二章 東区区役所生活相談課

1 アットホームな職場

 翌朝、再びハルカが運転する危険運転スクーターの後に乗り区役所へとやってきた。


「さて、到着……ってどうしたの苦い顔して」


「いや、なんでもねえよ」


(絶対速攻で免許取ろう)


 そう決心しながら区役所の中へと足を踏み入れる。


「そういや俺私服でよかったのか? お前含めみんなスーツみたいだけど」


 昨日日用品を買うついでに何着か服を買いそれを着て来た訳だがあくまで私服。

 役所の職員の服装と考えれば随分と浮いている。

 完全に用が有ってやってきた一般住民スタイルだ。


「大丈夫。制服は今日採寸まで済ませて後で支給されるから。それまでは私服で良いよ」


「あ、支給されんの。ラッキー」


 最悪スーツ一式揃えてこないといけないと思っていたのでありがたい。

 おそらくこの世界でもスーツはそれなりに値が張ると思っていたので、節約したい秋山としては本当にありがたい。


(いや、でも冠婚葬祭とかで必要になってくるか……そもそもこの世界ってその辺りのマナーとかどうなってんだろ。大丈夫か? 結婚式とか葬式とか出たとき失礼な事したりしないか俺)


 現状知人が少なくそういう所に出席する可能性は低いのだが、いずれそういう機会もあるだろうから心配になってくる。


「お、マモル君緊張してる? 心配しなくてもアットホームな職場だから大丈夫だよ」


「いや、全然大丈夫」


 そっちの心配は一切していない。未来の冠婚葬祭の心配だけをしている。


「? そっか。ならいいけど……っと、言ってる内に到着」


 そしてそれからしばらく歩いて、目的地へ到着。

 ハルカが扉を元気良く開ける。


「おっはようございまーす!」


 そしてハルカの挨拶に各々返事が返ってくる。その中には昨日顔を会わせた人も。


「おはよう。怪我の調子はどう?」


 出入り口付近にいたソフィアだ。


「鎮痛剤飲んでるんで元気です!」


「なら良かったわ……で、ちなみに何時頃鎮痛剤切れるの?」


「一応昼過ぎ位までには一旦効果切れちゃうかななーと」


「分かった。じゃあ効果が切れたら言いなさい。そのタイミングに合わせて保安課にカチコミに行くから。後追加で包帯巻いて行こう」


「分かりました。ガッツリ請求しに行きましょう」


(アットホームに物騒だなぁ)


 そんな事を考えていると、今度はアルバートが会話に混ざってくる。


「まさかとは思ったが、お前ら本当にやるつもりなのか」


「「やる!」」


「……お前らなぁ」


 呆れるようにため息を付くアルバートは、そのまま視線を秋山に向けて言う。


「おはようマモル。頼むからお前はこうはなってくれるなよ」


「……ええ、善処します」


「なんか歯切れ悪いな」


 歓迎会の予算になるならとこれまで咎めてこなかった事もあり、素直に頷けない。


「まあマモルは別に良い……とにかくお前ら二人、馬鹿な事は止めろ」


「じゃあまだ出欠取ってなかったけど、アルバートは歓迎会不参加と」


「ぐ……………………まあ実際に怪我はしている訳だし、今回はアウト寄りのセーフか」


「……あの、俺も人の事言える立場じゃないんですけど……それで折れるんですか?」


「だって……飲み会は楽しいだろ」


「……成程、確かにアットホームな職場ですね」


 それ以上ハルカ達の言動にアルバート以外誰からも非難の声が飛んでこない所を見ても一体感が凄い。

 こういうのがアットホームな職場という奴……なのだろう。

 知らんけど。

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