第089話・大亀討伐完了
僕は足場にしている結界板を囲む形で結界球を新たに作成しました。
高水圧の黒水が結界球にぶち当たり、四分五裂して巨大結界内に降り注いでいきます。
うん、なかなかの威力です。
水量も水圧も十分ですし、放射時間も長いですね。
惜しむらくは、放水の収束が甘いことでしょうか。
そもそもこの黒水は細かい砂利など含んだ泥水なので、たぶんこれ、もっと水流を細く絞っていけば、ウォーターカッターみたいな形にもできると思います。
身体が大きくて長い時間を生きていて、あらゆる生き物を脅威と思わずただエサとしてしか見ていなかったであろうこの大亀は、そういう細かい技を覚える必要もなかったのでしょうか。
まぁ、それなら。
「結界作成」
僕は、僕たちを囲む結界球にさらに追加の結界を足し合わせます。
形は円錐形で、錐面には螺旋状の鋭刃結界がついています。
そうです。ドリルです。
放射してくる黒水を切り裂くように、結界ドリルが回転を始めます。
ちゅいーん、ぎょりぎょりぎょり。
と回転速度を上げていき、分速六千回転を超えたあたりで準備完了です。
「で、こっからどうすんだ」
大亀を閉じ込めた巨大結界は、すでに七割ほどが水没しました。
もうあまりタラタラしてはいられません。
「決まってますよ、メラミちゃん」
ドリルをつけた理由なんて、一つしかないじゃないですか。
「突撃します」
「だよなぁ」
「このままドリルで黒水をかき分けて進み、口から大亀の体内に侵入して内部からズタズタにしてやります」
「……だよなぁ」
そうだよな、お前そういうことするよな、とメラミちゃんは呆れ顔です。
「……ま、しゃーねーか。女は度胸だ。行っちまえナナシ。コイツ倒したら多分
メラミちゃんにパシンと肩を叩かれ、僕は結界ドリルアタックを敢行。
真っ黒い放水をかき分けて大亀の口から体内に飛び込み、ドリルで肉を切り裂きながら進んでいきます。
大亀の巨体が揺れ、痛みで暴れているのが分かります。
僕は、大亀の身体の中心あたりまでくると。
「結界作成・鋭刃」
ドリル部分以外の結界球の表面から鋭刃結界を大量に伸ばしてウニみたいな形になりつつ、結界球自体をぐるぐると回転させました。
鋭刃結界をどんどん伸ばしつつ結界球の回転を維持し、前後左右上下と体内を縦横無尽に動き回って体内をズタズタに切り裂いていきます。
時折骨や甲羅に当たった時は鋭刃結界が弾かれたりもしましたが、筋肉や内蔵はそれほどの強度はありませんでしたので、手当たり次第に切り裂いていきます。
どれほどの時間切り裂き続けたかは分かりませんが、気がつくと大亀はもう暴れていませんでした。
たぶん体内をズタズタにされて息絶えたのでしょう。
ドリルで掘って同じ方向に進み続けると表皮を突き破って体外に出られましたが、今度は水中だったので上昇して水上に出ます。
大亀を閉じ込めた大結界はほぼ完全に水没していて、僕は大結界の結界上面の一部に穴を開けて大結界の外に出ました。
「……真っ黒で、何も見えねえな」
結界内は黒水で満たされていますので、大亀がどうなっているのか外からは全く分かりません。
仕方がないので僕は、この場から一番近い水場の場所を確認して、そこに向けて結界管を伸ばします。そして大結界と結界管の接合部分を「透過指定・水(水分子以外は不透過)」にして排水を始めました。
澄んだ水がドバドバと水場に流れていきます。
さらに大結界の浄化機能を強化しましたので、水から分離した有害成分もそのうち無害化されます。
あとに残るのは大亀の死骸だけになることでしょう。
もっとも、それはあと数日は待たなければならないでしょうが。
水場から水があふれて水害にならないように水量を絞っているので、排水が終わるまでにしばらく時間がかかるんですよね。
僕は結界の設定をひととおり終えると、メラミちゃんと一緒にキャラバンに戻りました。
で、何がどうなっているのか分かっていない商隊長さんたちに。
「大亀は倒しました。ただ、あれをどかすにはしばらく時間がかかるので、とりあえずあれを迂回して交易交流街に行きましょう」
と、伝えたのでした。
商隊長さんたちはしばらくの間、僕の言葉を理解できていないような表情を浮かべていました。
◇◇◇
翌々日。
交易交流街に着きました。
門を潜って街中に入り、商隊長さんたちと一旦別れることに。
明日また辺境伯様の住む街(ブライト辺境伯領都、と呼ばれているみたいですね。最近知りました)に向けて出発するので、積荷の積み下ろしをするみたいです。
他の冒険者の皆さんも今日はゆっくりするとのことで、僕はメラミちゃんと一緒に街中をぶらぶらしてみます。
「晩飯、楽しみだな」
そうですね。商隊長さんがこの街で一番大きなレストランを貸し切って、大亀討伐達成記念の前祝いをしてくれますもんね。
なお、正式に討伐達成となるにはギルド職員や国のお偉いさんの確認がいるらしく、明日からの領都行きには数人の職員さんとお貴族様が同行します。
なので前祝いです。
正式に討伐達成となったらまたお祝いしようって言ってくれてました。やったね!
「けどナナシよぉ。たぶんこれでお前もBランク、下手すりゃ一気にAランク認定されるぞ」
おや、そんなに上がりますか?
「まぁ、災害級生物の討伐ってそれぐらいすごいやつだからな。今のAランクの連中だって、討伐達成した奴のほうが少ないぐらいだ。だからお前もAまで上がってもおかしくない。……ただ、そうなると」
メラミちゃんが、少しだけ悲しそうに僕を見ました。
「お前、Aランクまで上がったら冒険者続けるか?」
「いやぁ、続けないですね。辺境伯様にお会いして紹介状を書いてもらって、帝都の最高学校の教授に会いにいきます」
で、お嬢様たちの元へ戻る方法を教えてもらいます。
僕はお嬢様の元になるべく早く帰らなくてはなりませんので。
「だよなぁ……」
メラミちゃんは、そこからしばらく黙って考え込んでいました。
美味しそうな串焼き肉を買って渡しても、上の空でお肉を食べています。
やがて串焼き肉を三本食べ終わったところで、メラミちゃんは「よしっ」と言いました。それから。
「なぁ、ナナシ。お前が辞めるんならアタシも冒険者辞めるわ。で、お前のお嬢様とやらのところにアタシも連れてってくれよ」
と、言ってきたのでした。
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