよ」
「びっくりした。この姿が魔狼? もしかしてさっき助けてくれたのも」
「そそ、僕より小さい生き物になら脅しが効くんだよね。僕はそんな強くないから、でかいの相手だと逃げるしかないけど」
あのとき一瞬見えたのは、魔狼姿の銀君だったのか。
動物を飼ったことがない僕は、毛皮に包まれたいきものをあまり触ったことがない。ちょっと腰が引けつつも隣に行って靴を脱ぎ、横になってみる。大きな尻尾をふぁさっと被せられれば、思った以上にあったかかった。
「おやすみ」
頭上から声が降ってきて、毛布も被せられた。眠らなくてもいい体質のはずなのに、そうやってぬるくやわらかい闇に包まれると睡魔が一気に襲ってくる。
おやすみ、と返したどうかも覚えてない。あっという間に、僕の意識は闇の底へと落ちていった。
不意の
昨日までと違うのは、スプリングの利いたベッドではなく毛布を敷いただけの固い床だってことと、背中に規則正しい寝息と体温が感じられること。もう記憶にもない添い寝の懐かしさに浸りながら、端末をなぞってロックを解除する。
「お父さん」
いろいろあり過ぎて、気が回っていなかった。震える指で、メッセージを開く。いつもの淡々とした文面で、無事に現地へ到着したか心配する内容と、困ったことがあればすぐ連絡するようにとの
どうやら僕はオーストラリアへホームステイ中ということになっているらしい。オーストラリアどころか海外は一度も行ったことないので、現地への言及はやめておいた。明日にでもクォームに情報を横流ししてもらおう。
[気候も文化も実際に来てみると想像と違っていて、不慣れなことばかりだけど、同い歳の友達ができました。すごく親切で、いろいろ気にかけてくれるので、楽しく過ごせてます]
これは、嘘じゃない。文章を打ち込み、送信する。不意にとてつもない郷愁と寂しさが襲ってきて、シャツの袖で
僕は、頑張ろうと思う。自分で選んだ道を、後悔せずに進むために。
しばらくそうやって心を落ち着けてから、執筆の続きに取り掛かる。相変わらずのぬるい体温とやわらかな毛皮が気持ちよかったけど、眠気はすっかり飛んだらしく目も頭も冴えている。
明け方近く、四時くらいまで執筆を続け、保存して
クォームは『反映』ボタンを押せば修復が始まると言っていた。これでいいと思うけど、自信があるわけじゃない。さっきとは別の緊張で震える指を滑らせ、息を止めてボタンをタップした。
一秒にも満たないローディング時間がひどく長く思えて。
画面が切り替わると同時に、あのときと同じ不思議な銀光がスマートフォンの画面からあふれ出した。
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