第026話・盗賊、討伐、テンプレーション


 僕とお嬢様とジェニカさんは、カベコプターに乗って道に沿ってどんどん東に進みます。


 最初カベコプターを見たジェニカさんは、腰を抜かしそうなぐらい驚いていましたし、飛び始めてしばらくは何が起きているのか分からないといった表情をしていましたが。


 お嬢様が色々と説明をしてくださったので、今ではある程度落ち着いて座ってくれています。


 僕は、カベコプターを動かしている時は基本的に前を向いていなければならず(車の運転と一緒ですね)、怯えるジェニカさんに細かい説明をすることができませんでしたが、お嬢様が説明してくれたのでなんとかなりました。


 今もお嬢様が、ジェニカさんに色々と説明をしてくれているようです。


 僕は前方に集中しているのでよく聞き取れませんが、何かをお話ししている様子は感じ取れます。


「……え、これって全部結界術なんですか……? 私の知ってる結界術と違うんですけど……」


「私も最初は驚いたけど、現にそうなのだから仕方がないわ。なんでもナナシさんはあの極魔の大森林で一人で三年間暮らしていたみたいで、そこで生き延びるために結界術を駆使していたらこうなったみたいよ」


「極魔の大森林……!? そこって一度入ったら二度と出てこられない、化け物たちの巣窟ですよね……!? なんでそんなところに?」


「詳しい理由は分からないけど、あの子が死ぬほど信仰している女神様から頼まれた、みたいなことは言ってたわね」


「女神様って、さっきご飯食べた後に胸像を取り出してお祈りしてた、あの?」


「そうよ。あの像のモデルが女神様らしいわ。……忠告しておくけど、女神様のことは決して蔑ろにしてはダメよ。特にナナシさんの前では。あの子の信仰心、鑑定しても測定エラー起こすぐらい高いから」


「そんなことあります??」


「あるのよ、それが」


「というか、極魔の大森林の化け物たち相手に、結界術だけでどうやって生き延びたんですか?」


「この子の結界って、私たちじゃどうやっても壊せないぐらい頑丈なのと、その頑丈さを切れ味に転化した光の刃を使えるの。すごいわよ、光の刃。どんな生き物の首でもスパッと落とせるから」


「ひえっ……」


「あとは窒息させたり、ネジ切ったり、ペシャンコに押し潰したり……、まぁ、なんでもできるわ。今朝のウルフだって、全部ナナシさんがしとめて解体したのよ」


「え……。まさかとは思いますけど、私がもらったあの毛皮って、私を食べようとして襲ってきてた奴らなんですか?」


「え、そうよ」


「……そうだったんですね。……私はあんなに死ぬ思いをして逃げてたというのに、ナナシくんなら簡単に倒せる、と」


「ああ……、まぁ、私も同じようなことをされたし、気持ちは分かるわ」


 あ、道から少し外れた小さな森の中に鹿さんがいますよ。

 鹿肉……、良いですねぇ。じゅるり。


「お嬢様、少し寄り道をしてもよろしいですか? お昼ご飯用に鹿肉をゲットしたいです」


「あらほんと。お願いするわ」


 お任せくださいお嬢様!


 僕はカベコプターをすいーっと降下させて小さな森の上に行くと、木の実か何かを食べていた鹿さんを結界で包んで持ち上げて回収します。


 そのまま元の航路に戻りながら鹿さんの首を落とし、血抜きをしながら東へ進み続けます。


「ね。こんな感じよ」


「いやぁ……、とんでもないですね」


 お昼は新鮮なお肉が食べられそうです。

 いやぁ、嬉しいなぁ!




 ◇


「盗賊団? そんなものがいるのね」


 お昼になり、しっかり焼いた鹿肉ステーキをみんなで食べていたところ、ジェニカさんが言いにくそうに言い出しました。


「はい、このまま道に沿って進んでいくと小山の脇を通るんですけど、そこの小山に盗賊団が住み着いていて、時折道行く旅人や行商人を襲っては金品や食糧を奪っていくのです」


 なんと。それは穏やかではありませんね。


「そんな連中が行商路の道中にいては、安心して商いをすることができないわね」


「はい、ほんとうに困っています」


 しかしお嬢様、ご安心を。


 そんな不埒者どもが住む小山など、僕のカベコプターなら楽々飛び越えて進んでいけますとも。


「いいえナナシさん。この際だからその不埒者ども、根絶やしにしてやりましょう」


 おや、お嬢様。

 よろしいのですか?


「ええ。そうすれば、ジェニカさんのみならず、この道を通る人たちが皆助かるのだから。どうせ急ぐ旅でもないし、やっちゃいましょう」


 分かりました!

 それならその小山が見えてくればお伝えしますね!


 というわけで、そこからさらに二時間ほど移動をしていると、小高い山が見えてきました。


 木々が多く、山肌はほとんど見えません。

 この山のどこかに盗賊たちがいるのでしょうか。


「山の真上に行ってちょうだい。あと、下から見えないようにできるかしら」


 僕は、カベコプターの底面を空の色と同じ色に変色させ、小山の上空二十メートルぐらいの高さにいきました。


 お嬢様が、目を閉じて何かのスキルを使っています。


「……いるわね。全部で十八人。そこのあたりにアジトがあるみたいだわ」


 お嬢様が指差したあたりを、僕は出入り不可能の結界で覆いました。

 これで誰も逃げ出せません。


「上出来よ、ナナシさん」


 僕はカベコプターを移動させて、盗賊たちを囲んだ拘束結界の上に着地します。


 下の様子を伺うと、突然発生した結界に気づいて慌てている盗賊たちの姿が見えました。


 何人かは結界壁を叩いて壊そうとしていますね。

 まぁ、壊すどころかひび一つ入れることもできていませんが。


「ナナシさん。ちょっと行ってくるから、穴を開けてちょうだい」


 はい、お嬢様。


 僕が、カベコプターの底面の一部と拘束結界の上面の一部に穴を開けると、お嬢様はその穴をくぐってヒラリと拘束結界内に降りていきました。


 手には、収納空間から取り出した蓬莱樹の戦杖が握られています。


 行ってらっしゃいませお嬢様。

 ご武運を。


「……え!? ハローチェさんだけ行くの!? ナナシさんは行かないの!?」


 僕がお嬢様に向けてヒラヒラと手を振っていると、その様子を見ていたジェニカさんが驚きの声を上げたのでした。

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