第091話・帝都からの呼び声


 ◇◇◇


 辺境伯様のお屋敷で執り行われた表彰式はつつがなく進行し、予定通りの流れで終了しました。


 そして式が終わってから控室で待機していた僕とメラミちゃんは、辺境伯様との会談準備が整ったということで、別室へ案内されます。


 案内された小部屋(といっても、そこらへんの民家よりは広いのですが)の真ん中には豪華な装飾がなされたテーブルがあり、テーブルを挟んで対面するようにふかふかの椅子が三脚ずつ置かれています。


 僕たちが部屋に入ると、ここまで僕たちを案内してきたメイドさんが扉を閉め、部屋の隅に静かに移動しました。


「よく来たね。掛けたまえ」


 そう声を掛けてきたのは、先ほどまでの表彰式で僕たちの前でことさら豪華な椅子に座っていたおじさんです。今は、三脚並んだ椅子の真ん中の椅子に腰掛けています。


 このおじさんは、ここブライト辺境伯領を統治する大貴族家のご当主様で、要するにこのあたりで一番偉いおじさんです。


 辺境伯様の言葉に従って、僕とメラミちゃんは辺境伯様に向かい合う形で席に着きました。


 僕は改めて辺境伯様に頭を下げることに。


「この度は……」


 すると辺境伯様が、手をかざして僕の言葉を遮りました。


「形式ばった礼の言葉は不要だ。この部屋にいるうちは、な。それに礼を言うならこちらのほうだ。よくぞあの大喰らいを倒してくれた。この国を率いていく立場にある者として、また、一人の帝国人として、感謝に絶えない」


 僕は、黙って辺境伯様の言葉を聞きます。


「さて、こちらとしては、できる限り君たちの功績に報いたい。あれは我々の遠いご先祖様たちが未来に託さざるを得なかった、大きな大きな負債のひとつだった。現生する災害級巨獣の中でも最古にして最大の化け物。帝国建国当初から何度も帝国の発展に暗い影を落としてきた、凶悪な移動要塞だ」


 ほほう。そこまで嫌われているなんて。

 よほど多くの人や物や土地に被害を出してきたのですね、あの大亀は。


「それが、これほど若い君たちに討伐され、しかもその亡骸は多くの使い途がある状態で残っている。巨大な甲羅は言わずもがな、肉や骨も完璧な毒抜きがなされていて、あらゆる加工方法で活用できそうだとか。近ごろは明るい話題も少なかったことだし、これほどの良き報せは久しぶりのことだとも」


 あー、大結界の浄化力を強化しておいたのが、そういうふうに効いているんですね。

 結界の効果で保存も効くようになっていますし、なるほどあの巨体なら食べ応えがありそうです。


「私は考えた。どうすれば君たちの働きに報いることができるだろうかと。冒険者ランクがAまで上がるように働きかけもしたが、まだまだその程度では。討伐報酬及び素材の買取報酬も色を付けて用意したが、それでもまだまだ足りないだろう。……そこで、だ」


 辺境伯様は、ニコリと人の良さそうな笑みを浮かべました。


「私は、あてに手紙を送った。そして私の訴えは聞き届けられた。昨晩、君たちのところにも手紙が届いたのではないかね?」


 僕は、コクリと頷いて、懐から昨日の手紙を出してテーブルの上に置きました。


 皇帝陛下の一族のみが使用できる紋章で封印された封筒を見て、辺境伯様がいっそう笑みを深めます。


「よろしい。その手紙に書いてあるように、君たちは帝都に招待された。君たちほどの才人をこのような辺境に縛りつけておくわけにはいかないからな」


 願わくば帝都でも、この辺境まで響き渡るような武勇を轟かせてほしい。


 そう言った辺境伯様に、僕は、無言で頷いたのでした。

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