思い出と経営論
ー 1週間後 ポルタメント女学園 保健室 ススサイド ー
「あーもうだめ、全身バキバキにしんどい」
脳のリミッターを自己催眠で阻害した結果、
限界を超えて体を動かすことができたが、代償は筋肉痛及び血管損傷や骨折、
そして爆発させた左腕は人体錬成で修復されたようだ。
「左腕若干痺れてるけど許容範囲ですね・・・」
私の独り言を聞いてカーテンがザッと開く、薄い青色の髪と
赤毛の2色髪・・・・ニャラケルですか。
「先生!!!ススパパが!!!!!」
「全く無茶をする!脳細胞に異常がないとはいえ
片腕もがれてよく生きていたもんだ。
まぁ無事で何よりだ、ただし後3日は絶対安静だ」
3日・・・・そんな猶予はないんですよ。
「ススパパの心配事なら僕が代理人として片付けておきました。
諸外国の依頼によって王都の制圧をした僕たちを
無下にする国はありません。
むしろ勧誘の嵐で大変でしたよ」
「王都の方は?」
「人体錬成の応用・・・・うなぎ体錬成でカタを付けました。
既にアヤメ達の手によってうなぎの養殖が始まっています」
「来年の土用の丑の日には間に合いそうでなにより。
・・・・やっぱりアンタが伯爵財閥継ぎなさいな、
私の代わりなんて人体錬成でいくらでも作れるから
存分にこき使えばいい」
威風堂々モードが切れて素の自分が出てくる、
今回の王都陥落戦において私はキョウカさんの救出に全リソースを吐いた。
けれど道中はみんなのおかげで何とかなった。
でもアオイの魔力量を引き継いだニャラケルなら
キョウカさんの救出も時間をかければ可能なはず。
「はぁ、忘れていませんか?
今回の作戦はキョウカさんも参加していた事。
広域平成ビームを撃たせなかったは、
彼女の友人である ” スス姉さん ” のおかげだったんですよ?」
直後私のスマホが振動した、
差出人のアドレスは知らないがニャラケルに読めと急かされた。
☆☆☆
ー 差出人不明のメール ー
親愛なる未来のキョウカへ
みんなが去ったあの日からもう20年が経ったのでしょうか?
キョウカの世界は無事に続いています。
アヤメと仲直りして2人で小さな孤児院を経営中です。
平成に取り込まれた子供たちや、
この時代で親から虐待を受けてここに流れ着いた子達。
勿論キョウカの魔法を使って全てを支配することもできますが、
それではキョウカを追い詰めたかつてのクラスメートや、
身の保身の為に保健室登校送りにさせたかつての教師と同じ。
なので憎しみの連鎖はキョウカが断ち切りました。
魔法なんてなくてもキョウカの周りではイジメなんて起きていません。
そして・・・この世界から元居た場所へ旅立つ子たちもいます。
以前のキョウカなら引き留めるはずですが、
みんなとの出会いで ” いってらっしゃい ” と自信をもって言えました。
キョウカはみんなとはもう会えませんが
キョウカの世界で頑張っています。
みんなと過ごした思い出は幻かもしれないけれど、
花火のように奇麗で儚くて、うまく言えないな。
ニャラケルさんに言った最後の言葉も花火でかき消されたみたいだし、
だからもう1度つかわせてもらいます。
” キョウカはもう・・・・人生を投げ出さないですっ ”
追伸 もうゲーム機の電源は付きませんが今でも宝物ですっ!!!
