第059話・弱肉強食の覇者
というわけで狩りにきました。
森の弱肉強食の覇者、ナナシです。
僕の隣には、昨夜遅くまで算数のプリントに向き合い、最後の問題を解き終えると同時にテーブルに突っ伏して寝てしまった(後でそっと結界製タオルケットをかけました)ナルさんがいます。
ナルさん。今日から数日間、よろしくお願いしますね。
「……ああ。よろしく頼む」
若干いつもより険しい顔をしているのは、昨日たくさん頭を使ったからでしょうか、寝不足だからでしょうか。
それとも森の中に棲む凶暴な生き物たちから発せられるプレッシャーによるものでしょうか。
いずれにせよ、ここは拠点に近いところなので、巨大生物たちはまだ姿を現さないでしょう。
「そういえば、拠点にいる間はめっきり見かけなかったな。空を飛んでいた時はひっきりなしに襲いかかってきていたのに」
それもそうでしょう。
なにせ、この森の生き物たちは骨の髄までしみて理解しているはずですから。
僕の結界を壊すことのできる生き物はこの森には存在していない、と。
僕の結界に捕えられて生き延びることも不可能である、と。
つまり、僕の結界術こそがこの森の弱肉強食の頂点に君臨しているというわけですよ。
だからこの森の生き物の大半は、僕が張った結界に寄り付かないのです。
「なるほどな。……うん? それなら空を飛んでる時に襲ってくるのはおかしくないか? あれもナナシの結界だろう?」
あ、早くもバレてしまいました。
はい。本当は、拠点を覆う巨大結界には「威圧」の効果を持たせてあるのです。
お嬢様に敵意を持たない人間以外は、この拠点には近寄りたくなくなるというわけですね。
見栄を張ってごめんなさい。
「なんでそんなすぐにバレる嘘を吐いた」
だって、ナルさんと二人で行動することってあんまりないですし、ナルさんから見たら僕って頼りない感じがしてないですか?
だから僕は、ナルさんが思っているより頼れる男であるということをアピールしたかったのです。
「よく分からんことを気にするんだな」
僕からしたらナルさんは、男らしくて頼れる姐御って感じなんですけど、僕も男として男らしさでナルさんに負けたくないと言いますか、良いカッコをしたかったと言いますか……。
「そうか。……まぁ、いい。理由は分かった。そして、もっと森の奥に行かなければ獲物がいない、というのは間違いないんだろう?」
はい、そうです。
「それなら、まずは獲物がいるところまで行くぞ。肉を得るための狩りなんだ、気合いを入れていこう」
そうですね。
それではさっそく出発しましょう。
あ、移動は徒歩とカベコプターのどちらがいいですか?
「ある程度は結界の箱に乗せてくれるとありがたいが……。その、なんだ。あまり高いところには行くな。気が散るからな」
やっぱり高いところは怖いですか?
「……怖くはない。が、好きでもない」
なるほど……。
それならなるべく地面を這うようにして低空飛行しますね。
「すまん。頼む」
ということで、僕とナルさんはカベコプターに乗って森の奥に向かいました。
地上高一メートルぐらいのところをふよふよすいーっと飛び、木々の間を抜けてどんどん森の奥へと進んでいきます。
とちゅうで僕はナルさんに聞きます。
「ナルさんはどんな生き物を狩りたいですか?」
「そうだな、暗妖の大礁海の小島でナナシたちに初めて会ったときに食わせてくれた肉があるだろ、あれを自分で狩ってみたい」
ほほう。ティラノ君をですか?
うーん、拠点近くに生息していたのは乱獲してしまったので、それならだいぶ奥まで行かないとダメかもしれません。
探しながら移動してみますけど、今日すぐに見つかるかは分かりませんよ?
「ああ、分かった」
ということで、この日は夕暮れ時まで獲物を探し回ってみましたが。
ラプトル君数体の群れと巨大な鹿(ツノが水晶みたいにキラキラしてて割れたガラスのようにトゲトゲしていました)を一体見つけたのみ(どちらもナルさんの電撃パンチと電撃キックで仕留めました)で、拠点に帰ったのでした。
ちなみにこの日の晩ご飯は紅葉鍋にしました。
水晶みたいなツノは高く売れそうということで、ジェニカさんが喜んでいました。
翌日。
再び獲物を探して森の中をウロチョロしてみましたが、やはりティラノ君には会えませんでした。
そのかわり、鋼のように鈍く光るキバを持った大きな猪と、数体のプテラ君に襲撃され、両者ともナルさんが返り討ちにして仕留めました。
僕も多少結界を張って防御のお手伝いをしたんですけど……。
うーん、ナルさんが強すぎて、あんまりお役に立ててる感じがしませんね。
いや、なんというか。
とにかくナルさんの先天スキルが強いです。
超電磁誘導術が自身の魔力を電気や磁気に変換できるというのは聞いていて知っていましたし、実際に電撃パンチとかで使っているのも見たことあります(なんなら食らったこともあります)が。
出力が尋常じゃないんですよね。
たぶん瞬間的には一億ボルトぐらい出てるんじゃないでしょうか。
この森の生き物たちも、どれほど身体が大きくても生き物である以上体内に水分はありますし、脳から神経を伝う電気信号で肉体を操作しているはずですので、超高圧電流を体内に流し込まれると耐えられないみたいです。
ちなみにこの日の晩ご飯は牡丹鍋にしました。
鋼みたいなキバは高く売れそうということで、ジェニカさんが喜んでいました。
さらに翌日。
またまた獲物を探して森の中をウロチョロしてみましたが、やはりティラノ君には会えませんでした。
かわりに、白金色に輝く一本ツノが生えた大きな馬と、真っ黒いウロコの大きなヘビに襲撃され、馬はナルさんが、ヘビは僕の結界で首を落として仕留めました。
さすがに、あまりにも大きすぎる生き物には電撃の出力が足りないのでしょうか。
ナルさん曰く、口の中に腕を突っ込んで中から焼けば勝てるとのことでしたが、そんな危ないことはノーセンキューです。
適材適所。
ほんとにバカみたいに大きな生き物の相手は、僕に任せてくださいな。
ちなみにこの日の晩ご飯は桜鍋にしました。
白金色のドリルみたいに捻れた一本ツノは高く売れそうということで、ジェニカさんが喜んでいました。
そしてさらに翌日。
「は、放せっ……!? ……うおおぉぉぉおおおおおっ!?」
ナルさんの絶叫が、森に響き渡りました。
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