最終話 才女プリシラ
あれからわたし達は事の顛末をシャトレ公爵にだけは説明しました。
シャトレ公爵は先の政変における前キンレンクル公爵の立場に驚きながらもアリサ様の振る舞いには理解を示し、フレデリーカ様とアルトゥール様、そして連絡役として加担した同じくキンレンクルからの侍女であるモニカ様の行動に対して強い罰を与えることはありませんでした。
死者もいなかったことが幸いしたのでしょう。唯一重傷だったイングレース侯爵に関しても、治癒を使うことで回復したそうです。
そして公爵の希望でこの件は秘匿されることになり、エリザヴェータ様以下全員からも口外しないとの確約と魔術による誓約を頂きました。
もちろんわたし達がこれから行う国王陛下への報告も襲撃者は身元不明、タンジェント伯爵だとの情報は間違いで、タンジェント伯爵は領地で自然死していたということで纏まりました。
そのタンジェント伯爵はこれからはただのアルトゥールもといアーサーとしてアリサ様の護衛に組み込まれることになり、彼の本望も思わぬ形で、そして考えうる限り最高の形で達成されました。
そして今日は秋穫祭の最終日、わたしはアリサ様に帯同して、エステリ様と一緒にお祭りを楽しんでいます。
「それにしてもごめんね。プリシラの功績をほとんど消しちゃう形になっちゃって」
「わたくしからも謝らせてほしかったのです。もし本当の功績を明かしていれば騎士団の上位職にだってつけていたでしょうに」
「いいのです。わたしには過ぎた身分です。これからも騎士団に居ていいとの約束を頂けただけで十分ですから」
仕事もなかったわたしがこの数日間で人とうまく話せるようになって、しかも騎士団に参謀系の役職として正式に所属することを許されました。
それだけで十分です。それに、恥ずかしすぎて口には出せませんがエステリ様とこれからも共に働く許可をもらえたことが一番嬉しいです。
「アーサーとフレデリーカからも同じように感謝を伝えてくれと言われています。今は会えませんがまた遊びに来たときには改めて感謝を伝えたいそうです」
重い処分は免れたとはいえ、あれだけのことをしておいて無罪放免とは行きません。
特に公爵令嬢として傷をつけられない、処罰すれば自ずと真実を予測できてしまうアリサ様を処分する代わりの意味も込めて(むしろお二人は喜んで望んだそうですが)、二人には三月の謹慎処分と給与の半減、今回の護衛任務にかかる費用の半分を負担することになりました。
名目はもちろん、主の危険を守り切ることができなかったことです。
とはいえ二人にとっては満足なようで、久々に訪れた平穏を楽しんでいるようです。
「アリサお姉さま!ご無事で何よりです!」
「エルマ!久しぶりね!」
アリサ様の妹に当たるエルマ様がいらっしゃいました。末の子ではありますが、彼女が次期シャトレ公爵です。
今はそんな風もなく無邪気な子供で、アリサ様が可愛がる理由もわかるような気がします。
「アリサお姉さま、あっちでミリヤお姉さまが待っているわ。行きましょう」
「そうね、今行きますから少し待って下さいな」
エルマ様から一時離れてわたし達の方に来ます。
妹のことで頭がいっぱいのようで、わたし達といたときには一度も見せなかった心の底から幸せそうなほほえみです。
「わたくしはこれで、後は二人で楽しんでね」
「ご案内ありがとうございました」
色々ありましたが最後はとても楽しかったです。
秋穫祭をもう一度楽しめるなんて思っていませんでしたし、それを他の人と一緒に過ごせるなんて少し前のわたしでは想像もできません。
「あぁそう、思い出したわ。最後にわたくしからプリシラに」
「?なんですか?」
急に畏まったアリサ様はわたしをまっすぐに見据えて、昨日の言葉の返礼とばかりに言ってくださいました。
「あなたはもう幽霊才女ではないわ。今のあなたは才女、才女プリシラよ。それじゃあね」
そう言い残してエルマ様の方に去っていきました。
とても嬉しい。幽霊じゃなくなりました。
「プリシラ、私からも一つ言いたいことがある」
「エステリ様もですか?」
「あぁ。まずはプリシラのお陰で試練を突破できた。私一人じゃきっと、アリサのことを見抜けなかったと思う。それと······」
エステリ様は大きく息を吸って、数秒の間をおいてから一世一代の告白のような覚悟を感じさせながら言いました。
「これからも、私と一緒にいてほしい」
エステリ様の言葉に目を潤ませながらわたしも答えます。
「喜んで」
【完結】幽霊才女プリシラ〜日陰の才女は副騎士団長(女性)の助手になる〜 シルフィア・バレンタイン @marine-mafuyu
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