第025話・十歳ぐらい歳下の男の子に足を舐められてちょっとドキドキしちゃう女商人


「こ、この大量のファイファングウルフの毛皮も全部もらっていいんですか!!?」


 朝食後。


 始末した犬コロたちの死骸をどうしたものかお嬢様に相談したところ、この犬コロたちの毛皮はそこそこ良い値段が付くのでジェニ子さんに譲ってあげなさい、と言われました。


 まぁ、僕たちが持ってても仕方ないですもんね。かさばりますし。


 けど、ジェニ子さんもこんな大量の死骸を貰ったらたいへんだと思いますので、僕のほうで切り分けて毛皮とそれ以外に分別し、毛皮以外の部分は穴を掘って埋めました。


 それで、大量の毛皮をジェニ子さんに譲ると伝えたところ。


「いやいやいや! やっぱりいただけませんって! だってこれ、全部売り払ったら金貨何枚分になると思っているんですか!? そんなに気前よくほいほい譲り渡していい物ではないですって!!」


 そうは言われましても。

 お嬢様がそうせよとおっしゃいますので。


「ハローチェさん! このようなことをしていただいても、私にはお返しできるものなど何もありませんよ!?」


 するとお嬢様は、優雅に笑って言います。


「そうおっしゃらず、受け取ってくださいな。そちらも今、厳しいのではないですか?」


「……!」


 おや、ジェニ子さんが、すごく困ったような訝しむような表情になりましたね。


 どうしたのでしょうか?


「……いったい、なんのことでしょうか?」


「誤魔化さずともよろしいですよ。それに、……申し訳ないですが、実は貴女が目覚める前に、貴女のことを『鑑定』させていただいています」


「なっ……!?」


「貴女のその、なんでも入れられる先天スキルと商取引に特化して習得したであろう汎用スキルの数々。だというのに、所持品も所持金もゼロに近く、あげくは着の身着のままに近い状態で行き倒れてしまっている事実。ここまで分かれば、少し頭を使えばだいたいの事情は察せます」


 ほほう。そうなのですか?

 それはつまり……。


「飾ると幸運になるツボを全財産はたいて買って無一文になった、ということですね」


「違うわね」

「さすがにそんなことはしません……」


 違いました。

 恥ずかしい。


 僕は顔を手で覆って小さくなります。


「……コホン。貴女さっき、返せるものはないと言っていたけど、そんなことはないはずよ? 私の見立てが正しければ、貴女は私が必要とするものを持っているし、この毛皮を足がかりにすれば、より大きなものとなって私のところに返せるのではなくて?」


「……それは」


「ここでこうして会ったのも何かの縁。私は貴女に必要なものを渡し、貴女は私が必要とするものを返す。お互いがお互いに得をする関係に、きっとなれると思うのだけれど」


 いわゆる、Win-Winの関係というやつですね。

 僕も好きです。僕と女神様の関係とか、僕とお嬢様の関係も、そういう関係ですし。


「もしそれでも納得がいかないというのであれば、その毛皮を渡すことの対価は、先に別の形でいただくようにするわ。……ねぇ、ナナシさん」


 なんでしょうか、お嬢様。


を百としたら、ジェニカさんのはいくつ?」


 そう言いながらお嬢様は、自分の右足を軽く持ち上げてみせます。


 なるほど。そうですねぇ……。


 僕は、ジェニ子さんをじっと見つめます。


 歳の頃は、二十代前半でしょうか。


 少し癖っ毛の茶色い髪は肩口ぐらいの長さで、大きく弧を描く細い眉と、春風を思わせる薄い青色の瞳は、くりっと大きくて愛らしいです。


 顔つきは丸顔ですがお鼻は高く、背丈は高めなので幼い感じはしません。


 腕周り肩周りは意外と筋肉がついているようで、お胸の膨らみは同年代の方々と比べてもやや大きいぐらいでしょうか。


 お腹周りのくびれはすごいです。

 細すぎるというわけではないのに、身体全体を見たときにそこだけギュッとくびれているのが分かります。


 そして腰回りはふっくらしていて、そこから太ももにかけては非常に肉厚でボリューミーです。


 例えるなら、牛丼メガ盛り、みたいな。


 ふくらはぎの引き締まり方と対比するとより顕著で、ここまで大盛りにしてくれるならまた食べに来ちゃうよ、みたいな。


 とにかくすごいです。

 ズボンの上からでも、腰回りと太もものすごさが丸分かりなのです。


 うーん、これは……。


「八十五ですね」

「ナナシくん?」


「分かったわ。ジェニカさん、ひとつお聞きするけど」


「……なんでしょう」


「貴女、足の裏は弱いかしら?」


「なんの話?」


「ちょっと、片足でいいから靴を脱いでみなさいな」


「待って、ほんとに何??」




 その後もお嬢様がジェニ子さんと交渉してくださった結果、なんと僕はジェニ子さんの両足の裏を三分間も味わうことができました!


 ジェニ子さんを助けた結界の使用料金と、朝食の代金と、毛皮の代金ということらしいです。


 計算式がよく分かりませんが、とにかく僕はジェニ子さんのお足を堪能することができました。


 ああ、美味しかった……!

 とても濃厚で、芳醇なお足でした……!!


 ありがとうございますお嬢様!


 一生ついていきます!!




 ◇◇◇


「まぁ、ナナシくんには冗談抜きで命を助けてもらっているし、足を舐めさせるぐらいならいくらでもしてあげるけど……」


 結界小屋でシャワーを浴びて結界服に着替えたジェニ子さんが、そんなことを言います。


 え、マジですか。

 いくらでもいいんですか……!?


「ダメよジェニカさん。それこそそれは、タダで大量の毛皮を譲るに等しい行為よ。命の対価になるものを安売りしてはいけないわ」


 と思ったら、お嬢様に止められてしまいました。

 うぅ、残念です。


「そ、そう……。ちなみにナナシくんは、ほんとうに足だけでいいの? もっと他に気になるところがあるなら、そっちでも良いんだよ……?」


 いえ、大丈夫です。

 これほど美味しいお足を舐めさせてもらいましたので、僕は大満足です。


「そうなんだ……。ナナシくんって、変わってるんだね」


 そうですね。世間一般でいうところの普通からはだいぶ外れているとは思います。


 けど大丈夫です。

 僕は今とっても幸せなので。


「ナナシさんってこういう子なのよ。貴女も早く慣れるといいわ」


「は、はい……」


「あと、ナナシさん。ジェニカさんは私と対等な売買契約を結んだ商人よ。そのつもりで敬意を持って接しなさい」


 分かりました!

 それならジェニカ様とお呼びしますね!


「さ、様付けはさすがに勘弁してほしいかな……」


 では、お嬢様に倣ってジェニカさんでよろしいですか?


「うん、それでお願い」


 それでは、ジェニ子さん改めジェニカさん。


 これからよろしくお願い致しますね。

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