第108話・天秤会、合流


 六十階層突破の翌日十六日目翌々日十七日目は、お休みになりました。


 どうやら皆さん、この数日で相当の疲労が溜まっていたらしく、メラミちゃんはたまにご飯を食べる以外ずっと寝続け、キャベ子さんは半分寝ながらもご飯を食べ続け、


 ロビンちゃんは作曲中に熱を出して寝込んでしまい(三重回復結界を張ったら一晩で完治しました)、ユニ子ちゃんは窓から空を見たままぼーっとし続け、ヘリーちゃんは「スイパ(スイーツパーティーの意)してくる!!」と言ってメイドの皆さんとともに甘い物を食べに行ってしまったそうです。


 僕はというと、鉄道に乗って帝都に戻り、最高学校に行って教授に会いました。


 で、六十階層のフロアボスからドロップした金属インゴットを見てもらったところ。


「……お前さん、これはおそらく天上鋼コスモスチールじゃぞ。まさか生きているうちに実物を目にすることができるとは……」


 教授は、しげしげとインゴットを見つめながら言いました。


 というか、えっ。


 天上鋼と言いましたか?


「これ、天上鋼なんですか?」


「ワシも見るのは初めてじゃが……。特徴からして、間違いないのぅ……」


 なんと。ということは、グロリアス王国の五つの至宝のうちの一つ、天上鋼の王冠の材料が、このインゴットなのですね。


 ほほう。これはこれは。


「教授。この天上鋼は、加工の難度はどの程度でしょうか」


「ん? うーむ……。まぁ、いうて金属じゃから、鍛冶スキルか彫金スキルあたりがあれば加工できるとは思うが」


「なるほど。分かりました。ありがとうございます」




 というやりとりの翌日、鉄道に乗って迷宮都市に戻り、フェアネス殿下にお願いをします。


「これ、天上鋼っていう金属だったみたいなんですけど、これで作りたい物があるので鍛治師さんか彫金師さんを紹介していただけませんか?」


 突然のお願いに驚くフェアネス殿下でしたが、ひとまず了承していただけました。


 数日以内には、皇室お抱えの職人さんたちがこの拠点に来てくれるそうです。


 で、職人さんを呼ぶかわりに、皇室にも天上鋼のインゴットを献上してほしいと言われてしまいましたので。


 十八日目に一回。

 中二日休養して、二十一日目にもう一回。


 六十階層のフロアボス(仮称・ゴリラゴーレム)を、結界同盟の三人で討伐しました。




 で、休養日の二十三日目に職人さんたちが来てくれたので。


 フェアネス殿下に一つ、職人さんたちへのお礼に一つ天上鋼のインゴットを渡し、


 一緒に戦ってくれたメラミちゃんとキャベ子さんには、一つずつゴリラゴーレムの魔石を渡しました。


 この日と二十四日目は職人さんたちの技術を見せてもらうことに注力し、最後に王冠用のインゴットを鍛冶スキルで冠型に変形してもらいました。




 ◇◇◇


 そして、二十五日目。


「今日からよろしく頼む。マイブラザーナナシ


 はい。こちらこそです。


 結界同盟with勇猛楽団に、今日からAランク冒険者パーティー天秤会(ソウ兄ちゃんのパーティーです)の皆さんが合流しました。


 それというのも。


「ごめんねナナシ。皇帝陛下おとうさまが、どうしても一緒に行かせろって言って聞かなくて……」


 フェアネス殿下のご説明いいわけを聞くに。


 どうやら僕たち結界同盟with勇猛楽団が、予想以上の速度で迷宮を攻略して帝国に利益をもたらしているということで、皇帝陛下がたいそうお喜びになっているそうなのですが。


