第009話・やっと現れた常識人属性
◇◇◇
ぺろぺろ、ぺろぺろぺろ……。
ぺろぺろ、ぺろぺろぺろ……。
ぺろぺろ、ぺろぺろぺろ……。
ぺろぺろ、ぺろぺろぺろ……。
ぺろぺろ、ぺろぺろぺろ……。
ぺろぺろ、ぺろぺろぺろ……。
ぺろぺろ、ぺろぺろぺろ……。
「……うぅーん。……ここは? ……へっ?」
……どがちゃーん!
どんがらがっちゃんちゃん!!
◇◇◇
「ナナシさん、
森のみなさんこんにちは。ナナシです。
僕は今、小さく丸まって土下座しながら、目の前に仁王立ちして怒りを露わにする女の子から罵声を浴びせられています。
女の子の右足のくるぶしから下は、僕のヨダレでヌルヌルのベトベトです。
つまりはそういうことです。
……やっちまいました。
僕と同年代くらいに見える女の子(先ほどお名前をお聞きしたところ、ハローチェちゃんというみたいです)は、ひたすらに僕を罵倒してきます。
「馬鹿! 変態! おたんこなす!! 助けてくれたことは感謝するけど、人の足を勝手に舐めるなんて!! このおバカ!!」
ハローチェちゃんの全身には、僕が森で集めてきた打身や擦り傷に効く薬草が貼られていて、その上から包帯(結界布製)が巻かれています。
墜落の衝撃で頭を打って気を失っていたので、僕の家のベッドに寝かせて手当てをしたのです。
で、そのときに、着ていた服を脱がせて下着姿にしてから手当てをしたのですが……。
「はい、本当にごめんなさい。あまりにも可愛らしい女の子のあまりにも美味しそうな生足を見てしまい、つい我を忘れてぺろぺろしてしまいました」
「か、かわ……!? いや、そんなことでは騙されないわよ! 貴女って本当にド変態ね!! 女の子の足をペロペロ舐めるのが好きなんて、度し難いわ!!」
ハローチェちゃんは今、自分が下着姿の包帯姿であることも忘れて怒っています。
それだけ怒りを感じているのでしょう。
僕には平身低頭することしかできません。
「はい、変態でごめんなさい」
「この変態!」
「舐めるだけじゃなくて、爪先をくわえてちゅぱちゅぱ吸うのも好きですし、地面に寝転がって踏んでもらうのも好きなんです」
「変態!!」
「ふくらはぎに頬ずりしたり、太ももで顔を挟んでもらったり、顔の上にお尻を乗せてもらうのでも興奮できます」
「ド変態!!」
「今までしたことのあるプレイで一番すごかったのは、**を***して***したり**に**で*****したりしたやつです……」
「聞きたくないわよそんな話!?」
「あとは、」
「聞きたくないってば!!」
あまりにも怒られ過ぎて、言わなくても良いことまで言ってしまっている気もしますが、ちょっとよく分かりません。
僕はひたすら土下座して謝り続けました。
それ以外に目の前の女の子の怒りを鎮める方法が思いつかないからです。
そうしていると、やがてハローチェちゃんも怒り疲れたのか、若干トーンダウンしてきました。
「だいたい貴女、なんでこんなところに住んでるのよ。ここがどこだか分かってるの?」
「いえ、まったく。なんか大っきい森だということしか知らないです」
ハローチェちゃんは呆れたような表情を浮かべました。
呆れられても、知らないものは知らないのです。
「いいこと? ここは極魔の大森林と呼ばれる秘境のひとつよ。人類では太刀打ちできないような巨大な生き物たちが跋扈する人外魔境の地なの。気軽に入っていいところではないわ」
なるほど。やっぱり危険な森だったんですね。
僕の結界ならまったく危険がないのであまり考えたことがなかったのですが、そもそもこの森に人っ子ひとりいない時点で、普通の人間が立ち入らない場所だと分かりますね。
「……そもそも貴女どうやって暮らしてるのよ。家族は?」
家族、ですか?
「あいにく産みの親のお顔を見たことはありませんし、血の繋がった人間というものに会ったこともありません」
これは、前世の記憶まで遡ってもそうです。
前世の僕は公共の福祉という概念によりすくい上げられた存在でしたし、現世では気づいたらここにいましたので。
「今まで色々なところに行きましたが、この森に来たのは三年ほど前からです。所用があってこの森に住んでいましたが、最近その用事も終わってしまったので、これからどうしようかなぁと思っていたところではあります」
「貴女って……。いや、いいわ。それよりも」
そう言ったハローチェちゃんの瞳には、先ほどまでと変わって理知的な光が宿っていました。
「貴女、意識のない私の足を勝手に舐めていたなんて、私の国なら犯罪よ。ド変態の大犯罪者よ」
「はい、本当にごめんなさい。ちなみに僕の生まれ故郷でも犯罪ですし、重罪です」
現代日本ならネットに住所氏名職業勤務先まで晒されて炎上しますね。
もうあんな目に遭うのはこりごりです。
「そうでしょう。そんな貴女に問います。今回のことを反省する気持ちはあるのかしら?」
僕は、誠心誠意答えます。
「はい、申し訳ない気持ちでいっぱいです。償いの機会が得られるのであれば、お慈悲をいただきたいです」
「そう。それなら、更生するチャンスをあげるわ。ところで貴女、家事は得意かしら?」
得意か、と聞かれると別に得意ではありませんが……。
「曲がりなりにもこの森で三年間独り暮らしをしていたので、一通りのことはできます」
僕は前世でも就職してからはずっと独り暮らしでしたし、それなりに家事経験はあるのです。
「戦いの心得は?」
「殴る蹴るはできませんが、結界術は使えます」
「結界術……? まぁ、ないよりはマシね。それに、護衛ということなら使い道はあるか……」
結界術と聞いてハローチェちゃんは渋い顔をしましたが、なにやら勝手に納得しました。
え、というか、そんなに渋い顔します?
結界術は良いスキルですよ?
なにより女神様からいただいたスキルですからね。
正確には超・結界術(極)ですし。
「貴女、読み書き計算はできて?」
「……読み書きは分かりませんが、計算は得意ですよ」
「それなら問題。兵士一人あたりの維持費が月に金貨七枚で、領内には兵士が二百五十人います。一年間の維持費は金貨何枚?」
「金貨二万一千枚ですね」
「……ちょっと待ちなさいな。えーと……、」
「兵士三百人なら二万五千二百枚、兵士五百人なら四万二千枚、兵士千二百六十七人なら、十万六千四百二十八枚ですよ」
「そ、そう……。少しはやるじゃない」
ふふん。僕は前世では、そろばん三級を持っていましたので。
これぐらいならお茶の子さいさいですよ。
その後もハローチェちゃんからいくつかの質問を受け、僕は素直に答えます。
そして最後にハローチェちゃんは、僕にこう提案します。
「よろしい。ではこうしましょう。……貴女、私の従者となりなさい」
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