第107話・ゴリラゴーレム討伐戦


 ◇◇◇


 十三日目おとといは五十七階層と五十八階層を攻略しました。


 十四日目きのうは五十九階層を攻略し、六十階層の入口部屋まで到達しました。


 そして攻略開始から十五日目の今日。

 六十階層のフロアボスに挑戦しました。


 六十階層のフロアボスは、見たこともない色合いと輝きを放つ金属でできた、巨大なゴーレムでした。


 全高は十メートル近いでしょうか。肩から足先までの長さの腕が四本と、短い二本の足。背中から四門の砲門が伸びていて、顔には大きな赤い一つ目(カメラアイ、みたいな感じ?)が。


 単眼巨躯の四腕ゴリラ。

 と表現すると、イメージしやすいでしょうか。


 しかも腕はある程度自由に伸び縮みするらしく、開幕早々から四本腕をやたらめったら振り下ろしてきて、ボス部屋内の地形が変わる勢いで連打されました。


「おっひょおおぉ〜〜〜っ! これはヤバたん! ヤバたにえーん!!」


 ヘリーちゃんがハシャギます。

 僕はそれどころではありません。


 振り下ろされた拳の一発一発が小型ミサイルかというぐらい激しく、重いです。


 僕の結界も防御力重視で作成しないとミシミシと軋むぐらいには強力な攻撃で、しかもゴーレムなので息切れもしないしラッシュの速度も落ちないという状況。


 ラッシュの合間には背中の砲門からエネルギー砲みたいなのをドカドカ撃ってきますし、攻撃のために近寄る隙がありません。


 するとそこでキャベ子さんが。


「ナナシ。任せろ」


 大量の魔石をバリボリと噛み砕いて飲み込み、グラ剣を両手で持って精神集中。


 そして、裂帛の気合いとともに「ヌンッ!」とグラ剣を突き出しました。


 瞬間、振り上げていた四つ腕のうちの一本が、根本からちぎれて飛んでいきました。


 え、すごい。

 今のはいったい。


「ヌンッ!」


 さらにもう一度、グラ剣を突き出します。

 今度は反対側の腕が一本吹き飛び、同じ側のもう一本の腕も肩口のあたりが半分ほど消し飛んで動かなくなりました。


「……円形に、削り取った?」


 ユニ子ちゃんがぼそっと呟きました。


 おお、なるほど。

 よく見ると、肩口の断面は直線ではなく弧を描いています。


 おそらく、直径五メートルほどの円形範囲を、食べてしまったのではないでしょうか。


 暗黒空間にバラまいてやる!

 ってな感じなのでしょう。こわい。


「……うぷっ。お腹が重い……」


 キャベ子さんがガクリと膝をつきました。


 えっ!?

 グラ剣じゃなくてキャベ子さんが食べたんですか!?


 ちょ、ダメですキャベ子さん!

 ペッしてください! ペッ!!


「お腹壊しますよ!?」


「大丈夫だ、昔空腹に耐えかねて錆びた釘を食べてみたことがある。問題なく消化できた」


 キャベ子さん、悪食はほどほどにしてくださいね……!?

 またここから帰ったらタマゾン姉貴ネキの美味しいご飯が待ってますから!!


 コクリと頷いたキャベ子さんを横目に、メラミちゃんが呟きます。


「……ナナシ。薄刃なら、アイツ斬れるか?」


 え? えーと、たぶん、はい。


「……アタシが隙を作ってやるから、あのデカブツが斬りに来い」


 それだけ言い残すと、メラミちゃんは結界の後ろ側から外に飛び出し、エネルギー砲(魔導砲、っていうんですかね?)の連打をかいくぐってゴーレムに肉薄します。


 そして、飛びこみながらの右裏拳(弱パンチ)から、


 左足でのローキック(弱キック)、


 右ストレート(スタンパンチ)、


 左フック(中パンチ)、


 右前蹴り(中キック)、


 左回し蹴り(強キック)、


 右ストレート(ノックバックパンチ)、


 左逆水平チョップ(スタンチョップ)、


 足払い(下段キック)、


 からの、


「くら、えぇぇ……っ!!」


 最近習得した右アッパー(ダウンパンチ)を、全力で叩き込みます。


 すると。


「ナナシ!!」


 なんと驚くべきことに、全高十メートル近い巨体がふわりと浮き上がり、背中から地面に転倒しました。


 普通ならありえない体重差なのですが、そこはメラミちゃんのスキル、格闘遊戯術の特殊攻撃と、


 それらを繋いだによる威力上昇のたまものです。


 僕は薄刃結界を作成しながらゴーレムに駆け寄り、起き上がろうとしている巨体の上を走って頭部に近づき、


「えいっ!」


 赤い一つ目の上に刻まれた文字列の、左端の一文字を切り裂きました。


 ロビンちゃん曰く、全てのゴーレムは体のどこかにこの文字列があり、左端の一文字を削ると倒せるようになっているみたいです。


 今までは気にしたことはありませんでした(全部真っ二つにしてきましたので)が、さすがにこれだけ暴れる相手なら、急所に一撃がマシでしょう。


 そして僕が薄刃結界を構えたままゴーレムの胴体の上で立って見守っていると、やがてゴーレムの一つ目から赤い光が消えて動かなくなりました。


 ゴーレムの巨体が光になって消えていき、後には不思議な色の金属のインゴットと、かなりの美しさと大きさの魔石が残りました。


「……あー、疲れた」


 メラミちゃんがその場に腰を下ろして、天を見上げます。

 結界の中からキャベ子さんや勇猛楽団の三人が出てきました。


「ナ゛ナ゛シ゛さ゛ぁーん!!」


 感極まった様子のロビンちゃんが、泣きながら抱きついてきました。


 うわっ、大きなお胸に顔が埋もれます……!

 ちょ、苦しい……!


「私、ナナシさんについてきてほんとにほんとに良かったですぅー!! こんな、こんな素晴らしい闘いが見られるなんて……! ああ、また帰ったらこの感動を歌にしないと……!!」


 僕をむぎゅっと抱きしめたまま力の限り吠えるロビンちゃんに、ユニ子ちゃんとヘリーちゃんがやれやれと肩をすくめます。


「これはまた徹夜コースだね」


「いやぁ、さすがに今夜はちゃんと寝ないとっしょ」


 それから二人でロビンちゃんを引きはがしてくれて、僕はようやく柔らかいお胸から解放されました。


 ふぅ、助かった……。


「おら、ナナシ。ロビンの乳に見惚れてねーで、部屋出んぞ」


 いや、見惚れてはないですけど。

 僕、オッパイ星人ではありませんので。


「ナナシ。この魔石と金属は、どちらも見たことのない美しさだな」


 歩けるようになったキャベ子さんがドロップ品を拾ってきてくれました。

 確かに、このインゴットは何の金属なんでしょうね。


 とりあえず僕たちは、ボス部屋から出て六十階層のリトライクリスタルをタッチし、それから地上に帰還しました。


 なにはともあれ。

 六十階層、無事にクリアです。

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