第032話・夜中大決戦


 ◇◇◇


 すっかり夜も更けてしまいました。


 夕暮れ前からの大宴会騒ぎもようやくお開きとなり、今は新たに借り直した宿の一室にいます。


 なんか、知らない間に一番良い宿の一番高いお部屋に連れてこられていましたが、クラーケン討伐のお礼ということでタダで部屋を貸してくれています。


 部屋の中で寝室もそれぞれ分かれていて、一番大きなベッドのある部屋をお嬢様の使う部屋に割り当てています。


 ちなみに僕はその隣の少し小さい部屋、ジェニカさんはさらにその隣です。


 ああ、それにしても。


「やっぱり新鮮なイカを使ったイカ料理は良いですねぇ」


 特に、切り落としたゲソをさらに食べやすい大きさに細切りにして、甘辛タレをつけて炭火でじっくり焼いたものは絶品でした。


 やっぱりお祭りといえばイカ焼きですよ。


 めでたい時はイカ焼き。

 もしくはアワビの煮貝。


 元日本人として、美味なる海産物にはやはり抗えませんね。


 もっとも、最初は他のみんなが全然食べようとしないので、僕一人でゲソを焼いて僕一人でモグモグ食べていたところ、


 町の人たちから「ゲソ喰いナナシ」とかいうあだ名を付けられてしまいましたが。


 なんというか、皆、元の見た目に惑わされ過ぎなんだと思います。


 どんなに変な見た目をしていたとしても、お醤油(みたいなもの)をかけて焼いてしまえば、だいたいの物は美味しくなりますから。


 お嬢様が食べてみて「美味しい」と言ってくださらなければ、町の皆さんはこんなに美味しいものを食わず嫌いしたままだったと思うと、やはりお嬢様には頭が上がりませんね。


 はぁ……、お嬢様、お優しい……。


 ああ、それと、食べきれなかった分のゲソはジェニカさんの格納空間に保管してもらえることになりましたので、またいつでも食べることができます。やったね。


 というかお嬢様、自分の収納空間に入れていた物のうち、緊急の取り出しがないであろう物(非常時用のものをのぞく食糧や、森で集めたあれやこれや等です)は全てジェニカさんに預けてしまったようですね。


 女神様像の入った鞄も、ジェニカさんが預かってくれているみたいです。


 先ほど夕方の礼拝のため(もう夜ですが)に取り出してもらって知りました。


 これは、ジェニカさんのことを信用しているということと、これから先もずっと一緒に行動するんだからよろしくね、という無言の圧力なんだと思います。


 もう僕たちは一蓮托生ですからね。


 今後とも、末永くよろしくお願い申し上げます。



「ところでナナシさん、この宿には温泉があるらしいわ」


 なんと。本当ですか!


「えへへ〜、ほんよ〜だよ〜。ちぉっと塩辛いんだけどぉ〜、お肌がしゅべしゅべになるんだよ〜」


 町の皆さんからしこたま飲まされてベロベロに酔っ払っているジェニカさんも、頷きます。


「本当はもう消灯時間を過ぎてるらしいんだけど、支配人さんのご厚意により入ってもいいって言われているの。私とジェニカさんはお言葉に甘えるつもりだけど、ナナシさんはどうする?」


 是非とも行きます!


 温泉。良い響きですよね。


 元日本人として、温泉と言われて入らない選択肢は取れないです。


「そう。それなら、ゆっくり汗を流してきましょうか」


 お嬢様は、ジェニカさんに肩を貸しながら先に温泉に向かいます。


 そういえばジェニカさん、泥酔してますけど入って大丈夫なんでしょうか……?


「ほら、しっかりなさい。これ、酔い覚ましだから入る前に飲んで」


「ふひぃ〜、ありぁとおごじゃます〜」


 まぁ、大丈夫そうですね。

 お嬢様がついていますし。


 僕は、鞄から女神様像を取り出して少し遅めの夕方の礼拝を済ませてから、温泉に行きました。


 男湯には僕しかおらず、めちゃくちゃ広々とした湯舟に一人でつかって満喫しました。


 で、新しい結界服を作って着替えてから部屋に戻ると、なんだか甘い香りが漂っていて、照明も半分くらい消えてて、部屋の中がしーんとしていました。


「……お嬢様? ジェニカさん?」


 不思議に思いながら部屋に入っていくと、お嬢様が寝る用の、大きなベッドのある寝室に、お嬢様とジェニカさんがいました。


 二人とも、薄い生地のスケスケのキャミソールみたいなやつを着て、ベッドの上に座っています。


 しかも二人とも、お、お、お足が丸見えで、その、えっと、これは……??


 あまりに興奮しすぎて、鼻血がつーっと出てきました。


「ナナシさん」


 凛としたお声で、お嬢様に呼ばれました。


 僕はふらふらとベッドのそばに行きます。


「今日のクラーケン退治、まことに見事でした。貴方の主人として、また、この大陸に生きる者として、貴方の行いに最大限の賛辞を送ります……ありがとうございました」


 お嬢様が、僕に頭を下げます。

 僕は、慌ててベッドの横でひれ伏しました。


「とんでもありません! 僕はお嬢様の従者として、当然のことをしたまでです! 僕のほうこそ、お嬢様からの激励があったからこそ、あのデカクラ君をしとめることができたと思います! お礼を言わねばならないのは、僕のほうです!!」


「いいえ、ナナシさん。あの化け物を放置すれば、いずれはこの国だけでなく、もっと多くの人々が困っていたはずです。沖合に船が出せなくなれば、経済活動に大きな影響もあったことでしょう。そうなれば、小さな国の一つ二つが潰れてしまうほどの損失を出していたかもしれません」


 さらにお嬢様は、優しい声で言います。


「そんな大きな困難を、貴方は退けました。本来であれば、この国の指導者たちから褒美をもらえるぐらいの快挙です」


「ほんとうに、ナナシくんのおかげで、私の国は救われました。私からも、この国の皆に代わりに、お礼を申し上げます。ありがとうございました」


 ジェニカさんにも、頭を下げられました。


 ええと、ええと、こういう場合、どうすればいいんでしょう……?