 ガンガン行ってほしいけど、これで無理してポロっと死なれたら困るよね、とか思ったらしく。


 お目付け役がわりにソウ兄ちゃんたちのパーティーが同行することになったみたいです。


 ソウ兄ちゃんは二つ返事でオーケーしたみたいですし、僕としても人数が増えてワイワイできるほうが楽しいのでオーケーしました。


 それに、メラミちゃんやキャベ子さんはともかく、勇猛楽団の三人は連日のダンジョン攻略で疲労が抜けきらなくなってきている様子なので、


 人数を増やして守りを厚くすれば、もう少し疲労も抑えられるかな、と。


 最近の探索での一回一回の戦闘の激しさとか移動の長さとか、そのあたりのあれこれはあると思いますが、


 僕としては、勇猛楽団の皆さんには最後まで一緒に探索をしてもらいたいと思っていますので、


 天秤会の皆さんの戦力には、期待したいと思います。


 そういうわけで、ご挨拶です。


「ソウ兄ちゃん以外の皆さん初めまして。僕はナナシです。今日からよろしくお願いします」


 僕が頭を下げると、天秤会の皆さんもめいめいが言葉を返してくれます。


「はーい、よろしくね♡」


 愛想良く挨拶してくれたのは、赤髪ショートツインテのカイカちゃん。


「よ、よろしくね」


 少しオドオドした様子なのは、青髪外ハネロングのシャラちゃん。


「皆さん、仲良くしてください〜」


 どことなく健気な様子なのは、金髪ポニテのニニノちゃん。


 今回から一緒に行動する天秤会の皆さんは、ソウ兄ちゃんプラス女の子三人です。


 つまり僕たちは、合わせて十人の大所帯でダンジョン探索をするということになりますね。


 うーん、にぎやか。

 そして女子率が高い。


 カベコプターの中が今まで以上に華やかになりそうです。


 惜しむらくは、天秤会の皆さんがお足の見えない服装をしていることでしょうか。


 いえまぁ、メラミちゃんやヘリーちゃんみたいに肌面積の多い服を着ているほうが少数派なんですけどね。


 それでもやっぱり、……ねぇ?


「おいナナシ。指吸ってないで早く潜ろうぜ」


 おっと。いけないいけない。

 僕は右手から口を離しました。


「とりあえず今日は、五十階層から始めて皆で六十階層のクリスタルにタッチしに行きましょうか」


「良いだろう」


 と、ソウ兄ちゃんが頷いて、出発することに。


 皆で一緒にダンジョンゲートを潜り、五十階層のクリスタル前に転移すると、


「結界作成」


 カベコプターを作成し、様々なリアクションを浮かべる皆さんを乗せて六十階層までの最短ルートをすいすいと飛んでいきます。


 もう何度も通ってルートも覚えていますし、最短ルートは僕の結界ランプで道標を作っているので道に迷う心配もありません。


 そうしてとちゅう休憩を挟みつつ、出てくるゴーレムは両断しながら階層を下り続け、六十階層のボス部屋に入ったら、


「ヌンッ!」


 初手、キャベ子さんのガオン斬でゴーレムの額の文字を消し飛ばして倒します。

 もはや慣れたものですね。


「…………ほう」


 感心するソウ兄ちゃんと呆気に取られる天秤会女子の皆さんを横目に、慣れた手つきでメラミちゃんがドロップした天上鋼と魔石を回収。


 そのままボス部屋を出て六十階層のリトライクリスタル前に到着すると、ソウ兄ちゃんたち天秤会の皆さんの冒険者証をタッチさせました。


「うん、時間もいい感じですね」


 朝から潜って最短ルートでここまで来ると、だいたい夕方前の時間になります。


 冒険者ギルドに寄ってミーシャ姉さんに報告して、家に帰ってフェアネス殿下に報告して、イェルン姉さんと一緒にオヤツを食べて、ってするのにちょうど良い時間ですね。


「はい、それでは明日から六十一階層に挑んでいくわけですが」


「うむ」


「ちょっとだけ、様子見をしていきませんか?」


 と、いうことで。

 試しに皆で六十一階層に降りてみると。


「……わーお」


 そこには、そこらじゅうから溶岩の噴き出す、超アチアチの空間が広がっていたのでした。

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