第063話・マジシャン・バトル☆
森の皆さんこんにちは、ナナシです。
ナルさんのお足を舐めた日から数日がたちました。
僕は今、ジェニカさんとレミカさんと共に森の奥に来ています。
ナルさんとの狩りではティラノ君を狩れなかったので、リベンジハントです!
なお、ジェニカさんは仕留めた獲物を保存する係で、レミカさんは「今回は私もナナシ君との狩りに参加するよ」とのことで同行してもらっています。
まぁ本来なら、前回のナルさんとの狩りのときもジェニカさんについてきてもらっていたほうが良かった(仕留めた獲物をそのまま持ち帰れますからね)のですが。
集めた材木のチェックをお嬢様と一緒にしていたのと、ナルさんの実戦鍛錬の意味合いも強かったので、そうはなりませんでした。
で、今回はそういった事情もなく、ナルさんのお勉強も進めなくてはならないだろうということで、お嬢様とナルさんがお留守番です。
なお、今回は最初から二泊三日で遠隔地まで足を伸ばしてティラノ君を探すつもりですので、お鍋いっぱいのシチュー(ゴロゴロお肉とお野菜たっぷりです)と硬めに焼いて日持ちするようにしたパンを拠点に置いてきました。
サラダぐらいならお嬢様とナルさんでも作れる(葉っぱをちぎったりトマトみたいな果実を切るぐらいならできるでしょう。きっと)と思うので、僕らがいなくても食事はなんとかなるでしょう。
僕たちがティラノ君を仕留めて帰ってくるのを楽しみに待つ、ということを言っていたナルさん。
今ごろは必死に算数のプリント(余りのある割り算)に取り組んでいることと思います。
さてさて。
ティラノ君を探してカベコプターで森の中をウロウロしているわけですが、やはり色々な生き物が襲いかかってきます。
で、それらの生き物を僕とレミカさんで適宜交代しながら仕留めたり追い払ったりしているんですけど。
いやはや、レミカさんも強いですねぇ。
ナルさんが一目置いているわけですし、お嬢様が熱心に勧誘して仲間になってもらったわけなので、そりゃまぁ強いはずなんですが。
レミカさんの先天スキルである「豪華絢爛奇術」は、一風変わった強さを持っています。
それこそ今、レミカさんは一人でカベコプターから降りて巨大なカメレオンみたいな爬虫類と戦っているのですが。
「ほらほら、こっちだよ!」
青龍刀のような剣を右手、投げて使う用の大振りなナイフを左手に持ち、高速で伸びてくる長い舌をかわしながら踏み込んでは切り付けて離れ、ナイフを投げてけん制しては踏み込み、といった感じで戦っています。
そして大きな口から伸びてくる長い舌は矢よりも速く迫ってくるうえ、木や石であっても軽々と貫通する鋭さを兼ね備えていますが、レミカさんには全く当たりません。
これらの戦闘技術自体はレミカさんの鍛錬や後天スキルの賜物ですが、この戦闘行動に彩りを加えるのが、レミカさんの先天スキルの効果です。
たとえば、左手のナイフは投げるたびにどこからともなく出てきて左手に収まり、右手の青龍刀は気がつくと二本に増えて双剣になったりします。
避けきれない攻撃が迫ってくるとどこからともなく大きなシルクハットが現れてレミカさんを包み隠し、シルクハットごと攻撃を受けたときにはすでにレミカさんは別の場所、いつの間にか現れた別のシルクハットの中から出てきます。
カメレオンの頭上にバラの花を投げたかと思うとポワンという音と派手なエフェクトとともにバラが鋭い槍になってカメレオンの背中に落ちて刺さったり、
レミカさんがパンッと手を叩くとカメレオンの頭にたんぽぽの花が咲いて一瞬カメレオンの動きが止まったりするのです。
他にも派手な花火みたいな爆発を連続で起こしたり、カメレオンの口の中から大量のボール(お手玉用みたいなサイズです)を出して惑わせたり、
鳩が出てきたりコインを消したりハンカチをステッキに変えたり、色々できます。
どうやら、簡単な手品のようなことができる奇術というスキルの超上位互換スキルらしくて、物を創り出したり消したり、増やしたり移動させたりできるうえ、エフェクトごとに様々な追加効果を付与した攻撃をしたりできるのだとか。
「すごーい! あんな大きな生き物相手に、ほんとに手玉に取ってるって感じだよ、ナナシくん!」
僕と一緒にカベコプターで待機しているジェニカさんも、派手な見た目の戦いに魅了され、感嘆の声を出します。
「そうですねぇ。次はどう動くのか、見ていて読めないですし、飽きませんね」
そしてこれ、対人戦闘だともっと強い気がします。
地力でもナルさんと良い勝負できる剣の腕前があるのに、大量の初見殺し技を持っていてそれを自在に使い分けられる人。
と言えば、その恐ろしさが分かりますか。
ナルさんが、一度手合わせしたかったと言うのも当然だ、という感じですね。
そうこうしていると、レミカさんに翻弄されて戦意を喪失したカメレオンが、すごすごとどこかに逃げていきました。
うーん、これはすごい。
僕は、ニコニコ笑顔でカベコプターに戻ってきたレミカさんに、心からの拍手を送りました。
「すごいですレミカさん。見ていて楽しく、そして危なげない戦いでした。こういう戦いもあるのですね」
「ははは、ありがとうね。けどやっぱり、あれだけ大きいやつ相手に普通に戦うと倒し切るのはたいへんだ。次からはナナシ君に任せてもいい?」
はい、もちろんです。
適材適所でいきましょう。
というかレミカさん、普通じゃない戦い方をすればさっきのカメレオンも倒せたということですかね?
うーむ、やはりすごい。
「私、戦いのことはよく分かりませんが、レミカさんのはもっと見ていたいなって思いますよ。見ていて楽しいですもん!」
ジェニカさんも楽しそうに手を叩いています。
それを聞いたレミカさんは、なんだか嬉しそうです。
「ジェンさんもありがとう。ふふふ、人に見られるのは少し緊張するけど、少しは良いところを見せられて良かったよ」
まことに。
良いものを見せていただきました。
僕もまだまだ頑張らなくてはいけませんね!
そうしてこの日は陽が暮れるまで森の中を探索し(残念ながらティラノ君はいませんでした)、夜には結界小屋を作って晩ご飯を食べたのでした。
◇◇◇
「で、ナナシ君。ナルちゃんの足は美味しかった?」
…………え?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます