第064話・フラミンゴポーズ


 レミカさんの言葉に、思わず僕は固まってしまいました。


 晩ご飯の後片付けの手を止めて振り返ると、ニコニコ笑顔のレミカさんが。


「舐めたんでしょう? どうだった? 味は?」


 ……ええーっと。


 笑顔のままで重ねて問われますが……、え、なんですかこれ?

 もしかして僕、怒られてます……?


 レミカさんの、感情の読めないニコニコ笑顔を見ていると、なんだかどんどん不安になってきました。


 とりあえず一度、しらばっくれてみましょうか……?


 ナ、ナンノコトデスカー?


「隠さなくてもいいでしょ? 二人を見てれば分かるよ。ナルちゃんはスッキリした顔してたし、ナナシ君はいつもよりホワホワしてたから」


 そんなに分かりやすかったですか?


「うん。とっても」


 それじゃあ誤魔化すのは諦めましょう。


「……ごめんなさい許してください!!」


 僕は流れるように土下座をしてレミカさんに許しを乞いました。


 なんでもするので許してください!!

 お肩を揉みましょうか! それとも靴の上からお足をお舐めしましょうか!?


 すると一転して、レミカさんはキョトンとした声になりました。


「え。いや、怒ってるわけじゃないんだけど……」


 面食らった様子のレミカさんの声に、僕はちらりと顔を上げてレミカさんを見上げます。


 お顔のほうも困惑気味です。

 僕が突然土下座したことに戸惑っている様子でしょうか。


 ……怒ってないのですか?


「怒ってないよ。え、なんで怒ってると思ったの?」


 ニコニコ顔だったからてっきり内心ブチギレなのかと……。


「怒ってたら怒ってる顔するよ……。笑ってたのは、面白い話が聞けそうだと思ったから」


 誰に断ってナルさんのお足を舐めてんのじゃい、みたいなことにはなりませんか?


「ならない、ならない」


 お嬢様に報告したりは……。


「しないよ。というか、ハローチェちゃんも普通に理解ってると思うけど。その可能性もふまえたうえで二人きりで探索に行かせてるわけだし」


 ……そうですか。


 僕はようやく土下座フォームを解除します。

 ふぅ、緊張しました。


 僕は怒っている女性への対処法を全力土下座以外に知らないので、これが通じなかったら困ってしまうところでした。


 それではレミカさんは、何をお聞きになりたいのですか?


「だから、ナルちゃんの足を舐めた感想を。あとは味の表現がどんな感じかとか。純粋な好奇心として気になってる」


 なるほど……?


 いえ、確かに以前にも聞かれてお嬢様やジェニカさんのお足の味わいを説明したことはありましたが……。


 ほんとに、好奇心で聞いているのですね?


「うん」


 それなら……。


「ナルさんのお足は、……あまりにも美味し過ぎて、舐めてるとちゅうで気絶してしまうぐらい美味しかったです。僕はナルさん以上に美味しいお足を、いまだかつて舐めたことがありませんでした」


「お、ものすごい高評価」


「それでナルさんのお足の味わいは……。そうですね、背脂ニンニクマシマシの激辛トンコツラーメンのスープみたいな感じでしょうか。美味し過ぎて依存性があって、摂り過ぎは体に良くない美味しさです。ナルさんのお足を頻繁に舐めていたら、確実に僕は興奮し過ぎで早死にしちゃうと思います」


「うーん、こっちは相変わらず難解だなぁ」


 僕の説明を聞いたレミカさんはしばらく考えていましたが、やがて諦めたように「ま、いっか」と言いました。


「ナナシ君はナルちゃんの足を舐めたし、美味しかったということは間違いないんでしょ?」


 はい、そのとおりです。


「それなら今日は、私の足を舐めてみる?」


「へっ!?」


 な、なんですって!?


「え、あの、えっ、良いんですか??」


「うん。舐めてみたいんでしょう? ……ほら」


 そう言うとレミカさんは、右足の靴を脱いで生足を持ち上げてみせました。


 お、おおぅ……!?


