第109話・禁断症状の貧乏ゆすり状態


 六十一階層に降りてすぐの入口広場的な空間は、幸いにして溶岩が噴き出したりしていませんが。


 少し進むとさらに開けた空間になっていて、そこはもう灼熱溶岩地帯といった趣きです。


 少なくとも、普通の生き物が生存できる空間ではなさそうですし、サウナに入っているみたいな熱気と不快感が肌とノドと肺に襲ってきます。


 これはなかなか、ハードそうですね。


「特殊環境型か。よくあるやつだが、この深度でこれは面倒だな」


 ソウ兄ちゃんも目を細めて言います。


 ロビンちゃんたちは見るからに「うわぁ……」って顔をしていますし、天秤会女子たちも似たような感じです。


「これ、ナナシの結界でなんとかなんねーのか?」


 うーん……。一応、遮熱とか断熱効果を持たせたり、内部空間を冷やしたりとかの効果は持たせられると思いますけど……。


「なにが不満なんだよ」


 不満、ということもないんですけど。


 いえ、試しに使ってみましょうか。結界作成。


 僕は、この空間内で快適に過ごせる機能を備えたカベコプターを作ってみて、動かしてみました。


 ……うーん。やっぱり、


「この環境に適応したカベコプターを作成したままでの戦闘は、攻撃用の結界に回すリソースが不足するかもしれません」


「あん? どういうことだ?」


「僕の結界術って使用中は常に魔力を消費してるんですけど、それとは別に一度に展開できる限界量があるんですよね」


 今、僕の結界って、ダンジョン内のいろんなところにいろんな形で張り巡らせてあるんですけど。


 それらを維持したままだと、新しい結界を作成するために使えるリソースが少ないんですよ。


「なので、このエアコン付きカベコプター、略してエアコプターでこの中を進み続けるのなら、エネミーに向けて使う各種結界攻撃用のリソースにちょっと不安が残るというか……」


 たぶん、エアコプターを使ったままだと、他の皆さんはまともに戦闘できない(いちいち乗り降りするの面倒ですし)気がしますし。


「つまり、魔力は足りてるけど、スキル操作の処理が追いつかねえってことか?」


 そうですね。

 そんな感じです。


 するとメラミちゃんは、なんだか訝しげな表情をしました。



「思うんだけどよ、ナナシ。……お前ここ最近、集中できてなくねーか?」



 へ?


 ……と、いうと?



「いや、なんか、お前の魔力の流れ見てるとよー。最初にアタシをボコったときのほうが、魔力の流れが洗練されてたと思うんだよな」


 …………えーと、ほんとですか?


「ああ。いやまぁ、お前がお嬢様のことで焦ってるのは分かんだけどよ……。それにしてはなんか、精彩を欠いてるっつーか……」


 するとキャベ子さんが、首を傾げました。


「そうなのか? 現時点のナナシでも、十分綺麗な魔力をしていると思うが」


 舌触りも滑らかだぞ、とキャベ子さんが言います。


「いや、アタシは魔力の流れが目で見えるし、コイツの以前の魔力操作を見てるから分かるんだけどよー。前はもっともっと揺らぎのない、静謐な魔力操作をしてた。見た瞬間ゾッとするぐれーのな」


 けど今はそれが乱れてる、とメラミちゃんは言います。


「ふむ……。マイブラザーの強さの底はまださらに深いということか……。なるほど、面白い」


 ソウ兄ちゃんが、どことなく嬉しそうにうむうむと頷いています。

 さすがは俺の弟だ、という表情ですね。


 しかし、うーん……。


「いや、はい。そうですね。……たぶん、集中は乱れてると思います」


 そしてその理由も、分かっています。


「えっと、今日のところは、六十階層に戻って地上に帰還しましょうか。その、……メラミちゃんとキャベ子さんには、お家に戻ってからちょっとお話があります」


 そういうわけで、ゴリラゴーレムの魔石と天上鋼のインゴットは天秤会に渡し、僕たちは地上に帰還したのでした。




 ◇◇◇


 そして、夜。

 拠点の僕の部屋に、メラミちゃんとキャベ子さんに来ていただきました。


 本当は、イェルン姉さんとかミーシャ姉さんも呼ぶべきなのかもしれませんが、


 ……ちょっと、怖いので。


 まずは、結界同盟のお二人をお呼びしました。


「で、話って?」


「内緒話なのか?」


 はい。僕が、どうして集中できてないかの話です。


「ほーん。自分で理由が分かってんのか?」


 はい。


 ……その、実は僕、とある趣味というか……、趣向というか……、



 ……ちょっと変わった、性癖がありまして……。



「……ほーん?」


「ん、任せろナナシ」


 と、いきなりキャベ子さんが着ているマントをバサリと脱ぎ、それから服を始めました。


 ちょ、キャベ子さん!?


「詳しくは分からないし、ワタシも経験はないが……。ナナシも男の子だということなんだろう? ならば任せろ。これでもワタシは女だ。きっと役に立ってみせる!」


 あっという間に下着姿になって半裸をさらすキャベ子さん。


 思ったよりも細い体つきや、程よいサイズのお胸、割れた腹筋や引き締まったお尻、スマートなお足が丸見えになりました。


 お、お足……!


 ごくり……!


「……おい、まさかアタシにも同じことしろって言うつもりか?」


 あ、いえいえ!

 違いますメラミちゃん!!


 その、キャベ子さん、お気持ちは嬉しいのですが、おパンツまでは脱がなくて大丈夫です……!


 下着に手をかけていたキャベ子さんが首を傾げます。


「そうなのか? ……着たままズラして、ということか?」


 いえその、そうではなくて!!


 その……、実は僕、



 ……可愛い女の子の、お足が好きでして。



「……あぁ、どうりでお前、女見てるときの目線が低いんだな。胸とか股かと思ってたが……、そうか、足か」


 ふーん、と言いながら、メラミちゃんは自分の下半身に目を向けます。


 ホットパンツから伸びる健康的な生足が、そこにはあります。


「……で? 足が好きってのは、具体的にどういうやつなんだよ。踏んでほしいのか? 挟んでほしいのか? まさかとは思うが、締め上げてほしいとは言わねぇよな?」


 ああ、えっと、それも魅力的ではあるんですけど……。


「魅力は感じるのか……」


「では、どうしてほしいんだ?」


 ……その、ですね。



「お足を、……その、……舐めさせて、いただければ……」



 僕の言葉を聞いたメラミちゃんとキャベ子さんは、お互いに顔を見合わせたのでした。

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