第065話・旨味の連チャン


 口の中にレミカさんの右足が入ってきて、僕はおそるおそる口を閉じていきます。


 そして舌先と唇が同時にお足に触れた瞬間、僕の脳裏にはある映像が浮かびました。


 それは、大きな大きなお鍋です。

 しかしただのお鍋はありません。


 お鍋の中にはありとあらゆる食材が詰め込まれ、何日も何日も丹念に煮込み、何度も何度も丁寧にこされていきます。


 どこまでも煮詰まって食材の旨みが凝縮され、美しく澄んだ色になったところで提供されるコンソメスープ。


 レミカさんのお足の味わいを表現するなら、そんな感じになります。


 ああ……! これは……!


「ほっへも、おいひいでふぅ……!」


 僕は今、感動のあまり涙を流しているかもしれません。

 くわえた爪先から口を離したくなくて、もっと口の奥へと誘うべく唇と舌を動かします。


 ちゅぞ、ぢゅぞぞぞぞ。


 じゅる、じゅるじゅるじゅる。


 ちゅううぅ。ちゅぱ、ちゅぱ、ちゅぱ。


 吸えば吸うほど、舐めれば舐めるほど味が出てきます。


 味わい自体はしつこくなくあっさりとしているのに、その味の深さといったら底知れずのものです。

 ジェニカさんのお足とはまた違った意味でいくらでも舐めていられそうな味わいをしていて、とにかく僕は夢中になってお足を舐めてしまいました。


 と。


「あっ、ちょっと。そんなにノドの奥まで引き込んじゃあダメだよ。息ができなくなるよ」


 そう言うとレミカさんは、足首近くまで僕の口の中に入っていたお足を引き抜きました。


 ああ、そんな……!

 まだ味わい足りないのに……!


「うわっ、すっごいベタベタだ。ナナシ君も、一回口の周りを拭きなよ。ヨダレですごいことになってるよ」


 僕のヨダレでベトベトになった右足を見つめて、レミカさんは困ったように笑いました。


 そして改めてベトベトになったお足を僕の眼前に持ってきて、指をニギニギとしてみせます。


「こんなにしちゃうなんて、ナナシ君は悪い子だね」


「ごめんなさい……、でも、舐めてるともっともっと舐めたくなって仕方がないんです」


「そんなに良かったの? ふふふ、君は正直者だね」


 からかうように言われましたが、僕はもうそれどころではないのです。


「お願いします、後生ですのでもう少しだけ舐めさせてください。こんな生殺しのようなところで終わりだなんて、あまりにも切ないです」


 勝手にお足に飛びつかないように理性を総動員していますが、それもいつまで保つのか分からないぐらいです。


 お預けをされるのはとても悲しくて、僕はとても情けない顔でレミカさんにお願いをしていることでしょう。


「ふふふ。分かった分かった」


 レミカさんは一旦右足を下ろすと、ヨダレまみれの足でそのまま靴を履き直しました。


 そして今度は、左足の靴を脱いで持ち上げます。


 おお、これは……!


「ほら、こっちもどうぞ」


 ありがとうございます!!


