ダイナミック不謹慎




 三途の川・・・・いえ先生にとっての”保健室”から脱出した私は

 アオイたちが待つ世界へ。



 「にゃひひひひ、

 その様子では先生のデータは取れなかったようですねぇ」にちゃあ


 「正確には”採らなかった”です。

 流石に思い出の先生を実験台にするほど私は残酷にはなれませんよ」


 「でもスス。確か生きている先生の髪の毛で昔の先生を

 人体錬成していませんでしたか?完成度55パーセントがどうって」


 「・・・・・洗脳ビーム!!!!忘れろおおおおおお」


 「ていっ!」





 いくらアオイに魔法の才能があるとはいえ

 洗脳魔法が片手で弾かれてしまいました。

 これだから無詠唱呪文は。

 もっと念入りな術式を組まなくては。



 「ですがどうしますかススパパ。このままでは死者を蘇らせる依頼の失敗。

 報酬もそうですが、いずれ開発される簡単な技術。

 悪用されぬようコントロールするのが目的のはず」


 「ええと確かこの辺に」ガサゴソ



 サブバックから日焼けしたメモ帳を取り出します。

 他人には文字数字の羅列ですが、これは暗号。

 解析をすれば今欲しい情報があるんです。



 「きひひひひ、これは地獄で集めた”死のデータ”

 ただ肉体労働をしていたわけではありません」


 「ああ、やっぱりススは地獄行きでしたの・・・・・」


 「やっぱりって・・・そんなにひどい事しましたか!!!」


 「未成年にアルコールの作り方を教え、

 現時点で違法になっていない医療用〇麻の生成と販売。

 アオイママを助けるためとはいえロープで絞殺しかけて、

 ママを人身売買で買った上、

 人体錬成を生み出した。ついでに道徳のテスト赤点。


 にゃひひひひひ。地獄すら生ぬるいですよねぇ」


 「・・・・全部秘書がやりました」


 アオイ・ニャラケル (いや全部ススやん)



 この状態で入れる保険をください。



 「こほん、ではちょっくら王都に殴り込みに行きます。

 1週間でカタを付けてきますから。

 例の如く寿命1日の祖父を人体錬成し続けて公休にしてください。

 お願いしますよ?ニャラケル」


 「ざ、罪状追加にゃ」


 「そんな語尾ではないでしょうに」



 ニャラケルは猫キャラであざとい。

 そんなにキャラ立ちが大事なのですか?

 それはそれとして私への煽りにキレがない。

 まさか寂しいとか?アオイがいれば幸せなはずですが。



 ☆☆☆



 ー 数日後 スス・アオイ・ニャラケルの部屋 ー



 「ふう、思ったより早く着きましたね。ただいま」


 「ふ?にゃあああああああああああああああああああ」



 扉を開けた途端ニャラケルが襲い掛かってきた。

 まったく、親の顔が見てみたいですよ・・・・・私とアオイですね。



 「あー、今ちとニャラケル反抗期でな。

 ウチもバイト初めて独りになる時間増えてもうて」


 「どちら様!!!!!!!」


 「どっからどう見てもアオイやん。

 学園の購買と食堂のバイトで影響受けて」


 「純粋培養だったよ!!アオイは!!!!

 だからこんな変わり果てた口調に汚染されて」


 「っまウチの事はおいといてシャワーでも浴びいや」


 「んん~、納得できませんがそうさせてもらいます」



 そういえば人体錬成で作られた人間が野生化するニュースが

 流れてきましたね。

 原因は不明ですがいずれも衣食住は与えているケースばかり。

 何がいけないんでしょうかねぇ?


 ☆☆☆



 ニャラケルが膝の上に乗っての戦果報告。

 猫みたいで可愛いと初めは思いましたが意外とキツイ。

 頭だけでなく全体重が太ももに集中しますから。



 「今回の結論から言えば”死者は蘇らせるべきではない”です。

 ただし報酬は頂きましたよ、きひひひひひ」


 「なにかトリックでも使ったん?

 王都側の権力者を説得させるなんて流石やなぁ、スス」


 「・・・・・どうしよう。アオイの口調にすっごい違和感がありますが。

 こほん、今回蘇らせたターゲットがポイントなんです。

 芸術家のユリナルド・ダ・ヴィンチ氏。

 代表作は絵画のユリリザですね」


 「ウチでも知ってるっというか教科書レベルの偉人やな」


 「ええ、例を挙げるときは誰もが分かりやすい例えを出すのが定石。

 補足をしておくとダヴィンチ氏は亡くなっており、

 ユリリザも世界でオンリーワンの芸術品です。


 ではダヴィンチ氏を蘇生したらどうなるでしょうか?

 依頼主は間違いなくユリリザの作成をするはずです。

 何故なら国宝レベルですので」


 「ユリリザを売れば大金持ちやな」


 「ところがダヴィンチ氏のデータがあるということは

 ”不特定多数”の人がダヴィンチ氏を人体錬成できるんです。

 そうなればユリリザが溢れかえります。


 厄介なのが”死者である本人”が書いていることなんです。

 コピー機なら偽物と判断が付きますが。


 本物の作者が書いたコピー品という訳の分からないものが

 大量に出回るのです。


 ここで困るのは誰でしょうか?」


 「ん~・・・・当時のユリリザを所持していた王都側?」


 「正解です。勿論ユリリザだけではありません。

 ダヴィンチ氏が作品を生み出し続ける=ダヴィンチ氏の作品の価値が薄れる

 という図式が成り立ちます」


 「?ちょっと意味が分からんのやけど?」


 「オリジナルのダヴィンチ氏の作品を仮に50個としましょう。

 世界に50個。

 ところが人体錬成ダヴィンチ氏がもう50個製作したら

 世界に100個。

 希少価値が薄れてしまうんです。


 ダイナミック不謹慎なことを言えば

 芸術家は亡くなって初めて芸術として完成する。

 もう新しい作品が出てこないのですから。

 希少価値が下がることはありませんので」


 「ホントに最低やな。その考え」


 「ですが死後評価される芸術家が多いのはそういったカラクリ。

 販売終了した玩具の美品が高値で取引されるのと同じ。

 ”再販”が無いからなんです」


 「じゃあ頭のいい戦略家とかはどうや?

 軍師なら物の価値じゃなくて才能やろうし」


 「きひひひひ。それこそ王都側が拒否する案件なんですよ。

 自分達より頭のいい人が蘇ったら地位が危ぶまれる。

 マクロくにぜんたいではなくミクロこじんの保身が大事な

 彼らにとって無茶な橋は渡らない」



 ふむ、ちょうどニャラケルも起き始めましたね。

 そろそろ限界なんです、膝が。



 「でもススパパは報酬を貰ったんですよね?

 ここからどう相手を納得させたんですか?」


 「簡単なことですよ。

 自分たちの財産も、地位も脅かさずに死者を利用する方法。

 それはニャラケルの人体錬成の応用。

 ”試験管ベビー”なんです」


 「試験管ベビー?」



 アオイが首をかしげる。

 まあこれも禁忌というか倫理的問題なんですが。



 「従来の人体錬成が丸ごとコピーであるが故問題が生じた。

 そこで出力結果を変えて赤ん坊にしたんです。

 彼女たちが成人するまで十数年。

 選挙権を持たない人間がいくら量産されたところで現政権は揺るがない。


 だって子供が大人になるまでに権力者は逃げきれますから。きひひひひ」


 「どぶ川の水ですらもうちょい透き通てるで」ドン引き


 「毎日出る耳カスよりも厄介な存在ですねススパパ」ドン引き



 なぜかすごく険悪なムードです。

 いったい誰のせいなんでしょうか?



 「とにかく資金は手に入りました。

 これでアオイとニャラケルはバイトなんてしなくてもいいんです」


 「・・・・それは嫌やな」



 何故?アオイが反論します。



 「なんか全部ススのお金で何とかするんってこうなんというか

 貸し借りで借りっぱなしいうか不公平感?みじめっぽくなるんや。


 最低限は自分で稼ぎたいんや」


 「・・・・・アオイは変わっていますね。

 労働なんて魔法があるこの世界では無用の賜物たまもの


 ましてやアオイがそばにいたからこそ失敗は許されないプレッシャーを

 跳ね除けられたんですよ?

 そして不本意ですがニャラケルとのじゃれ合いも楽しかったですし」


 「でもそのきっかけを作ったのはススなんやで?」


 「私が?」


 「”社会人になる前にバイトするのがおすすめです。

 いかに他人を安く使うかで社会の闇が見えますから”

 確かススがウチにいった言葉。

 まだ両親の仕事を継ぐと思い込んでた甘ちゃん時代の」


 「なんやて!!!!!!」


 全部私のせいじゃん!!!!!!!!

 余計なこと言った私の!!!!

 思わずアオイの方言?が移ってしまいましたよ!!!



 ー 死者再誕の儀 保健室登校と先生 完 ー



 ☆☆☆


 嘘次回予告


 外伝  保健室の先生と銀の主人公




 これはスス君の物語ではない。

 僕個人の問題。


 僕の最終目標は・・・・先生に”殺してもらう”ことだ。

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