第3章・ワーフー諸島連合国・キャプテンナナシの蹂躙戦線編

第039話・夏のビーチバカンス



 夏だ! 海だ! 水着だ!!



 というわけで、はい。


 僕たちは今、人里離れた浜辺に陣取って(浜辺全体を結界で囲って余人が立ち入らないプライベートビーチ化しています)夏の陽射しをおおいに浴びながら遊んでいます。


 青い空と海、白い雲と砂浜。

 波打ち際ではしゃぐお嬢様たち。


 眩しくて目が潰れてしまいそうなので僕は結界製のサングラスをかけています。


 いやほんと。

 見てくださいよ、三人の水着を。


 まずお嬢様は、薄緑色の布地をベースに白色フリルを多めにつけたセパレートタイプ水着にしました。


 胸回りと腰回りに多量にあしらったフリルによってお胸もお尻もワンサイズアップして見えるすぐれものです。


 まぁお嬢様、そんなものなくても素敵なボディラインではあるのですが。

 より美しくを目指すお気持ちは誰にも止められないものでありますので。


 次にジェニカさん、オレンジ色ベースのカラフル水玉模様布地で、袖付きワンピース型の水着にしています。


 カラフル水玉とかよっぽど着こなしが良くないとダサくなってしまいそうなんですが、さすが大人な女性のジェニカさん。めちゃくちゃ似合ってます。


 麦わら風帽子と薄手のパレオと厚底サンダルを合わせましたが、これがなかなかベリーグーでして。


 というかジェニカさんも仕草の端々で品の良さが見えるので、避暑地でリゾート中のお嬢様女子大生とかに見えますね。すてき。


 そしてナルさんについては、あまり細かい要望がなかったので黒のビキニにしてもらいました。

 真っ白いお肌に黒の布地がよく映えます。


 僕の精神修行も兼ねているので思い切ってハイレグカットのビキニにしてみましたが……、いやぁ、これはヤバいですね。


 僕はもう何度その破壊力にやられて鼻血を出したか分かりません。

 海賊団のコックさんとか元グリーンベレーのお巡りさんみたいな感じですね。


 ちなみに、僕の水着は結界製の半ズボンを水着的な素材に変えただけのものですが、他の三人のものはそれぞれの意見を聞いたうえでより質感にこだわって作っています。


 普通の結界服よりも着心地が良くなっているのはもちろんのこと、予期せぬことでは脱げにくくなっています。


 ふふふ、頑張った甲斐がありました。


 あと、いつか女神様にも着ていただこうかと思ってスクール水着素材でも作れるように練習しました。


 それ以外にも色々と女神様に着ていただきたい服はありますので、僕は結界製の様々な服を作れるように鋭意練習しているのです。


 任せてください女神様。

 またいつかお会いしたときは、女神様のファッションショーを開催できるようにしておきますので。


 はあぁ……、女神様、また新しい木像もたくさんお作りしますね。


 最近は戦乙女ヴァルキリーお嬢様の木像に比重を置いていましたし、ジェニカさんとかナルさんの木像にも手を出し始めたので、ちょっとスケジュールがタイトなのですが。


 まぁ、なんとかなるでしょう。

 睡眠時間は削れませんので、一彫り一彫りをより丁寧に素早く精密に彫るように練度を上げていくことにします。




 さてさて。

 僕たちは今、ワーフー諸島連合国に来ています。


 ではどうしてこんなふうに浜辺でバカンスをしているのかと言いますと。


 ワーフー諸島連合国って、大小いくつもの島が集まってできていますので、海は遠浅で穏やかなところが多いんですね。


 で、森の中ではあんまり気にしていなかった(森の中では基本的に亜熱帯性気候でした)んですが、今って夏なんですよ。


 暗妖の大礁海で過ごしているうちに季節がすっかり夏になって(大礁海の海域は、常に霧が出ていて薄暗く肌寒いので気づきませんでした)しまっていて、それならもう、満喫するしかないでしょうと。


 そしてそれとは別に、ナルさんから言われました。


「ナナシお前、いい加減に慣れろ」


 そうなんです。


 僕、ナルさんの生足を見るたびに鼻血を出していたのですが、さすがに会って一月もたつのにいつまでもそれではダメだろうと。


 ナルさんから、呆れと怒りのこもった言葉を伝えられまして。


「いいか。私は先天スキルの都合上あまり肌を隠したくないし、そもそも厚着が嫌いだからなるべく薄着でいたい。そして戦闘になれば靴は邪魔にしかならんから、よほどのことがない限り脱ぐ。それなのに私が裸足になるたびにお前が鼻血を出したり気絶したりしていたら、話にならんだろうが」


 と、まことにごもっともなお言葉でして。


「お前も私も、ハローチェやジェニカを守るために戦わねばならん身だ。肩を並べて戦うこともあるだろう。だが、素足がどうのと素肌がどうのと、そんなことでいちいち戦線離脱する奴とは肩を並べて戦えん。そんなことでは困る」


 一理どころか八理ぐらいあります。

 ナルさんってひょっとして軍師もいけるタイプでしょうか。


「だから、私が素足を出していても大丈夫なように、慣れろ。いいか。分かったな?」


 サー、イエッサー!!



