ささやかな過去改変 ニャラケルの場合
ー 裏山 20時 ー
あの後散々ススパパとアヤメは勝負を繰り返しました。
フライドポテトの山盛り対決、わたがし対決、片取り対決に
野球ボールのコントロール対決 (俗に言うス〇ラックアウト)
あなた達に残されたリミットは1時間だというのに。
そんなことを考えていると爆音とともに光芒が空を照らす。
花火ですか。
夏の風物詩ともいえる天空に咲く火華。
王都やアルケミストと違って規模は小さめですね。
まあ都市にも満たない田舎では予算は相当少ないはずです。
そんな花火を背景にキョウカさんが光のドアを作ってくれました、
恐らくそれがこの世界の出口。
「皆さん、広域の平成化共振ビームは何とか打たせないようにします。
これがキョウカにできるせめても罪滅ぼしです。
どうか本物のキョウカを救ってくださいっ!!!!!!」
やりずらいですね。今ここに居るキョウカさんは涙ぐんでいますよ。
本当は誰よりもみんなと過ごしたいと思っているはずなのに。
「頼むわよ?正直光のカーテンに対する策は考えていないから、
打たれたら負け確定」
本当に道徳赤点ですね!ゲーム機渡した配慮はどこ行ったんですか!!!
ススパパ!!!!!
「じゃ、帰りましょうか。私たちの世界に!!!!!」
「・・・・待ってください。まだ時間はあるはず、
最後にキョウカさんと話がしたいんです」
僕の返答に「そう」とだけ返事をしたススパパは光に飲まれていきました。
アオイママもアヤメもねぎらいの言葉を僕にかけて光の中へ。
☆☆☆
ー 20時30分 裏山 ー
「ニャラケルさんは行かないんですか?」
キョウカさんの言葉が刺さる、今までの僕ならとっくに脱出してます。
「いえ、言いたいことを言ったら即去ります。
やはり僕にはエアコンの効いた学園生活が魅力的ですので」
「キョウカがいる平成は嫌いですか?」
「そうですね、僕にはススパパの記憶、
いえキョウカさんの ” 経験 ” を知っています。
イジメを差し向けたリーダー格、身の保身に走るクラスメイト、
何もしない担任、親からも見捨てられたこと。
それらは今のススパパの反骨精神を育てる
僕は判断します。
そして僕は世界にケンカを売り続ける
ススパパがどうしようもなく好きなんですよ、
ライクではなくラヴで。
これがススパパにとっての理想郷だとしても ” 愛 ” の為に
脱出します。
僕にとっては本物のキョウカさんも、ここに居る貴女も
ススパパのやる気を引き出させるスパイス程度にしか感じません」
「それならニャラケルさんは悲しい表情をしているの?
今にも泣きだしそうです」
「・・・・思い出ってヤツですよ。
記憶で体験した夏休みと、ここで経験した夏休み。
僕にとって思い出と呼ぶべき日々が今この瞬間なんです。
ススパパを始めとした人間たちが何故脱出をしないのか分かった気がします。
それはここがあまりにも優しい世界だからです。
平成といっても体罰はありましたし、
親を通報してもなぁなぁで済ませられて虐待は防げません。
労働に関しても男が何人過労死しようが体制は変わらなかった。
だから嘘と分かっていても皆この世界に
「ならせめてニャラケルさんだけでもここに残って世界を
いい方向にもっていきませんか?」
魅力的な提案、しかし決意は変わりません。
僕はコイン落しでもらったラムネを取り出し栓を開けます。
コトンとビー玉が瓶の底に落ちる前に中の液体が吹き出ます。
「時代や世界なんて関係ありませんよ?
このラムネの瓶を時代と定義しましょう、
そして炭酸水は僕達です。
瓶やコップに注がれようと重要なのは中身の液体です。
容器という時代は変わろうと僕たちは柔軟に対応します、
令和だろうと平成だろうと。
共に支え合う仲間さえいればね」
「キョウカは、本物のキョウカはその中に入っていますか?」
「ススパパが、いえスス姉さんは今ここに居るキョウカさんに頼んだんです。
友達として・・・・いえ過去の自分の悔しかった思い出を書き換えてまで、
貴女に託したんです。
僕達の進む未来と、 ” キョウカさんの作る平成を ”」
「でもキョウカは不安なんですっ!!!!
皆さんと別れて1人で生きていくのがっ!心配で・・・不安で・・・」
「泣かなくても大丈夫ですよ。そうだ僕からのアドバイスを2つほど。
この世界にも ” 虹渡 アヤメ ” は居ますよね?
彼女は今でもキョウカさんに対して好意を抱いています。
そしてもう1つ。
ススパパの押し入れには大量の玩具やカードゲームがあります。
キョウカさんが大人になって何かの事業をしたくなった時、
それらを資金にしてください。
大人という物は馬鹿な生き物で、当時手に入らなかった玩具を
財力で買いあさる習性を持った哀れな生き物ですから。
大枚はたいたところで思い出を変えることができないと知っているうえで」
「なんだか今のキョウカみたいですね。
思い出に
花火もクライマックスといった所でしょうか?
地方とはいえ最後の10分ぐらいは盛大に花火が彩ります。
花火職人や限られた予算でイベントをこなす職員ができる最後の抵抗。
都会よりかは規模が小さいかもしれない、
マスコミに見向きもされないかもしれない、
そんなことは関係なくただ集まってくれた観客へ向けたアンサーソング。
それは儚い夏の思い出。
誰しもの記憶に残っているであろう彼らの生きた証。
「僕はこの世界が好きですよ?だからこそ ”思い出 ” にします。
もうここには帰ってこれませんので。
・・・・・・お元気で」
僕が向きを変え光のドアに手をかけこの世界から脱出しようとした時、
キョウカさんが何かを言っていた気がしました。
しかし花火の音にかき消され、うまく聞き取れません。
もし振り返って答えを聞いたら
僕は決意が揺らいで元の世界に帰れないかもしれませんので。
だから全力で走り抜けました。
花火の音もキョウカさんの声も聞こえなくなるまで光の道を進みます。
あの時、花火の音でかき消された言葉を知る方法は断ち切られました。
でも思い出ってそういった失敗や、
もしもこうしていればみたいな連続だと思うんです。
すべてが自由になったらそれはチートを使ったゲームと同じで
ただの時間を消耗するだけの娯楽、
生きてくうえで誰にも賛同されない雑音にすぎません。
・・・・ほんと、思い出という物はやっかいですね。
涙をぬぐい、僕は異世界に帰還しました。
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