 僕は感動のあまり今度こそ涙を流しながら口を開きました。


 そして左足の爪先に吸い付き、舐めしゃぶり、お足の指一本一本まで丁寧に舌を這わせて味わいます。


 この時間がいつまでも続けば良いと思いました。


 しかし、素敵な時間というのは、必ず終わりが来るものなのです。


「はい、それじゃあ今日はここまで」


 レミカさんが僕の口の中からズルリと左足を引き抜き、またもやベタベタなまま靴の中に戻しました。


 僕は興奮して息を荒くしたまま、先ほどまで舐めていたレミカさんのお足を見つめます。


 ヨダレまみれのお足を靴の中でぐちゅりと鳴らしながら、レミカさんは足踏みをしました。


「ほんとにベタベタだ。これは後でよく洗わないといけないなぁ」


 はぁ、はぁ、レミカさん……。


 その……、えっと……。

 ……ごちそうさまでした。


「私の足も美味しかった?」


 はい。とても。


 まるで何日もかけてしっかり煮込んだコンソメスープのように深く澄んだ味わいでした。

 いくらでも舐めていられる美味しさです。


「それはなによりだよ。それじゃあ、」


「私の番だー!」


 僕の背中に引っ付いていたジェニカさんが、突然大声を出しました。


 そして多幸感と興奮で膝が笑っている僕の手を引いて、結界小屋の中のジェニカさん用のベッドまで連れてきます。


「うーん、えいっ!」


 うわっ。僕はジェニカさんベッドに押し倒されてしまいました。


 そしてジェニカさんは残りの着ている服を全て脱いでいきます。

 あっという間に全裸になり、僕の上に覆い被さるようにしてベッドに上がりました。


 酔ってトロンとした目で僕を見つめ、ペロリと舌なめずり。


 あの、あの、ジェニカさん……?


「んふふー。今日は足だけじゃなくて、いっぱい舐めてもらうんだー」


 そう言うと、僕のほっぺたを両手で挟み、ジェニカさんのお顔がゆっくりと近づいてきて……。


「こらこらジェンさん。流石にそれはハローチェちゃんが泣くよ」


 間一髪。唇と唇が触れる寸前、僕とジェニカさんのお顔の間にレミカさんの手が挟まれました。


 ジェニカさんは顔を離してケラケラと笑います。


「ありゃりゃ、しょうだった。しょーがないにゃぁ〜」


 今度はジェニカさん、体を少しずらしてから倒れ込んできます。

 僕の顔がジェニカさんのお胸の間にむぎゅっと挟まれ、ジェニカさんの両腕が僕の頭を抱きしめます。


 うわっぷ。

 めっちゃお酒臭い……!


「ナナシくぅーん。えへへ、今晩は寝かしゃないぞ〜?」


 と、いうわけで。


 この日は日付が変わるぐらいまで、なぜか一緒の部屋にいるレミカさんに見られているなか、ジェニカさんのことを舐めまくったのでした。


 たぶんお顔周辺以外は全部舐めたと思います。

 さすがにちょっとアゴがほっぺたが痛いです……。




 ◇◇◇


 翌日。


 昨夜のことを思い出して頭を抱えて悶えているジェニカさんと、澄まし顔でちょっと頬を赤らめているレミカさんを連れてカベコプターでの移動を続けます。


 ティラノ君、いないかなー。


「ねぇあの、ナナシくん。あのね、昨日の私はちょっとお酒に飲まれていたというかね、あれは私であって私でなかったというかね??」


 はい。分かっていますよ、ジェニカさん。


「いや、ほんとに! ほんとだから! お酒に酔って前後不覚になったことは反省するけど、あれは私じゃない私がやらかしたことだからね! そこのところは、誤解をしないでほしいかな!?」


 大丈夫ですよ、ジェニカさん。

 僕も無我夢中でどこをどう舐めてたのかはあんまり覚えていませんし、そんなに恥ずかしがる必要はないと思いますよ。


「……あんなに押し広げて舌を奥までねじ込んでいくなんて。……それにジェンさんのあの気持ち良さそうな顔。うーん、忘れがたいね」


 まぁ、僕じゃない人はしっかり見てバッチリ覚えているみたいですけど。


「ああああああああっ!? お願いだからレミカさんも忘れてええぇぇぇええ!?」


 というかレミカさん。

 ふつーに最後まで見学して、その後自分も下着姿になって同じベッドに入ってきて、三人一緒に寝たんですけど。


 しれっとジェニカさんに抱きついたり、僕の体をぺたぺた触ってきたりしてましたね。


 ……やっぱりレミカさんって、どっちもイケるタイプですよね?


「え、うん」


 ……うーん。


 お嬢様に同じことをやろうとしたら、ちょっと苦言を呈するようにしましょうか。




 そんなこんなでジェニカさんの悶える声を聞きながら森の中をうろうろし。


 お昼ご飯を食べて午後の探索をしていたところで。


「……お、あれは」


 とうとう見つけました。


 ティラノサウルスです。

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