7 勧誘
「お待たせ。待った?」
やがて診察室から頭とか手足に包帯をぐるぐると巻いたハルカが出てくる。
「いや、思ったよりも早かった。ちなみにこの世界はこういう時どういう診察するんだ? やっぱ世界が違えば全然違うもんなの?」
「ううん、これに関しては結構近いよ。レントゲン取って一応CT取って。後は体に微弱な電気流す治療って所かな。ああ、勿論傷口の消毒とかもしたよ」
「近いというか同じじゃねえか。知らんけど」
最近全く病院に行ってなかったから多分だけど。
「で、怪我どんな感じ? 大丈夫だったか?」
「全身至る所に打撲があるだけで折れたりはしてなかったよ。良かった良かった」
「至る所に打撲の時点で良かったって言えるかどうか微妙なラインじゃね?」
「じゃあ比較的良かった」
「それはそう。なんか死んでてもおかしくねえような登場の仕方してたもんなお前」
……さて診察も終わり、二人は再び区役所を目指す事に。
「つーか全身打撲なんだろ? 普通に歩いていても平気なのか?」
「うん。鎮痛剤処方して貰ったからとりあえず大丈夫かな」
「って事は病院来るまで歩くのしんどかったんじゃねえの?」
「頑張ってたよ」
「言われたら背負って歩いても良かったのに」
「それ恥ずくない?」
「確かに……ていうかスクーター。アルバートさんの乗ってた奴お前のなんだろ? あれ使えば良かったんじゃね?」
「正確には私のじゃないよ。備品だし」
「なのにカスタムはしたと」
「しちゃいました……始末書面倒くさいなぁ」
と、ひとしきり頭を抱えた後言う。
「別にスクーター乗ってくれば良いかなって思いはしたんだけど、ヘルメット一個しか積んでなかったと思うから、どちらにしても二人乗りできないし却下したよ」
「俺ノーヘルで振り落とされても怪我負わねえと思うけど」
「私が切符切られるから駄目。あと一点で免停だからそれだけは絶対回避せねば」
「……どんだけ荒い運転してんだよ」
「違う! 全部保安課の連中の点数稼ぎの為の取り締まりが悪い!」
「それそもそも違反しなきゃいいじゃん」
「まあそうだけど……ほんと、そんな事に割く人員がいるなら、自分等の所で受け持った案件位自分達でやれよって思うよ」
そう言って深くため息を吐いたハルカに問う。
「ていうか保安課って事は何? この世界の警察組織ってお前らの……なんだっけ。相談課だっけ。そういうのと同じように役所に組み込まれてる感じなのか?」
「そだね。規模が違うから庁舎は分かれちゃってるけど同じ区役所員だよこの世界の警察も」
「へー。まあ日本でも公務員と公務員って感じだし、その距離感近くなったって感じか」
「そう。で、同じ区役所員なのに向うの方が給料高いし予算も多いし! なんか腹立つ」
「そりゃお前、こんな世界だし警察とかやってたら危ないだろ。危険だし予算とか給料とか、高くて当たり前なんじゃねえの?」
「その危険な保安課に私今日ピンチヒッターで呼ばれてますが?」
「えぇ……なんで?」
「ほら、マモル君はこの世界速攻で受け入れちゃってるけど、そんな人ばかりじゃないからさ……私達の仕事もそこそこ危険なんだよ」
「確かに今日みてえなのがこの世界来てすぐに気に入らねえもん見付けでもしたら、ヤベえ事になりかねねえからな」
「うん、だから外回り出る人は最低限戦えるんだ。で、警察課はネズミ捕りで私からお金と点数を毟り取る為に人手不足と。これが答えだね」
「式にとんでもねえノイズ混じってねえ?」
まあ後一点で免停ならそんな物かという事にしておく。
(しかし……警察が人手不足、ね)
約一名凄いヘイトを向けている者がいるものの、紛争地帯並みに治安が悪そうなこの世界において、警察組織は基本的には正義の味方みたいなポジションなのではないだろうか。
その警察が人手不足で、自分の力は多分向いている……だとしたら。
「そういう事なら保安課への就職目指してみっかな。そんな簡単になれる物かは知らないけど」
「止めた方が良いよ」
「それは何? この世界来たばかりの奴がいきなりなれるような物じゃねえって事?」
「止めた方が良いよ」
「……えーっと、質問に──」
「止めた方が良いと思うよ!」
「お、おう……」
「もし役所に就職するなら生活相談課が良いと思うな?」
「ちなみになんで?」
「普通に危なくて忙しくて人手足りないのはウチも一緒だから」
「なーるほど……そういう事ね」
「そういう事」
ハルカからは逃がしてたまるかという意思というか、えげつない圧を感じる。
そして放った圧が大体引っ込んだ後、ハルカは言う。
「多分だけどマモル君は人助けがしたいんだよね」
「まあそんな感じだけど。すげえ洞察力」
「人を見る目にある程度の自信はあるからね……で、実際そういう事なら生活相談課は凄いお勧め。特に私達みたいな人が適任」
「私達みたいな?」
「異世界から来た人って事。勿論この世界で生まれ育った人達も私達みたいなのが来ることは当たり前の事だから、皆頭では色々と理解はしている。だけど実際にこの世界に拉致られてきた人とそうじゃない人じゃどうしたって温度差が生まれるから。だから私達が適任なの」
そう言ってハルカは笑いかける。
「どうかな? 私達と一緒に人助けをやってみない?」
……なんだか都合良く丸め込もうとしている感じは否めないのだけれど、確かに実際改めて思い返してもアルバートにはとても世話になったし、ああやって右も左も分からないような異世界人に声を掛けるだけでも凄く危険でリスクのある行動だという事も理解できた。
果たしてそういう仕事が自分に務まるかは分からないけど、なんだかんだ今誘われている仕事は自分がやりたかったような事にとても近いのかもしれない。
「その話、乗った」
だとすれば生活相談課というのに所属してみるのもアリかもしれない。
「っしゃあ! 新入り確保ォ!」
そのテンションの上がり方を見ていると自分が思っている以上に人手不足でブラックな職場なので、本当に判断としてアリだったのかは不安になってくるけれど。
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