☆☆☆
ー 保健室 ー
「動かなくなったゲーム機なんてただの文鎮じゃない」
質の悪い花粉症が流行中ですか?私、鼻声が凄いですね。
「その文鎮がただの重りか、宝物かはキョウカさんが決めるものです。
そしてソレを渡したのはスス姉さん、貴女です」
「会社経営とのつながりが見えないけれど」
「ススパパの魅力は無意識化におけるパーフェクトコミュニケーション。
僕の出した困難に対し無様を曝しながら乗り越えていくことや、
アヤメの場合は過去に本音で語り合えなかったので
全力で言いたいことを言って対話しようとする姿勢。
とても道徳が赤点の学生とは思えない」
「だからっ!!!それがなんだっていうのよ!!!!!」
ああ、またやってしまった、声を荒げての八つ当たり。
過去の先生にも愛想をつかされた原因の発狂。
「伯爵財閥の従事者はできうる限り
これサラリーマンに受けがいいんですよ。
スス社長は交通費の削減とか通勤時間が非効率とか言っていましたが、
普段の性格とはまるで真逆。
” 従業員など毎日の通勤電車で疲弊させ、
過労死させない程度に給料絞りますよ?きひひひひ ” と発言するはず」
「そんな嫌がらせ特化の経営者なんて
この時代には通用するわけないじゃない。
私は自分1人では
優秀な人材をお
彼女たちの戦果は上の対場でもある私の物となるから、
待遇をよくしただけ」
「それを理解していない生命体が王都に沢山いるんですよ。
昔はこうだったとか、最近の若者はとか
自分を決して曲げない愚か者たちから社員を解放したんです。
ゲーム機も同じです。
昔の不正キョウカは我慢したけれど、
偽物のキョウカさんには新品をプレゼントした。
もうこの時点で僕の負けです。
思い出なんか無意味だと自分を曲げなかった愚か者が僕なんです。
これは推測ですがゲーム機を渡さなかったら
キョウカさんは広域平成ビームを撃っていたんじゃないでしょうか?」
「そんな無茶な推理・・・・」
「思い出には特定の形はありません。
ですが物理的なプレゼントは別です。
複数意識の集合体である人体錬成ちゃんに取り込まれながら
自我を保てていたのはキョウカさん自身の精神力と、
それに付加価値を与えたスス姉さんの影響でしょうね。
ゲーム機を思い出の象徴という概念に押し上げたんです」
「根性論?」
「自分に洗脳魔法かけて無理やり
人体錬成ちゃんの集合意識をスルーしたススパパに言われたくはありません」
ああ、これ私が折れないとずっと続くやつだ。
「ほんとアンタは屁理屈ばかり、親の顔が見てみたいわ」
「鏡持ってきましょうか?」
「最終確認、アンタは私の下で働きたいの?」
「勿論ですよ?スス社長。にゃひひひひひひ」
長かった。本当に長い。
「じゃ最後に、
このメールの差出人はニャラケルじゃないとしたら「さぁ?魔法という
事にしておいた方がいいんじゃないですか?
思い出のオチが現代科学で証明できるなんて肩透かしもいいとこです」
発言を遮られてしまった。
私達よりニャラケルは後から脱出したけれど20数年たった未来は
知らないはず。
当然思い出のキョウカさんのメールが届くことは不可能に近い。
「・・・・魔法ねぇ」
最後の最後で全てを持っていくとは見事です・・・・・先生。
ー 平成が攻めてきたぞっ!
☆☆☆
あとがき
キョウカ 「この内容を未来のキョウカ達に伝えてくれませんか?」
異世界先生 「私が戻れるのは1度きりだ。本当にこの内容でいいのかい?
そろそろ帰らないと私の教え子たちが心配するからな」
キョウカ 「多分向こうでは1時間もかかってないと思います」
異世界先生 「ならよかった。私も禁酒した甲斐があったな」
過去先生 「別に私に付き合うこともないだろうに」
異世界先生 「キョウカ君は私の教え子でもあるからな、
期間こそ短い物の大切な錬金術部の仲間だ」
過去先生 「じゃあキョウカ君、帰って酒でも飲もうか!
君もいい年齢じゃないか」
キョウカ 「キョウカはもしかしたら道を踏む外すかもしれません、
ので禁酒の約束は継続です」
過去先生 「なあ別世界の私、今からでも入れ替わらない?」
異世界先生 「さらばだ諸君!!!あははははは!!!!!!」
キョウカ 「行っちゃいましたね」
過去先生 「ああ」
キョウカ 「みんなにとってキョウカは思い出として
忘れ去られていくんでしょうね」
過去先生 「それが思い出ってもんさ。
でもココロの支えになることは間違えない」
キョウカ 「まるでラムネの炭酸のようですね」
過去先生 「まあ抜け落ちた炭酸なんて後から補充すればいい。
思い出をつぎ足しして刺激のある人生を過ごせばいいのさ」
ー あとがきその2 ー
過ぎ去った思い出はいずれ虚無に消える。
その声が、その顔が、その思い出が何だったかもはや彼女は思い出せない。
それでも彼女は最後まで変色した年代物のゲーム機を手放さなかった。
享年88歳、不正キョウカはかつての教え子に囲まれその生涯を終えた。
異世界なら人体錬成も合法ですよね? 漢字かけぬ @testo
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