第008話・森へ来訪者、来たる
『…………ナナシよ。聞こえるか、ナナシよ』
『おヌシは今、眠りの中じゃ。ワシはおヌシの精神に直接話しかけておる』
『まずは礼を言う。ありがとう、ナナシよ。おヌシのおかげで無事に真力はその世界に行き渡った。おヌシはもう、その森に縛られて生活する必要はなくなったのじゃ』
『多少なりともおヌシの身体の中に残っておる分の真力は、見事にその極魔の大森林で生き延びた褒美として、おヌシ自身の糧とするがよい』
『そのうえで、これからの生活に不安を覚えているであろうおヌシに、ワシから新たなる標を授けようと思う。実は、近いうちに極魔の大森林に人が訪れる。その者をおヌシの力で助けてやるのじゃ。よいな?』
『詳しい事情はその者から聞けばよい。いずれにせよ、その森でだらだら過ごすよりはよほど愉快で刺激的な日々を送れることじゃろうて』
『あ、それとじゃな』
『おヌシ、それほど大量にワシの像を作って、いったいワシをどうしたいのじゃ……? 次に会うのが少し怖いのじゃが……』
『あと、ワシの胸はもっと大きいからな? それだけは、殊更に念を押しておくからな。……よいな? 分かったか? ようく脳ミソに刻み込んでおけい』
『それじゃあの。よろしく頼むのじゃ』
◇◇◇
なんだか、すごくいい夢を見た気がします。
久しぶりにお会いした女神様に頭を踏んでもらいながら褒められる夢、だったと思うんですけど……。
いやぁ、えへへ……。
……えへへへへー!!
思い出すだけでほっぺがゆるゆるに緩んでしまいます。
今の僕はふにゃふにゃとだらしない笑顔を浮かべていることでしょう。
だって、あんなに幸せなことが今まであったでしょうか。
僕、この世界に来てから、寝てるときに夢を見たことがなかったんですけど、初めて見た夢が女神様に褒めてもらえる夢だなんて。
とっても、とっても嬉しいです。
ああ、女神様。
これからも僕を見守っていてください。
たくさん、たくさん頑張りますので。
とりあえずは、超巨大女神様像をなるべく早く完成させるようにしましょうか!!
それからの数日間は、僕は折れた巨木にひたすらノミを入れる生活をしました。
女神様の美しさをまったく損ねることなく巨大像を作り上げたい一心で、僕はかつてない集中力を発揮していたと思います。
その甲斐あってか、完成した女神様はこれまで作った中で一番の出来だと自負します。
サラサラと流れ落ちる長い黒髪、憂いを帯びた瞳、キリッと通った鼻筋、小ぶりな唇、柔らかそうなほっぺた、美しいアゴのライン。
細い首筋、魅惑的な鎖骨、慎ましやかながらもきちんと女性的な胸の膨らみ、脇腹から腰までのライン、可愛らしいおヘソ、薄いお尻。
ふにふにとした二の腕、細い手首、繊細な指先、ほっそりとした太もも、美しい曲線を描くふくらはぎ、とろけるほど甘い爪先。
僕が知りうる女神様の美しさのすべてを、折れた巨木の中から掘り出しました。
きっとこの木は、こうして女神様の美しさをこの世界にお連れするために、この場所に生えていたのでしょう。
いやぁ、満足です。
僕はやりましたよ、女神様。
これならまた夢でお会いしたときに、お足を舐めさせてくれますか?
