第045話・一観理解(ひとみしり)する
フジクラ家の領地にやってきて十日ほどがたちました。今日も僕は元気にお嬢様の従者をしています!
いやぁ、しかし。
フジクラ家の領地、広いですね。
ワーフー諸島連合国の中でも二番目に大きい島の、中心部から南側一帯にかけてが領地なんですけど、他の家の領地を北のほうの山間の地にぎゅっと押し退けて、平野部の大半を領地にしています。
お城も大きいですね。
敷地面積がヒデサト家のお城の三倍ぐらいありそうですし、建物自体も二倍ぐらい大きいと思います。
お城の下にある城下町(頭痛で頭が痛いみたいな言い回しになっちゃいました)も広いですし、城下町と同じ規模の町があと二つほど(これらも城下町って言われてるみたいです。紛らわしい)お城の近くにあります。
町にはたくさんの人が住んでいますし、領地内には田畑がたくさん広がっているみたいで、財政的にも潤ってそうですね。
フジクラ家の領地に入ったときに人里離れたところで着陸してみんなで歩いてきたんですけど、もうそこら中に田んぼが広がっていて青々とした稲穂が風に揺られて海のように波打っていました。
あれが黄金色に変わって金の海みたいになったら、美味しいお米が収穫できるようになるわけですね。
うーん、その様子を想像しただけでワクワクしてきちゃいますね。
僕も結界術を使ってお手伝いしてみたいものです。
任せてくださいよ、頑張って結界製コンバインを作りますので。
あとでお米を一俵いただけるなら、僕の視界内にある田んぼ全てを刈り入れしてみせますとも。
などなどと考えながら、城下町に入って手近な宿を借り、フジクラ家との会談の日を待っているのです。
なお、借りた宿の部屋は僕の結界で包んでいて、ナルさんは基本的に部屋から出歩かないことにしています。
「大人しく瞑想でもしとくよ」
とはナルさんの言葉ですが、どうやら、輿入れの話があったことでナルさんの顔を知っている者も領内に多いらしく、下手に出歩くとトラブルが起きかねないのだそうです。
ウチの若頭が死んどるのに、なんでオドレだけ生きとるじゃ、おおっ!?
みたいに言われるかもしれないということですね。
お嬢様がフジクラ家の方々とどのようなお話をするつもりなのかは分かりませんし、その場にナルさんを連れていくつもりなのかも分かりませんが、とりあえず伏せられる手札は伏せておくつもりのようです。
ところでお嬢様って毎ターン罠カードを場に伏せていくタイプなんでしょうか。
サインコサインタンジェントショッカーを出されると苦戦しそう。
もしくは島カードと妨害系のカードしかデッキに入っていないタイプとか。
ドロー&ゴーイングマイウェイ、ってやつですね。
「ナナシさん。何か失礼なことを考えていない?」
いえいえそんなまさか。
お嬢様は正々堂々と
「よく分からないけど、そうね、卑劣なのは好きじゃないわ」
ですよね。
やっぱり赤単速攻が正義だと思います。
ちなみに僕は、光と水の二色使いデッキでした。
ともあれ。
それはさておき、なんですが。
僕は今、城下町(フジクラ家の方々が住むとても大きなお城のそばにある町です)の外れにある鍛冶師たちの工房にお邪魔して、鍛冶の様子を見学させてもらっています。
隣にはお嬢様もいて、ふたりで椅子に座って静かに見学しています。
トンテンカンテンと槌を振り、真っ赤に焼けた鉄を叩いて伸ばして。
炉に突っ込んではまた取り出して、叩いて伸ばして折り返して。
時折水に入れてじゅううと音を出し、また炉に入れて熱してを繰り返して。
今来ているのは刀鍛冶さんの工房ですが、先日はクワやカマなどの農作業道具を作っている方の工房にお邪魔しましたし、
その前の日には鍋や焼き網や包丁などの日用品を作っている方のところに行っていました。
他にも、革細工をしている工房にお邪魔して皮のなめし方とかツヤの出し方、裁断、裁縫の仕方を教えてもらったり、
機織り小屋にお邪魔して紡績の仕方から布の織り方まで教えてもらったり、
その織物の卸先のお店にお邪魔して、今流行りの反物の柄とか着物のデザインとかを教えてもらったりしました。
それというのも、せっかく和風な国に来ているのでお嬢様たち用のかわいい着物を結界布で作りたい、と思い立ち何着か作ってみたのですが、
それを着て町の中を歩いていただくと、やはりどこかチグハグした印象が拭えず、それもこれも結界服を作る際の僕のイメージが甘いからという現実に行き当たりました。
結界の形状や柔軟性なんかの部分は僕の想像力によって賄われている部分が多く、よく分からないままでイメージすると細部の作りが甘くなるのです。
お嬢様にそんな出来損ないの結界着物を着ていただくわけにはいきませんので、まずはイメージをしっかり固めるべく、本物を目にしてみようと思ったのです。
そんなこんなの試行錯誤があり、そのおかげもあって今日お嬢様が着ている着物は、町行く人々が着ているものと比べても不自然さのない出来栄えとなっています。
見てくださいよ、僕の隣に座っているお嬢様を。
着物スタイルお嬢様、とても素敵です。
夏の縁日で着てくる浴衣のような形状なのですが、とにかく似合っています。
銀色の長い髪は結い上げてカンザシを刺していて、真っ白いうなじと後れ毛がセクシーですし、
襟元からは細いお首と鎖骨が見えていて、ゆったりとした袖口から伸びる手首の細さが際立ちます。
帯で締めた腰回りは驚くほど細く、足袋と下駄を履いたお足は、いつもよりこじんまりとしているように見えます。
そしてですね、浴衣の裾から時々お嬢様のふくらはぎがチラチラと見えるんですけどね、
いやぁ、ほんと。
ごちそうさまですとしか言いようがないですよね……。
ああ……、そういう自然なチラリズムは、僕にはとても効くのですよ、お嬢様。
何度か舐めさせていただいているとはいえ、美しいものは何度見ても良いものでして。
夏の強化合宿をしていなければ、本来の目的を忘れてお嬢様のお足ばかり凝視してしまっていたかもしれません。
合宿を提案してくださったナルさんには、感謝しかありませんね。
おかげで僕も、多少はチラチラと見てしまうとはいえ、きちんと目の前の鍛冶作業の様子に集中できます。
ふむふむ、ほほう。
なるほどなるほど。
僕とお嬢様は、無言で鉄を打ち続ける職人さんたちの姿をじっと見つめながら、夕方まで工房で過ごしたのでした。
◇◇◇
「やぁ、君たち。可愛いね。良かったら私とお茶しない?」
刀鍛冶さんたちの工房からの帰り道、僕とお嬢様はナンパに遭いました。
……はい?
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