第033話・突撃! 海の大秘境!!
カベコプターに乗って港から出発し、海上を東北東に進み始めて三日目となりました。
町の船乗りさんから聞いた話だと、そろそろ海上に霧がかかるころなのですが……。
お、噂をすればなんとやら。
「お嬢様、いよいよですね」
僕は、背後に振り返ってお嬢様に話しかけます。
「暗妖の大礁海の海域に、まもなく入りますよ」
お嬢様は結界製の将棋盤を使って、ジェニカさんと将棋で勝負をしていました。
パチリ、と飛車を打ちながら言います。
「了解よ。海域に入れば今まで以上に周囲の警戒をしながら進んで。森でのことを思えば、海上といえど油断はできないわ。それと、着陸できそうな陸地があれば、いったんそこに降りましょう」
了解です、お嬢様。
「ほんとのほんとに、このまま進むんですか? 今からでも引き返したほうがいいと思いますけど……」
ジェニカさんは、合駒で金を打ちながら、不安そうに言います。
大丈夫ですよ、ジェニカさん。
何が出てきても僕が皆さんをお守護りしますので。
「ジェニカさんの不安ももっともだけど、私としてもこの海域でしか獲れないといわれる燕晴貝がほしいのよ。正確には、貝から採れる真珠が、なんだけど」
なるほど。
ということは、真珠の入った貝をたくさん見つけないとダメということですね。
真珠をずらっと連ねた素敵なネックレスを作れるぐらいに、たくさん。
「燕晴貝……! とてつもなく美しく貴重で高価な真珠を作るという、あの……! それは確かに、ここに来なければならないでしょうけど……、しかし、命あっての物種ですよ?」
「危険は百も承知よ。だからこそ、価値があるんじゃない」
「それはそうですが……。あっ! それなら、私が燕晴貝の真珠を探してきますよ! とても貴重なものではありますが、市場に流通しているものもいくつかありますから! 任せてくださいよ、あらゆる手段と人脈を使って必ず買い付けてきますので! だから、ね? ね? 帰りましょうよ、ハローチェさん」
お嬢様は、少し考える素振りを見せました。
「ふむ。買って集められるのなら、それに越したことはないけれど」
「そうでしょう!」
「その場合は、私の首にずらりと巻けるだけの数を集める必要があるわよ? そんな数を買い集めるなんて可能なの?」
ジェニカさんは、頬を引きつらせました。
「ええっ……、そんなすごいものを作ろうとしてるんですか……? それ、本当に作るとしたら、大国の国家予算数年分のお金が必要ですよ??」
「そうでしょうね。だから、自分たちで獲りに行くのよ。……はい、王手」
「え? ……あー!?」
話している間にもパチパチと駒を動かし合っていたようで、気がつけばジェニカさんが王手をかけられています。
ジェニカさんは、苦しそうに顔を歪めながら結界製将棋盤を見つめます。
「このままなら、私の勝ちかしら? それならこの後の進路も、このまま私の望み通りでいい?」
「ま、待ってください……!? ええと、ええと……!」
だらだらと汗をかきながら、ジェニカさんは必死で考えています。
それを見ていたお嬢様が、ふぅ、とため息を吐きました。
「そんなに嫌なの? それなら、貴女に大チャンスを与えましょうか」
そう言うとお嬢様は、将棋盤をくるりと反転させました。
「陣営を入れ替えて、貴女の手番を私が打つようにしましょう。これできちんと貴女が勝てれば、ジェニカさんの言うような方策をとります。つまり、暗妖の大礁海には行きません」
「本当ですか!」
「ただし、ここから私が逆転して勝つようなことがあれば、今回は大人しくついてきなさい。分かったわね?」
そう言いながらお嬢様は、パチリと駒を動かします。
先ほどとは打って変わってウキウキ顔のジェニカさんは、素早く孤立した角を取りました。
それからしばらくパチパチと駒を打ち合う音がカベコプター内に響いたのですが。
「ふふふん、いただきです」
「よし、これなら勝てますね」
「逃げ道を、……ここ!」
「……あれ、なかなか詰まない」
「……あ、それを取られたら……」
「ううぅ、えーっと……、こっちを……、いや、こっち……?」
「ああ……、そんな……」
「…………参り、ました……」
ジェニカさんががっくりと項垂れ、お嬢様がやれやれといったお顔で言いました。
「ふふふ、ジェニカさんもまだまだね。約束通り、このまま進むわよ」
はい、お嬢様。
全速前進です。
そうしてカベコプターは音もなく、霧の深い海域に突入していきました。
◇◇◇
霧の中を進んでいると、何度か襲撃を受けました。
海中から飛び出して襲ってくる、鼻先が鋭利に尖った巨大なトビウオみたいな魚です。
結界を突き破ることはできないのですが、襲撃を受けるたびにけっこうな衝撃があってカベコプターが揺れるので、そのたびにジェニカさんが悲鳴を上げています。
「ジェニカさん、大丈夫ですか?」
すっかり青い顔のジェニカさんは、僕の服の裾をギュッと掴んで離してくれません。
「だ、大丈夫なのは分かってるんだけど……、やっばり怖いものは怖いと言うか……。急に来られると心の準備が……」
ドゴン!!
「ひやああああっ!?」
あ、またぶつかってきました。
僕は弾かれて海に落ちていくトビウオを結界で囲んで回収します。
すでにカベコプターの後ろを追従する荷物用カベコプター(略してニモコプターです)の中にはイキの良いトビウオが何匹も入っており、このトビウオたちはどこかに着陸して休憩するときにまとめて捌いて焼いて食べようと思っています。
あと、どんどん霧が深くなってきて前が見えにくいので、結界製ライト(光量を限界まで上げた結界壁のことです)もいくつか点灯しているのですが、それでもやはり視認性が低いですね。
おかげでいつも以上に速度を落としていますし、直前までトビウオの接近に気づけず、避けられません。
ん、おやおや?
「お嬢様、ジェニカさん。霧の向こうに陸地が見えますよ」
あれは……、島、でしょうか?
わりと広い地面があります。
見た限りでは、着陸できそうですね。
「陸上に、生物の姿は?」
「ないですね。……ただ、」
「ただ?」
僕は見たままの状況を、お嬢様に伝えました。
「板を組んで屋根らしきものを作ってたりとか、焚き火の跡とか、干してある洗濯物らしき物とか……、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます