最終楽章 前編 百合の鳥島攻略戦

 ” 悲愴 ”




 ” 悲愴 ”



 尋ね人はすぐ見つかった。


 いつの世もネットというものは便利なものだ。


 見せてほしい、その命の輝きを。


 こんな浮世で汚れた魂を。


 あの人の楽章は破滅へと向かうのだ。


 

☆☆☆




 ー スス・アオイ・ニャラケルの部屋 数日後 ー



 「百合の鳥島ゆりのとりしま?そんな最果てに行くんか?ウチらが?」



 「ええ。オンラインではなく物理的にです。


海洋都市アトランティア・・・・私たちの貴重な資金源の1つですから」




 方言が強い淡い青色の髪の毛の少女帆帝ほてい アオイ。

忙しくて美容院に行く暇もない赤毛な私、ススが話し合う。



 「以前話した通り優秀なエンジニアは海底の資源を獲得するために

知恵を絞っています。


 けれど邪魔になったんですよ♨百合の鳥島♪」



 「あー、排他的経済水域。つまり王都の土地だから

採掘に許可がいるんやな」



 「ええ。その通りです」



 正直言って私よりもアオイのほうが賢い。


 正確には理解力が高いため問題を定義すれば即回答が返ってくる。



 「そこでアオイと私にしかできない仕事をしてもらいます。


 ただアトランティアは曰く付きの土地。


 アオイには作戦拒否の自由があります」



 「なんや幽霊でも出るんか?」うらめしやーのポーズ



 「もしそうなら私はぜぇっつつつつつつたいに行きません!」



 「せやかてススも悪霊みたいなもんやろ」引き気味



 確かに私はニコラス・スラーの黒魔術で地獄からこの世界に来ました。

 

 しかし悪霊とはひどいですね、ちょっと人体錬成しただけなのに。



☆☆☆




 ー 7年前 海洋都市 アトランティア (仮) ー



 異世界に舞い降りた私、

ススはニコラス・スラーの望みを叶えるため奮闘した。


 親のコネだろうと倫理観欠如の方法だろうと全部使って。



 私が10歳の頃だろうか、埋蔵された地下資源発掘の為に

エンジニアチームを呼び出したのは。



 いかに彼女らが優秀であろうとも圧倒的に作業員が足りない。



 ので人体錬成のプロトタイプで私を量産しました♨



 私以外の人間だと裏切るじゃないですか。



 といっても今はもっと効率のいい方法があるのですがね。



 ” 安楽死装置に入った人材の活用 ”が今の最適解。



 駅や樹海に備え付けられた近未来を連想させる流線形なマッサージチェアに

蓋が付いたような銀色の装置。


 自殺の為に電車を止められるより

安楽死装置に入ってくれた方が経済的に楽ということで

王都各所に申請出来ました♨



 で、安楽死装置に入ったら面倒くさいデジタル書面にサインを終えて

特殊なガスを発生。

 

 位置情報を確認し安楽死装置を移送。工場で加工をします。



 胴体と首を分離させ頭は仮死保存コールドスリープに、

身体は首のないメイドへと変質させます。



 生命維持は背中に背負ったカバンでします。


 彼女たちは自分で物事を考えません、だって頭がありませんから♨



 首無しメイドという異形が街をさまようのは不気味ですが

雇用者側からしてみればありがたいものです。



 最低自給だけ払えばそれでよいので。



 頭の方?100年後に解放されますよ?


 まあそのころには私は寿命で責任はとれませんけどね♨



 ☆☆☆



 ー 彼女たちの私室 ー



 「ススのちっちゃい頃から人体錬成してたんか」ドン引き


 「ええ、世に出回ってる人体錬成装置はあの時代のブラッシュアップ版。


 何人もの私の分身がアトランティアで実験のいしずえとなりましたよ・・・」



 「でもそれならエンジニアを人体錬成して増やしまくったほうが

ええんちゃう?工具の使い方も手馴れてるやろうし」



 

 「当時はまだ不安定な人体錬成を他人に向けることはできません。

人体実験という物はまず ” 自分 ” に対して使用し

安全であることを確認してから出ないと私自身のココロが壊れます」




 「ススがいっぱいということは職場選びでバトル始まりそうやな」



 「いえ彼女達は素直に働いてくれました。


 ひと通りのインフラが配備された時、王都にその存在がバレないよう

ガス室へ誘導した際なんと言ったか分かりますか?



 ” 生んでくれてありがとう ” ですよ?



 彼女達は私の殺し方を知っていた。


 暴力なんかより100パーセントの善意で私のココロを破壊したんです」



 「当時からススは明るい感情向けられると慌てるんやな」



 「ええ、今でも苦手です。


 前世は社会の闇を等身大の感情で歩き、疲弊しましたから。


 むしろ暗がりのほうが心地いいまであります」




 「けど今は違うんやろ?ウチと居るときはそんなネガティブやないし」



 「ニコラスの魂を乗っ取った負い目からこの世界の母親に

甘えることすらできなかったんです。


 私の過去を何も知らない同世代なら友達になって甘えられるという願望を、

アオイに全部押し付けてしまったんです。


 愛情表現が膝枕しかできないのも、それしか知らないから」




 「ああ、スス。非常に言いずらいんやけど・・・・・。


その ” お母様 ” 背後にいるんやけど」


 

 「ッ!!!!!!!やっ!止めてください!!

私ホラーとか嫌いなんですよ!!!!幽霊みたいなものですが!!!」



 「むちゃくちゃ笑顔やで?」



 「もう後ろ向きたくないのですが!!!

あのストーカー、持ち前の身体能力で潜入スキルが財閥1位なんです!」



 

 「せっかくやし親子水入らずで話せばええやん。


今まで甘えたかった分ここで発散すればええやろ?


ウチは図書室行ってくるから。



 あっ、今手ぇ振ってくれたで?」



 

 これだから100の善意は嫌いなんです!!!


 あの母親から繰り出される無償の愛ってやつは本当に苦手で。







 ・・・でも膝枕は気持ちよかったです。 




☆☆☆



 ー 同時刻 保健室 ー


アオイママとススパパの遺伝子を掛け合わせた人体錬成者である僕は

保健室の先生と作戦会議中。


といってもこの先生は宇宙人でクローンだとか。


人体錬成してるこの星よりも邪悪なんじゃないですか?


にゃひひひひ。


ニャラケル 「つまり、医者を休業した理由はススパパの手術に負い目を

      感じたからですか?」



先生    「ああ、流石に悪魔が患者の魂と融合するなんて想定外

      だったからな。


      ヘルメス君・・・・・君の祖母からは依頼金は貰ったが

      何か腑に落ちなくてな」



ニャラケル 「その、悪魔召喚した本は焼却しましたか?」



先生    「ああ、ヘルメス君と私で焼いた。

      だが不思議なことに彼女はあの本の事を知らなかった」



ニャラケル 「ふむふむ、本ということは著者がいます。

      作者がいて量産されていてもおかしくはないですね。



      だれが何のためにかは分かりませんが」



先生    「そうか!違和感はこれだったのか!!!

      つまり!!!!」



ニャラケル 「そう、 ” ススパパは意図的に ” 召喚されたんですよ。

      にゃひひひひひ」

 

先生    「もしくは召喚された悪魔は複数いるということだ」

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