 ぼたぼたと出てくる鼻血で鼻が詰まっていて、ちょっと頭が回らないです。


「ナナシさん」

「ナナシくん」


 お二人から名前を呼ばれて顔を上げます。


 お二人のお足がベッドから伸びて、僕の目の前に並んでいました。


 おお、これは、なんという……。


 片や、少女然とした儚さと細さを兼ね備え、ふくらはぎからくるぶしまですらっとした曲線美グランドラインを誇るお嬢様のお足。


 片や、商人としての歩き詰めの生活によってぎゅぎゅっと引き締まったふくらはぎの、ジェニカさんのお足。


 どちらも、違った良さのある素敵なお足です。


 どちらもとても美味しくて、どれほど舐めても飽きのこない味わいのお足です。


 その二人の生足が、目の前に並んでいます。


 至福の光景に、僕の頭は真っ白になりました。


「ベッドの上に来なさい。今日は好きなだけ、好きにしていいから」


「私たち二人で、ご褒美をあげるね」


 二人に手を引かれて、ベッドの上に上がった僕は…………、




 ◇◇◇




 ◇◇◇




 ◇◇◇




 ◇◇◇




 ◇◇◇


 …………ふぅ。


 気がつくと、お二人が静かな寝息を立てながらベッドに横たわっていました。


 時刻は夜明け前でしょうか。


 窓から見える海の向こうから夜明けがやってきているのが分かります。


 僕はベッドから降りて窓を開けてみます。


 涼しくて、穏やかな風が入ってきました。

 今日もいい天気になりそうです。


 今日からまた、たくさんの船が港を離れ、漁や貿易に向かうのでしょうか。


「それにしても、」


 ベッドに横たわるお二人を改めて見てみます。


 もうなんというか、お顔のあたり以外、全身ヌルヌルのベタベタになっています。


 二人でヌルヌルローション相撲でもしたのでしょうか、というぐらいの状況ですが、あれはまぁ、大半がぼくのヨダレですね……。


 それで、ですね。


 大半、というからには、僕のヨダレではないものも混じってまして。


 もうちょっと具体的に言うと、お嬢様とジェニカさんの、汗とかそれ以外の体液とか……、その、僕の……、ヨダレでも汗でもない、ちょっとベタベタする白いものとか、ですね……。


 いやその、言い訳をさせてほしいんですけど。


 僕がお二人のお足をいっぱい舐めて味わっていたら、お二人の手が僕の体にも伸びてきて、いろいろ撫でられたり触られたりしたのとですね、


 お嬢様からは「貴方にはいつも助けられているわ、ほら、こっちも吸ってみなさい」って顔を抱きしめられたり(とても柔らかい二つの感触に包まれました)、


 ジェニカさんに「もっとこっちも舐めて!」ってお顔にまたがられたり(たぶん舐める前からベタベタになっていました)、


 僕もこう、お足を味わってるときでめちゃくちゃ興奮してたので、その、身体が反応してしまってですね……、


 えーーっと、……その、……今まではまだ、出たことがなかったんですけど……、なんというか、その……、



 …………出ちゃいました……。



 というか、ううん……。

 これはまた、ひょっとしなくても怒られるやつではないでしょうか?


 お足を味わっているときに男性的な快楽に流されるなんて、不謹慎に過ぎるのではないでしょうか。


 はっ!

 もしかして、このことが原因で、今後のご褒美に制限がかかってしまうのでは!?


 もしお足を味わえなくなってしまったら、僕はどうしたらいいんでしょうか!?


 僕は、慌てて女神様像を鞄から出すと、祈るような気持ちでひざまずき、一生懸命祈りを捧げました。


 女神様女神様。

 どうか僕の罪をお許しください。


 そしてどうか、今後もお嬢様たちのお足を舐められますよう、お力添えを願います。


 どうか、どうか……!!


 お願いします……!!!




 その後、女神様への祈りの甲斐もあってか、お嬢様たちからは特にお咎めの言葉はなく、今後もよりいっそう精進するように、と言われました。


 ああ、ありがとうございます、女神様……!


 これからもよりいっそう信仰させていただきます……!!




 ◇◇◇


「……本当に、舐めるだけで終わっちゃいましたね。もっとこう、違う形で求めてくれていいのに」


「まぁ、ナナシさんだからね。けど、今回は一歩前進よ。今までは出すどころか、大きくなりもしなかったんだから」


「そうなんですか……、けどまぁ、年齢を考えたらそんなものかな?」


「それは……、そうね。それに、それを言ったら私だって、……月のものは、まだだし」


「え? あー……、そうなんですね」


「……なにか言いたげね?」


「いえその、……なんでもないです」

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