 片足立ちの状態ですが、ぴたりと一本芯が入っているみたいに微動だにしません。

 こういうのを見るにつけ、本当に鍛えているんだなぁ、と思います。


 そして、持ち上げた右足なのですが。


「どう?」


 なんと艶やかに誘うように、足の指をぐっぱぐっぱと開閉してみせます。


 上下に動かしてニギニギするだけでなくて、真横にも大きく開いたりしていて、指と指の間が大きくさらけ出されて……。


「ハ、ハレンチです!!」


 僕は、あまりにも破廉恥過ぎて、思わず目を逸らしてしまいました。


 こんなの無修正で見たらバチが当たります!

 ああ、また鼻血が出そう……!


「ハレンチ?」


 だってそうでしょう!


 レミカさんの今の格好って、普段着にしているフリル付きのシャツ(第三ボタンまで開けて胸の谷間を出しています)とスラックスズボン姿で、胸の谷間を出していること以外は前世でよく見たセールスレディさんとかの服装っぽいんですよ。


 で、足元はパンプスシューズみたいな靴を履いてまして、普段は全然お足を露出していません。


 そしてレミカさん、今日一日中戦ったり歩いたりでずっと靴を履きっぱなしでしたし、まだ着替えたり体を拭いたりということもしておりません。


 つまりですね、巷で噂の美人セールスレディ(セールスレディではない)が一日中歩き詰めで蒸れたお足を靴から出して、片足立ちのままお足を持ち上げてまだホカホカの足の裏を見せてくれているという状況なわけですね。


 そして足の指をくぱくぱと動かして余す所なくお足の隠された部分を見せつけられてしまっているわけで。


 シチュエーションパワーと言いますか、モーションパワーと言いますか……。


 とにかく。

 あまりにもエッチでハレンチです。


「レミカさん。僕が言うのもなんですが、あまり軽々に異性の前でそういうことをしないほうがいいと思います。誤解されるおそれがありますので」


「あ、ちなみにこういうこともできるよ?」


 レミカさんのお足がすっと伸びてきて、僕の手を取って握手ならぬ握足を……。


「レミカさん!!?」


 言ってるそばから畳み掛けてこないでください!?


「ほら、ニギニギもできるしジャンケンもできるよ。頭撫でて良い子良い子とかもできると思う」


「うわーっ!?」


 すごい器用さですしすごい体幹ですしすごい柔軟性だと思いますが!!


 そういうプレイも憧れがないと言えば嘘になりますが!!


「やめてください死んでしまいます!!!」


 その前に興奮しすぎてブッ倒れそうです!!


 誰か助けてー!?


「大きな声出してどうしたの、ナナシくぅん?」


 すると、ジェニカさんが結界小屋の中から出てきました。


 天の助け来た!

 これで勝つる!!


 ……あれ?


 ジェニカさん、目がトロンとしていて体がちょっとふらふらと揺れています。


 そういえばジェニカさん、晩ご飯のときの晩酌で酔っているんでした……!


「なんだかフラフラしてるよぉ〜? だいじょーび?」


 フラフラしているのはジェニカさんのほうです!


 ジェニカさんがこちらに近寄ってきますが、身体が火照っているのかいつもより服も着崩しています。


 というか、下半身がパンツ一丁なんですが!!


 生足! ううっ!?


「レミカしゃんも、どーしたの〜?」


「ジェンさん、ちょうどいいところに。ナナシ君が私の足を舐めたいそうなんだけど、手伝ってくれないかな」


 いいでしゅよ〜、と答えたジェニカさんは、僕の背後に回って背中にもたれかかってきます。

 背中に柔らかい感触があり、そして僕の膝下にジェニカさんのお足が絡み付いてきました。


 う、動けません……!!


 そしてレミカさんは、そのままお足を持ち上げて、僕の顔の前に持ってきます。


「ほら、ナナシ君。あーん」


「あ、あ、あ……!?」


 目の前に差し出されたお足の魅力に僕が抗えるはずもなく。


 僕は、エサを待つヒナ鳥のように大きく口を開けて、レミカさんのお足を迎え入れることしかできませんでした。

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