第090話・勇名千里を走る
◇◇◇
スーパーバチボコビッグタートル(相変わらずふざけた名前だと思います。長いので大亀でいいでしょう)を討伐してから一週間ほどたちました。
僕とメラミちゃんは明日、辺境伯様の邸宅に赴き、大亀討伐の功労を讃えられる表彰式に出ることになっています。
また、それにともない僕とメラミちゃんはAランク冒険者になるみたい(メラミちゃんも一緒に戦ったので、査定ポイントが入ったみたいです。嬉しい)で、その昇格手続きも一緒にやるのだとか。
しかもなにやら表彰式の後は辺境伯様と会談の予定も入れてくれているみたいで、これはきっと辺境伯様に最高学校への紹介状を書いてもらえる流れなのだと思います。
いやぁ、やりました。
なんだかトントン拍子に話が進んでいる気がします。
今日までの流れをざっと思い返しますと。
まず、交易交流街での前祝い会はたいへんな賑わいだったことを覚えています。
どうやらキャラバンの商隊長さんが、交易交流街にいた他の商人さんたちとか街を監督しているお貴族様とか役人さんとかに大亀討伐の報を(わざわざ伝書鳩的なやつまで使って大急ぎで)知らせまくってくれてたみたいで。
それにより、いまだ大結界内で半分ぐらい水没したままの大亀の死骸を高速移動系のスキルを持った人が確認に行き、その巨大さや甲羅の紋様などから超上位個体の大亀に間違いないとして、帝国中を揺るがす大ニュースになったみたいなのです。
そうなると、大亀討伐を成し遂げた英雄の顔を一目見たいとかいう人がたくさん現れたらしく、どこの店内でも人が多すぎて食事は不可能だろうということになって、交流街の中央広場で大パーティーをすることに。
街中のレストランから大量のお酒や料理が運ばれてきて、飲めや歌えやの大騒ぎ。
僕とメラミちゃんは、なぜか広場に用意された特大ステージの上に座らされて(しかも入れ替わり立ち替わりたくさんの人が僕たちの前にやってくる状況で)ご飯を食べることになりました。
ご飯は美味しかったので良かったですが、あまりにも人が多すぎてさすがに少し酔いそうになりました。
しかも、特大ステージ上でお手振り人形になっていた僕に。
「な、ナナシさん……! 私、間近でナナシさんの活躍を目にして深く感動しました! ぜひこの感動を歌にさせてください……!!」
と、感極まりすぎでグルグルお目々になっていたロビンちゃん(なんかもう顔は紅潮して過呼吸気味になっていて、今にも倒れそうで心配になるぐらいでした)がやってきて。
「私、決めました! これから一生ナナシさんについていって、ナナシさんの武勇伝を歌い継いでいきます! ああ、私はやっと、一生を捧げるに足る英雄に出会えました! ナナシさん、万歳!!」
とか、大観衆の前でひざまずいて言うものですから。
「ナナぽん、ばんざーい!」
「ナナシ、さいこー」
ロビンちゃんの後ろに立ってうむうむと頷いていたヘリーちゃんとユニ子ちゃんが万歳を続けると、広場中から万歳の大合唱になり。
耳が痛くなるほどの熱狂と歓声、地鳴りのようなざわめきに揺られて僕は「なんかとんでもないことになりました」と思ったのでした。
さらに。
領都に戻ってからも。
「ナナシちゃん!? なんか災害巨獣と戦ったって話が聞こえてきてるんだけど! まさか本当にそんな危ないことしてないよね!? 私ナナシちゃんにもしものことがあったらと思ったら、夜もお酒飲まないと寝れなかったよ!!」
とか。
「ナナシ様、このたびはまことにおめでとうございます。帝国政府が三百年以上前から災害級討伐対象に指定していた大亀を倒してしまわれるなんて、当ギルド職員一同を代表して御礼申し上げます。……ところで、イェルン姉さんの義弟ということは、私からしても義弟であるといっても差し支えないのでは??」
とか。
「はぁーっ!? なにアンタどさくさに紛れて私のナナシちゃんに向かって姉面してんのよ! このバカ妹が、おこがましいのよとっととどっか行きなさいよ!!」
とか。
「姉さんこそたまたまちょっとナナシ様に優しくされたぐらいで姉面して図々しいのよ! こんな大偉業成し遂げた人に姉さんみたいな呑んだくれの姉がいたら迷惑でしょうが!!」
とか。
「ナナシさん! また私にこれまでのナナシさんのお話を聞かせてください! ……ふむふむ。え、そんな大きなイカがいたんですか! しかも食べたら美味しかった!? そこのところもっと詳しく!!」
とか。
「うぇーい! ナナぽん今日も元気バクレツしてるー!? ウチはロビっちが毎日寝る間も惜しんで曲と詩を書いてるから、毎日眠りの踊りで無理やり寝かせてベッドダイブさせてんよー!」
とか。
「ナナシ。この前作ってくれた横笛すごく良かった。また良い木を見かけたら作ってほしい。……ん、そうそう。私たち三人、英雄ナナシを讃える音楽会を今度やるつもり。良かったら観にきて」
とかなんとか。
それはそれは賑やかな毎日が続きました。
で、冒険者ギルドの支部長さんからは「結界同盟は二人ともAランク昇格だ。今度辺境伯様のところに呼ばれてるから、この日は二人とも予定を空けとけよ」と言われ。
メラミちゃんからは「お前の想いはあると思うが、とりあえずお嬢様の元へ戻る目処が立つまでは冒険者辞めるって話するなよ。たぶん面倒なことになるからな」と釘を刺され。
辺境伯様にお会いするときに着る用の服(僕とメラミちゃんの分です)をデザインして結界服として作成したり、
辺境伯様に会うとき用にこの国の礼儀作法の基本を教えて(ミーシャ姉さんとロビンちゃんが詳しかったです)もらったり、
式典後の会談での話の流れや持っていきかたの想定問答を作って練習してみたり、
あれやこれやと過ごしているうちに、いよいよ明日が表彰式の日となりまして。
今日は皆でイェルン姉さんの家に集まって、壮行会的なパーティーをするようにしています。
「うん。パーティー用の料理の準備、ヨシ」
酒瓶だらけになっていたイェルン姉さんの家の中を片付けて掃除し、ワインとビールとジュースと炭酸水を買い込み、立食形式で食べやすい料理をお昼過ぎぐらいから作り始めて用意しました。
夕方。陽が沈んだころに順番に人が集まってきます。
家主のイェルン姉さん、妹のミーシャ姉さん。
相棒のメラミちゃんは手土産として子豚の丸焼きを持ってきました。
勇猛楽団のロビンちゃん、ユニ子ちゃん、ヘリーちゃんは歌と踊りと演奏を披露してくれる(今回は帝国に伝わる旧い英雄のお話にしてくれるみたいです)とのことで、どのようなお話なのか楽しみです。
で、皆でシャンパンで乾杯をして、料理を食べたり談笑したりとしていたときに。
予定のない来客がやってきまして。
「夜分に突然失礼致します。こちらにナナシ様がいらっしゃるとお聞きしました」
やってきたのはナイスミドルなヒゲダンディで、めっちゃ引き締まった肉体を執事服で包み込んだ、なんだかデキる人っぽいオジサンです。よく磨かれた片眼鏡がキラリと光っています。
「我が主より信書を預かっております。どうぞご確認くださいますよう」
と言って差し出された封筒の蝋に押された封印を目にしたミーシャ姉さんとロビンちゃんが、あまりにも驚きすぎて絶句してしまい。
僕は促されるまま開封して、封筒の中のお手紙を読んだのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます