第062話・舌が切れそうな美しさ
「四つ、いや、五つか? 細かいものを除いてもそれぐらいある。ナナシはなんの気なしにしていることなんだろうが、私にとってはどれも
ナルさんは、折った指を立てながら言います。
「近いものから言えば。私は今日、雷鳥にさらわれそうになったところをお前に助けられた」
ですからそれは、僕がちゃんと周囲の警戒をしていなかったことが原因ですので……。
僕の不注意のせいでナルさんがどこかに連れ去られるんじゃないかと、気が気でなかったです。
「私の電撃に耐え、音のように速く飛び、大ワニの口のように強く鋭い爪を持った巨大生物を、容易く捕らえて首を落としたんだ。それだけで、私の故郷なら三等褒章くらいは貰える快挙だぞ」
う、うーん……?
わりとギリギリだったですし、容易くというわけではないんですけど。
「次に近いものは、ヒデサト家とフジクラ家の諍いを鎮めたことだ。しかも人死になしで。本来なら双方の家が対立してどちらかが倒れるで戦が続いていてもおかしくなかったものだ」
あれはだって、お嬢様がそうせよと仰ったことをしただけですし……。
それに僕はちょっと大袈裟に脅して、反抗する気力を削いだだけですよ?
主な話し合いはお嬢様がしてくださったのですから、あれはお嬢様の功績ですよ。
「だが、お前の結界術がなければ絵空事で終わるような、荒唐無稽な出来事だ。あの両家の人間たちをまるで赤子の手を捻るように一方的に、弄ぶように馬鹿馬鹿しい方法で蹂躙できるのは、お前ぐらいのものだ」
いやまぁ、確かにたいした手応えはなかったですけど……。
この森の生き物とかに比べれば皆さんまだまだ、という感じでしたし。
「……それに、本来なら私は、あの薄暗い海の誰も来ない小島で、一人寂しく散る運命だったはずだ。それが覆ったのは、ナナシたちが来てくれたからだ」
あれもお嬢様の指示に従って行動していただけのことですから。
僕はただ単に、お嬢様のためにあの島に行ったのであって、
「ナナシがいなければ。普通の船であの海域に挑むことになっていたわけだ。そんなもの、自殺と変わらん。決してあの島までは辿り着けなかっただろう。ハローチェは、お前がいたからこそあの島に辿り着けた。そして、だからそこ私はお前たちに会えたんだ」
ナルさんの目が、僅かに熱を帯びて潤んでいるように見えます。
「ナナシたちが来てくれたおかげで、私はまた故郷の土を踏み、兄貴とも和解できた。私が私として生きていくことを、認めさせることができた。ここまでのことをしておいて、そんなつもりはなかったなどと、よくぞまぁそんなことが言えるものだ」
……ナルさん。
「もっとも。実際のところはナナシがどう思っていようと関係ないんだ。これは私がそう思うからそうなんだという、それだけの話だ。だから……」
ナルさんが立ち上がり、やにわにバスローブを脱ぎ落としました。
一糸纏わぬ美しい裸体が、再び僕の前に現れました。
ナ、ナルさん……!?
「お前の欲するもので、礼をさせてもらう」
すらりと伸びたお足が音もなく動き、僕に近づいてきます。
その動く様を見るだけで、僕の心は蜘蛛の巣に引っかかった蝶のようにがんじがらめにされて、身動き一つ取れなくなりました。
あまりの美しさに硬直している僕の襟首を掴んで、ナルさんが言います。
「来い、ナナシ」
そしてずるずると引きずられて、結界小屋のベッドの上に押し倒されました。
ナルさんは髪留めを外し、長くてツヤツヤした黒髪がバサリと垂れ下がります。
張り出したお胸やバキバキに割れたお腹、引き締まったお尻が黒髪のベールに包まれました。
そして黒髪のベールの裾から伸びる色白のお足は、黒と白のコントラストを作り出して僕の目を引き付けます。
「本当に、足以外には興味ないのか?」
ギシリと音を立ててナルさんがベッドの上、僕の枕元のところに立ちました。
あ、ああ……!
なんという光景でしょう……!!
正面から見ている時も、これはこれは長くてスラリと締まっていて素晴らしいお足だと分かっていましたが。
実際に顔の上に立ってもらって下から見上げた景色は、さながら大峰の麓から頂上を見上げたかのようなものでして、まことに雄大で荘厳で幻想的な、ひとつの完成された美しさです。
僕の顔の横にあるお足から、くるぶし、ふくらはぎ、ひざ、もも、お尻と伸び上がっていく曲線は、まさしく自然が作り出した
僕は、最近は出なくなっていた鼻血が、ツーっと垂れるのが分かりました。口の端からヨダレが、タラーっと垂れるのが分かりました。
ああ、ナルさん。
本当に、美味しそうなお足です……!
本当に、ほんとうに……!!
「まずは、右からいくか」
そう言うとナルさんは、右足を持ち上げて僕の顔の目の前に持ってきて、足の裏を見せてくれます。
武芸者。
そう呼ぶのが相応しい、ゴツゴツと厚い足の裏。
今までナルさんが自分を鍛え上げてきた鍛錬の歴史が積み重なっているようで、その重厚さと濃密さの前には、僕の理性など風の前のチリと変わりませんでした。
「ナナシ。これからまだまだ、夜は長いぞ」
踏みしめるようにして僕の顔に足の裏を押し当てるナルさん。
ナルさんの足の裏に口づけをし、その深い味わいを存分に堪能し始めた僕。
確かにこれは、長い夜になりそうです。
◇◇◇
◇◇◇
◇◇◇
◇◇◇
◇◇◇
…………ふぅ。
ごちそうさまでした。
現在時刻は日付が変わったぐらいでしょうか。
あまりの幸福感による放心状態から復活した僕は、むくりと体を起こします。
そして「満足したか? じゃあ私は寝るぞ」と言い残して先に寝ていたナルさんに向けて、静かに頭を下げました。
はあぁ……。それにしてもナルさんのお足、ほんとうに美味しかった……。
あまりに美味しすぎて僕のほうが先にダウンしてしまったぐらいです。
結局味わうことができたのは両足のくるぶしから下ぐらいまでですね。
そこより上に行く前に幸福感がキャパオーバーしてしまいましたから。
ナルさんのお足は、そうですね、背脂マシマシ激辛トンカツラーメンのスープみたいな感じでしょうか。
美味しいしなんなら依存性もちょっとあるぐらいですけど、摂り過ぎは体に良くないというか。
お嬢様が、みだりに舐めさせてはいけないと言っていた意味がよく分かります。
ナルさんのお足を頻繁に舐めていたら、確実に僕は興奮し過ぎで早死にしちゃいますね。
ああ、でも。
……やっぱり美味しかったなぁ。
これほどのお足は、前世まで含めても舐めたことがありませんでした。
いやぁ、世界は広いですね。
こんなにも美味しいお足があるのですら。
まだまだこれからもいろんな素敵なお足を味わっていきたいなぁ、などなどと考えていると。
寝ているナルさんの目が、かすかに開きました。
あ、しまった。
ごめんなさいナルさん、ひょっとして騒がしかったですか?
「……いや、たまたまだ。ナナシはまだ寝ないのか」
いえ、少しばかり反芻をしていましたが、僕も今からベッドを作って寝るところです。
僕がそう言うと、ナルさんはおもむろにシーツをまくり上げました。
うわっ、全裸のままだ!
僕がナルさんの姿を見てドギマギしていると、全裸のナルさんが僕を手招きします。
「入れ」
え。いえ、あの、
「いいから。……それに私は、何かに抱きついて寝るほうが好きだ」
ということで。
僕は全裸のナルさんに抱きつかれ、抱き枕になったまま一夜を過ごしたのでした。
なお、生足が絡みついてきてドキドキし過ぎて全然眠れず、翌日の僕は半寝ぼけのままナルさんとの狩りを続けることになりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます