幽霊才女の天敵 前編

奉納祭と秋穫祭への人的な負担を考えて当日だけ呼ぶという案もありましたが、数日間呼ばずにおきながら急に呼ぶのは不審だということ、公爵が調整を効かせてくださったことで、本日より護衛を呼ぶことになりました。


今はその始まりです。


「この度はこのような分不相応な大役に参加することが叶い、恐悦至極の極みにございます」


身分の高い順にファルメント侯爵にイングレース侯爵、エリザヴェータ様とフリードリヒ様がご挨拶を行い、最後にわたしと同様下級貴族のマルクが挨拶をしました。


口調の硬さはさることながら、声もわずかに震えていてマルクの心境を慮るにあまりあります。


「最初に言っておきますが、くれぐれもこのことは口外しないように。周囲に聞かれても王都から来た客人達の案内係として通しなさい」

「はっ!」


威勢のいい返事に、発言者のフレデリーカ様とエステリ様が満足気にうなずきます。


「それではこれから、騎士は改めて護衛の位置を確認しましょう。フレデリーカ、頼めるかしら」

「はい。それで姫様はどちらに行かれるので?」

「城内を散策しようと思ってるわ。ここに居てもわたくしにできることはありませんもの。それにプリシラが場所を覚える必要もあるでしょう?」

「えっ······」


わたしは思わず息を漏らしてしまいました。

アリサ様直々の案内などわたしの心臓が持ちません!、と言えたならどれだけ良いでしょうか。


放心するわたしを尻目に話し合いは続きます。


「護衛はお付けください」

「城内からは出ませんから」

「それでもです。体面をお考えください」

「あなた達は打ち合わせが必要でしょう?」


ぐっとフレデリーカ様は声に詰まります。

専属護衛の方々はともかくとして、今日からの面々には必須でしょう。


「それなら私がアリサの護衛をするよ」


そう手を上げたのはエステリ様です。


「しかし······状況を考えれば·····」

「護衛をするわけにはいかない、だろう?」

「その通りです。ですから······」

「だけれど、エリザヴェータ達に教えるのはサングリア侯爵達にしかできない。私がいることでプリシラに案内しているのではなく、随行させているように思わせられるんじゃないかな」


アリサ様に案内させるのはまだ受け止めきれません。しかしここまで決まってしまっては仕方ありませんしそのことは棚に上げて考えれば一理あります。


友人同士で城内を歩いているだけなのですから体面的な問題はないでしょう。

護衛も副騎士団長のエステリ様がいれば不足はないと思われますし、効率だけを考えればそれが一番いいと思います。


「仕方ありませんね。あまり危険なことはなさらないようゆめゆめご注意下さい」


フレデリーカ様が折れ、結局わたし達は城内の視察に行くことになりました。


* * *


わたし達はアリサ様の案内でシャルロッテリア城内の主な場所、特にアリサ様の私室付近を見て回りました。


「こんなところでどうかしら?」

「うん、大丈夫だと思う。プリシラはどう?」


アリサ様はお顔こそエステリ様の方を向いていますが、これまでの会話から考えてわたしに向けられた言葉です。

それを汲み取ってか、エステリ様はわたしに回答権を渡すような言動をします。


「は、はい·····魔術具の設置場所は決めました」

「魔術具?」

「はい······えっと······」


声が詰まってしまいました。いつものように一度詰まると焦ってしまって、堂々巡りになってしまいます。


「侵入者を知らせる魔術具と進行を妨げるための防衛結界の魔術でしょう」

「そうなのですか?」


不甲斐ないわたしの代わりにマルクが答えてくれました。しかもわたしの考えと同じ魔術具を提示してくれました。とてもありがたいです。


「よく分かりましたね」

「親族としてプリシラとの関わりは長いですから彼女がしそうなことはこと魔術関連においては大体分かります、エステリ様」

「そう。ところでプリシラ、魔術具の用意は間に合うの?」


以前作った分と王都での数日間の間におおよそ作り終わりました。

微調整は必要ですけど、奉納祭の最終日には間に合います。


なので小さく頷きました。


「間に合うのね。ただ、アルトゥールは生半可なものには引っ掛からないわ」

「一線級に強いだけあって大抵の妨害は強引に突き破ってしまうそうだしね。叔父上、テオバルト様も彼には苦労したと言っていたよ」


妨害をものともしないのは厄介です。

わたしが作ってきたのはあくまで進行を遅らせるためだけのものですから、それほど強力というわけではありません。


「······改良します」

「間に合わないんじゃない?」


今作っている分をすべてとなれば厳しいですけど、全く効果がないわけではありませんし一部を改良すれば時間稼ぎとしては十分でしょう。


ただひとりでは魔力の限界があります。


「それならこのマルクも、プリシラと共に魔術具の制作を行いましょう。騎士ではない私にはそれくらいしか貢献できませんから」

「そうね。調合部屋を貸し出しますから自由に使ってくださいな。そこなら大方の道具と素材は揃っています。それと、予備も作っておいたほうがいいですわよ。失敗の可能性もないとは言えませんから」

「ありがとう存じます」


打ち合わせに参加するため部屋へと戻り、それからわたしとマルクは調合部屋へと移りました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る