[1-9]白い砂漠、旅のはじまり
見渡す限りに広がるのは、
地面と
空は、ひたすら青かった。不自然なほど雲がなく、作りもののようにあざやかな
天頂に輝く太陽は
「ひどい」
正直な思いが口をつき、お腹の底に暗い怒りが
今は、その面影もないけど。
「無理やりの干渉だから
ここまで来てやめにするなんてない。正直、この状態からどうやって目的地への経路を割り出せばいいのか見当もつかないけど、圏外なら仕方ない。
クォームがこじ開けた空間の割れ目が閉じてゆくのがわかる。僕は頷き、消えてゆく彼に向けて大きく手を振った。
「いってきます!」
その瞬間、銀の光が弾けて散った。同時に、信じられないほどの暑さが襲う。
慌てて辺りを見回すも、日陰のような場所はどこにも見当たらない。
「うわぁ、そっか砂漠だもんな。昼間は想定40℃……熱中症で死ぬ!」
暑さの原因が太陽光線なら服は脱げない。死なない呪いの加護で火傷しないとしても、熱いものは熱い。たぶん地面の温度はそれ以上だろうけど、スニーカーのゴム底が溶けたりはしてないので、加護は僕の身体だけでなく持ち物にも働いているらしい。
砂漠のトカゲは足を火傷しないために踊るような歩き方をするというし、僕もとにかく歩こう。スキップでもすればいいのだろうけど、砂漠慣れしていない上に運動音痴の僕では奇妙な踊りにしかならないのでやめておく。
気休め程度にフードを被り、歩きながらスマートフォンのロックを解除した。いつものように画面をスクロールしようとして、ホーム画面が変化しているのに気づく。
見覚えのある、でも全く同じではない画面。
「まさかのステータスオープン!?」
上から太陽が照りつけるだけでなく、白い地面にも光が反射するので画面が見にくい。自分の影で明るさを抑えつつ、見慣れたアイコンをタップする。無情なメッセージが表示されることもなくスムーズに画面が切り替わり、やはり見慣れたステータス表示が現れた。
名前は、恒夜。誕生日は四月十六日、年齢は十六歳。
本当に生身の僕が数値化されているけど、レベルが1で戦闘魔法技能習得なしと、だいぶ情けなかった。種族は……とスクロールして、思わず二度見する。日本人って書いてあるのかと思えば、そこにあったのは意味不明の記述。
「銀竜の
いや、意味はわかった。そういうことか、なるほどね。
衝撃の事実に、はぁとため息が漏れ出た。
「そっか、僕、今ほんとに人外なんだ」
クォームの言っていたことを改めて実感する。暑いものは暑い、痛いものは痛い。でも、おそらく本当の生身であればこんなものでは済まないはずだ。
わざわざ悪魔を名乗った彼の本心が好意なのか、何か目的があるのか、今の時点で判断できないけど、一切の生命が否定されるようなこの現状でも思考が焼き切れることなく活動できることを、ちゃんと感謝しよう。
他にも色々と謎機能が追加されてそうなスマートフォンをじっくり確認したいけど、せめて休める場所を見つけないと。
あとは、誰でもいいので生きている人をさがしたい。砂漠で迷子になって
一時間ほど歩き続けて(時計表示は機能していた、すごい)ようやく、廃墟っぽい場所に辿り着いた。
現在時刻、午後三時過ぎ。崩れかけた建物が落とす影の下に入って、倒れた柱らしきものに腰掛ける。ここまで、ずっと暑かった。喉もカラカラだけど僕は水を持ってないし、ざっと見渡した限り水場っぽいものもない。
そういえばクォームが、今の身体は飲食不要って言ってたっけ。水を目にしても飲めないとかだったらメンタルが干からびる気がしたので、今は考えないことにした。代わりにスマートフォンの画面をタップして起動し、ロックを解除する。
「ホーム画面は
見慣れた表示と少し違うものの、世界地図が中央に載っているのは同じだ。とはいえ、タップで目的地へ移動できるわけじゃなく、方向を見定めて歩かなくてはいけない。世界地図では規模が大きすぎて途方に暮れるばかりだ。
ふと、ステータスボタンの隣にある
「……え、電話?」
[おぅ
通話の音質は不安定だけど、クォームの声ははっきりしていて聞き取りやすい。思いがけないことにびっくりして固まっていた僕だけど、ざざっとノイズが混じり始めたので急いで返答をする。
「すごい、心強い! クォームさん、僕いま中央聖堂があった辺りにいると思うんだけど、方向がわからなくて」
[オレ様が現地入りできてたら乗せてやるのになー。えーと、そういう時は……なんだって? 同盟申請機能?]
「はい?」
画面の向こうでクォームは誰かと会話しているようだ。ノイズが酷くてよく聞き取れないけど、女の子の声に思える。
言われるままに総合メニューを探せば、本来は一般国民に扱えるはずのない「同盟申請」のボタンが追加されていた。「隣国へ申請」が明滅しているのに気づき、とりあえずタップ――したところで、物音と気配を感じ思わず振り向く。
いつに間にか僕は、大型動物の群れに囲まれていた。
目が日陰に慣れてしまって逆光の方向が見えにくいけど、あの独特のシルエット、間違いない。
「ごめんクォームさん、話は後で! ハイエナの群れに囲まれたっぽいので、逃げます!」
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