5 業務終了、そして歓迎会へ

 小休憩が終わり、その後何件も転移してきた住民と接触して話を聞くという事を繰り返した。


 幸いこの日出会った住人達の中であまり良くない近況を抱えていたのは孤児院の一件のみで、以降はそれなりにこの世界に馴染めてうまく生活を送れている人達ばかりという感じで。

 一言で纏めればとても平和な話がメインだった。

 本当に幸い。

 でなければこちらも持たない。


 それで終わってくれたおかげだろう。

 折れずに区役所へと戻ってくることができたのは。


 そしてその後は再び四苦八苦しつつ報告書を作成し、空いた時間で午前の続きを進めて。


「よし、定時だ!」


「つまりこのエンドレスデータ入力とはようやくお別れって所か」


「また明日って奴だよ」


「絶縁してえなぁ」


 とにかく本日の業務は終了らしい。


「というか人手不足で忙しいって事は、皆ガッツリ残業とかしてるもんだと思ったんだけど、そんな事は無いんだな」


「……今日はね」


「……そっかぁ」


 それ以上は聞かない事にした。

 そしてハルカも明日以降の残業の事など考えたくなかったのか、やや強引に話を切り替える。


「と、とにかく今日の所はこれから仕事じゃなく飲み会があります!」


「あ、そういやそうだったな。俺の歓迎会やってくれるんだっけ」


「そうそれ! ……ってなんかテンション低くない? マモル君は何となく勢いよくテンション上げてくると思ったんだけど……さてはそんな気力も残ってない程疲れてる?」


「まあ疲れてるけどそりゃ関係ねえよ。寧ろ滅茶苦茶疲れる仕事熟した後程、息抜きに向けるテンション上がんだろ。実際飲み会とか当然した事ねえけど楽しみだぜ俺」


「じゃあどったの?」


 ハルカの問いに、背もたれに体重を預けながら言う。


「なんつーかやっぱ引きずってんだよな、さっき外回り行ってた時の事。ああいうの見せられた後だと、何もしてやれなかったのに俺だけ楽しい思いしててもいいのかって思うんだ」


 例えば発展途上国で食うに困っている子供が居るから自分も贅沢はしない方が良いんじゃないかなんてストイックに考えられる程立派な人間ではないけれど、それでもいざ目の前で悲惨な光景を見た直後に、自分は楽しい事をやりますといった事はどこか気が引ける。

 何か少しでも助けになれたならともかく、何もできなかったのなら尚更だ。


 だけどハルカは言う。


「良いんじゃない。寧ろそんな事を考え始めてるからこそ楽しまないと駄目だよ」


「というと?」


「そういう事を馬鹿正直に考え続けてるといずれ頭がおかしくなる。そしてそうなったら、助けられる人も助けられなくなるから。適度なガス抜きってのは必要だよ。それに……私達はちゃんと模範にならないといけないでしょ」


「模範?」


「別の世界から無理矢理連れてこられたけどそれでも楽しく幸せに生きているって感じに。人の事言えないような状態で今日みたいな子とかに会ったりなんてできないでしょ。地獄じゃんそんなの。だからお酒を飲んで嫌な事を一時的にでも忘れて元気出してさ。元気な状態でまた今日みたいな事に関わっていく。まずは私達が元気じゃないと」


「……確かに。一理あるかもしれねえ」


 ……それは理解できたけど。それはそれとして。


「でもあの子の話してて模範にならなきゃって事で飲み会に行きますって、すげえ教育に悪い物見せてる気がしてくるな」


「私結構それっぽい事言った筈なのに、急に滅茶苦茶な事言ってる気がしてきたんだけど……えーっと、私結構滅茶苦茶な事言ってた?」


「言って無くね? 知らんけど」


 まあとにかく、飲み会には予定通り楽しんで参加する事にした。

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