小話 シャトレ公爵領へ
わたしがエステリ様の助手になることが決まったあの日から、助手を持つことの承認を騎士団にもらったり出立の準備をしたり、慌ただしく時は流れて四日後には護衛対象のいるシャトレ公爵領にやって来ました。
「それにしても神官の往来が凄いね」
シャトレ公爵家の居城に向けて進む馬車から神殿の方向を見てエステリ様は言いました。
「今年は10年に一度やってくる、収穫祭と奉納祭の日取りが重複する年ですから」
収穫祭は毎年この時期なのですけど奉納祭は毎年少しずつ移動します。
年度ごとの移動幅などはかなりいい加減ですが、10年に一度のこの時期だけはシャトレ公爵家の祖であるシャルロッテ様の復活から10の倍数だそうで、生誕日に合わせて開かれています。
「そうなの?プリシラはよく知ってるね」
「はい。ちょうど10年前は従伯父様の爵位継承のお祝いのためにシャトレを訪れていましたので、その時にお祭りを見学したのです」
関係ない話なので話題を広げるつもりはありませんが、特に貴族中心で行われる奉納祭は魔法を用いた幻想的な風景で幼心にうっとりしたのを覚えています。
「そう。私も機会があればぜひ行きたいな。プリシラ、その時は案内してくれるかな」
「はい。一度きりでしたのでそこまで詳しい案内はできませんが、エステリ様の希望ならばぜひ」
助手として与えられた任務はこなす、という風な感覚で答えると、エステリ様は不可解にも少しご立腹なようです。
何かいたしたのでしょうか?
そう聞くとますます不満げです。
「これは義務じゃない、お願いだよ。プリシラが望んでくれなきゃ意味がないんだよ」
「それはどういう?」
言葉の脈絡が理解できません。命じれば済むのに、なぜわざわざわたしに選択権を委ねているのでしょうか?
「もー、何で分かんないかな」
「ごめんなさい」
「あー怒ってない怒ってない。とりあえず任務が終わるまでに考えといてよ」
「はぁ」
よく分かりませんが、猶予はあるようです。
ただ馬車内の空気は少しだけぎくしゃくしてしまったので、不思議と後ろめたく感じたわたしは目線をそらして外を見ます。
すると、遠くに広がる神殿前では感謝のお祈りを捧げる人々が、そこから少し離れた広場では子ども達が遊んでいるのが見えました。
領民に慕われているシャトレ公爵家、その令嬢が暗殺されたとなればこの平穏は少なからず崩れ去るのでしょう。
(弱気になってはいけませんね。わたしが、いやわたし達が·····)
「守らなければ、なりませんね」
「だね。私も丁度おんなじこと考えてた。どんなに難しいとしても彼らのために成功させないといけないね。がんばろう、プリシラ」
「はい!」
昼下がりだった空は既に夕日を見せて紅く染まる黄昏時にわたし達はシャトレ公爵家の居城、シャルロッテリア城へと到着しました。
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