 などというやりとりがあって、いったん人のいない浜辺で(主に僕の)強化合宿となったわけです。


 それでもうかれこれ一週間ほどになりましょうか。


 午前中は僕とお嬢様とナルさん(三人とも水着姿です)で戦闘稽古。

 午後はジェニカさんも含めて泳いだり遊んだり日光浴したりを繰り返しています。


 最初の三日ぐらいは本当に、ことあるごとに鼻血が出てしまいました。


 いやだって、ナルさんたら僕が渡したハイレグカット黒ビキニを何も言わずに来てくれたんですけど。


 もうね、ほんとにヤバいんですよ。

 ただでさえ長いナルさんのお足が、ハイレグカットのせいでもう「ほんとに同じ人類ですか?」ってぐらい長くなっていてですね。


 ただてさえ鋭い切れ味がさらに鋭くなって、僕の情緒をめちゃくちゃに切り裂いてくるんですよね。


 なので初日は、浜辺を拠点化するための結界一式や水着を作成した以外は、水着で実戦鍛錬する二人をずっと見つめ続けて、鼻血を出しては女神様像に祈って心頭滅却して、を繰り返しました。


 浜辺で舞う美しいお足にしこたまハートをビンタされながら、瀕死の状態になるまで追い込まれていたわけです。


 それでもナルさんからの叱咤激励と、お嬢様からの「私の従者なのだから、できるわよね?」という篤い信頼により、どうにかこうにか生足への耐性を高めていき。


 二日目、三日目と時間がたつにつれ、なんとか耐えられるようになっていきました。


 そしてとうとう四日目にして、皆さんの生足を見ても興奮しすぎずにいられるようになり、そこからは僕も混ざって戦闘鍛錬をしているというわけです。


 そうなったところでジェニカさんから「せっかく可愛い水着なのに日光浴ばかりでは面白くないです」と注文が入り、午後はジェニカさんも参加できることをやりましょう、となって今に至ります。


 ジェニカさん、わりと海辺遊び好きなんですね。かわいい。




 ◇◇◇


「……よし、今日の稽古はここまでにするか」


 いやぁ、午前中もたいへんでした。


 けど僕もようやくナルさんの電撃パンチを喰らっても大丈夫になりました(僕自身を完全に包み込む不可知の概念結界を作成できるようになったのです。いぇい)し、蹴足を顔に食らっても鼻血が出なくなりました。


 ナルさんの蹴り、すごいんですよ。

 タンっと跳ねてグンッと伸びてくるんです。

 ムチのように疾く、柳のようにしなやかで、ツルハシのように重い爪先です。


 まともに食らえば首から上が吹き飛びそうなやつですね。

 僕はそれを受けても大丈夫になりました。


 お嬢様の戦杖を使った回転打ちや突き下ろしにも耐えられるようになりました。

 大上段からの幹竹割りを打たれてもへっちゃらです。


 これも全て概念結界鎧のおかげです。


 概念を阻む結界なので、害意や敵意や悪意や戦意だけでなく、毒や呪いやレベル五デスなんかも防げます。

 速度や形状や材質や強度を自動選別して受け止めたり弾いたりできます。


 いわゆるひとつの無敵モードですね。

 星を手にしたヒゲダンディです。


「ナナシさんのその結界鎧、弱点とかはないの?」


 汗だくのお嬢様が、悔しそうに言います。


 もちろんありますよお嬢様。


「まず、結界作成前に意識を飛ばされると作成できません」


 星を取る前に穴に落ちたらダメということですね。


 もっともそれは、常に結界鎧を使いっぱなしにしておけば大丈夫ということですが。


「あとこれは、今のところ僕に対してしか使えません」


 概念結界鎧は他の人に使ったり、複数作ったりできないですね。


 さすがに脳ミソがキャパオーバーします。概念結界と他の結界を併用したり同時作成したりはまだ大丈夫ですけど。


「それに、防御力しか上がりませんし」


 かたくなるとかまるくなるを重ねがけしたみたいなものなので、他のステータスは上がらないのです。


 僕自身がお嬢様たちの盾となるときは役立ちますが、そういうときは普通に結界を張ったほうがいいでしょうし。


 まぁ、すごい技なんですけど、使い所は限られてくるのかな、と。


「まぁ、守りの要が難攻不落になるのはいいことなんだけど……。けどやっぱり悔しいわね……」


 お嬢様は考え込んでいる様子でジェニカさんから結界製タオルと水筒を受け取りました。


 どうやら概念結界の破り方を考えているようです。


 うーん、さすがお嬢様。

 向上心の塊ですね。


「ナナシ」


 ナルさんもタオルで顔をふきながら、僕の名前を呼びます。


「ここ数日で見違えるようになったな。今のお前となら、肩を並べて戦ってもいいと思える」


 ほんとうですか!


 やったあ。ナルさんに認められました。


「ところでどうだ。お前、私の足も舐めてみるか?」


 ……え、ほんとですか!!?


 ナルさんが、ニヤッと笑いながら右足をすいっと持ち上げました。


 な、舐めさせてください!!


 僕はナルさんの前にひざまずいて右足を手に取ろうとして、


 ナルさんの爪先がついっと上がって僕のアゴ先に触れて、


「ど阿呆」


 ヒュパっという風切り音を残して無防備なアゴ先を真横に蹴り抜き、僕の脳ミソをぐらんぐらんに揺らしました。


「あら、ららら……?」


 僕はそのままパタンと倒れ、呆れ顔のナルさんを見上げたまま、脳しんとうで意識を失ったのでした。

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