脂肪は忠誠心が高い

かん摂津守せっつのかみ殿、ご謀反!」


「……、是非に及ばず」

 駆け込んできた伝令を下がらせてから、絞り出すように呟いた。先だって筋丹きんに蔵之介くらのすけが出奔したことに加え、此度の謀反。我が天命もここまでか。じきにここも包囲され落ちるのだろう。


「殿! 諦めてはなりませぬ! この脂房しぼう豊満とよみつ、最後までお供いたしますぞ!」

 嗄れているがよく通る声を聞き、ハッと我に返る。儂は心強い味方の存在を失念していたようだ。幼き頃より仕え、片時も離れず忠節を尽くしてきた男がいるではないか。

「よくぞ申した! そなたが居れば、百人力ぞ!」


 体重計が見たことのない数値を叩きだすまでの一瞬で、そんな寸劇が脳内で繰り広げられた。血迷った関節を宥めすかし、筋肉に再出仕を請い、脂肪には隠居してもらわねばな……と神妙な顔をして考えてしまった。

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