ダメならせめて踏んでくれるだけでもいいんですけど……。
ああ、女神様が恋しい……。
女の子のお足も恋しい……。
……はぁ。
さてさて。とにもかくにも完成ですね。
美しくそびえ立つ女神様像を地上から見上げながら、そのご威光を浴びて平伏し祈りを捧げようかな、女神様のお足のかわりに女神様像のお足でも舐めようかな、などと考えていたところに。
「……ん? なにかが空で争ってる?」
見上げる空、木々の合間から見えるところで、米粒のように小さい何かが争っているのが見えました。
あれはきっと、とても高いところで争っているので小さく見えているものであって、実際はとても大きくて凶暴な生き物なのだと思います。
このあたりでよく飛んでいる生き物といえば、小型飛行機並みに大きな体のタカやカラスといった鳥類か、プテラノドンみたいな姿をした爬虫類です。
どちらもこの森の上空の超高高度を飛行し、獲物を見つけたら地上目がけて矢のように飛び降りてきて鋭いクチバシや爪で襲ってくる凶暴な生き物です。
僕も何度かふいをつかれて死にかけたことがある空の強敵であり、そんな凶暴な生き物ですのでそいつら同士の争いなど日常茶飯事ではあるのですが。
「なんだか一方的ですね」
今僕が見上げる先では、どうやら片方だけが一方的にやられています。
普通ならお互いが死ぬ気で襲い合うのでもっと互角の戦いになるものなんですが。
と、思っていると。
「……あ、落ちた」
劣勢だったほうの生き物が翼をちぎられたのか、まっすぐに落ち始めました。
これ、もしかしてですけど。
「このままだと、ここの真上に落ちてきそうですね」
墜落してくる生き物は、その姿がどんどん大きくなって見えます。
このままいけば、十数秒後にはこの超巨大女神様像の上に落ちてきそうです。
いや、この拠点や広場一帯を覆う巨大な結界は常に出しているので、女神様像が壊れる心配はないのですけれども。
ただ、結界の真上に落ちてぐちゃぐちゃに潰れてしまうと空一面が真っ赤になってしまって汚いので、潰れないようにいったん優しく受け止めてやることにしました。
「結界変形」
僕は拠点を覆う巨大結界の上面にゴムシートのような弾力を持たせたうえで、結界を変形させて高くたかーく上に伸ばしていきます。
さながら高層ビルのような形になりながら上方へ伸びる結界を落下してくる生き物の直下で停止させ、生き物が上面に叩きつけられてぐにょーんと伸び始めたところで、今度は結界を縮めていって勢いを殺していきます。
ゴムの弾力と結界自体が縮みながら勢いを逃していったことで超高所からの落下エネルギーはやがてほぼゼロになり、ゴムの弾力で落下してきた生き物が上方に跳ね返される直前に、上面部分の結界壁をいったん解除しました。
グギョギョギョギョギョギョギョ!!
結界の上面が消えたと見るや、落下した獲物を追ってきたプテラノドンみたいな爬虫類が、結界内に飛び込んでこようとします。
僕は、落下していた生き物を優しく受け止めるふわふわの綿アメみたいな結界壁と、プテラ君を捕獲する球体の結界、そして新たに巨大結界の上面をふさぐための結界壁を同時に作成し、それぞれの結界を別々に動かしました。
巨大結界の上面は、きれいに角を合わせて接合し隙間のない状態にします。
プテラ君を包んだ結界は、布団圧縮袋のように縮めていってプテラ君を窒息させます。
そして綿アメ状の結界は、受け止めた生き物を落とさないように優しく地上まで下ろしました。
プテラ君の首をねじ切りながら綿アメの上を確認すると、どうやらすでに事切れた様子の巨大な青いカラスが乗っていました。
カラスの全身は血まみれで、左の翼は根元からちぎれかけていました。
今まさに首を取り外して血抜きを始めたプテラ君に、ズタズタに引き裂かれたのでしょう。
そして青いカラスの足には木製の箱が結び付けられていました。
箱といっても、プレハブ倉庫くらいの大きさがある木組の箱です。
人ひとりくらいなら余裕で入れるサイズの木箱には扉が付いていて、扉は人間が通れるくらいの大きさです。
ドアノブを回して、木箱の扉を引き開けました。
すると。
「…………っ!?」
僕は木箱の中を見て、言葉を失いました。
木箱の中にはなんと、気を失っている様子の可愛い
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