真実 その1

「クソっ!」


エステリ様が地面を思いの限り殴りつけます。

友人を守れなかった悔しさや試練を突破するどころか護衛対象さえ守れなかった無念など様々な思いが感じ取れます。


わたしも言いようのない気持ちになりました。

会話の練習に嬉々として付き合ってくださったアリサ様を守れなかったのはわたしとしてもとても悔しいです。


「それにしても実体は感じたのにどうして急に?」


エリザヴェータ様が疑問を呈します。


「それは僕にも不思議だ。急に相手の手応えがなくなったよ。相手は僕を簡単に圧倒していたというのに、まるで転移と同時に幻影を作ったようなそんな感覚だ」

「うそ·····そんなことできるのなんて、私の知る限りそんなに居ない。居るとしたらアリサ様くらい」

「それです!」


ハッとしました。

それと同時に不審な点がどんどんと音を立てて繋がっていきます。


まずは魔術具の紛失ですが外部からの侵入ならほぼ確実に警報に引っ掛かります。でも内部からならどうでしょうか?

当然、地図を見て気をつければ引っかからずに回収できます。


それに魔術具の予備を作るように指示したのはアリサ様です。


驚いたようでなかったのも自分が持っていっていたのなら合点がいきます。


他にも最近の言動にはおかしいところがありましたが、最初からアリサ様が仕組んだことだとしたら?


襲撃日を正確に予測し、それまではまるで無警戒だったのも、襲撃予定日当日に暗殺される側にも関わらず恐怖を感じなかったのも、どれもこれも疑惑が埋まります。


「私も不審なことがあります」

「マルク、なにか知っているの?」

「本日の朝、アリサ様の部屋に置かれた魔術具が正常化の確認のために向かうと、お二人で怪しげな会話をしていました」


その内容を聞くと、ますます何かを知っていたようです。


その時、わたしは閃きました。


「エステリ様!アリサ様は生きています!今からその場所に行きますから連れて行ってください」

「本当に?生きているの?」


親友が殺されたと思って茫然自失としていたエステリ様の目に光が浮かびます。


「はい」


わたしの体力では持ちませんし、万が一に備えて一刻も早く行ったほうがいいと直感します。


「よし、送るよ」

「私達も······」

「それなら私が精霊を使って送りましょう」

「目が覚めたのですか?」


なんと、ファルメント侯爵が立っていました。


「今は些事はいいでしょう。とにかく私の魔力も残り少ない。精霊を呼んでいられるのもあと少しです。急ぎますよ」


ファルメント侯爵の契約する亀型の精霊に運んでもらい、わたし達はアリサ様のいるであろう場所に急ぎました。

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