5月

城と古墳の探訪記

 散歩がてら、地元の城を訪れた。

 城といえば整然と積み上げられた石垣に、見上げるほど巨大な天守閣というイメージが一般的かもしれない。が、地元にそんなものはなかったらしい。

 この地域を治めていた武田何某なにがしというマイナーな領主の、しかも本城ではなく支城。もはや城というよりとりでとも言うべき規模の小ささで、当然ながら建造物の一つも残っていない。曲輪くるわを囲う土塁どるいが当時の姿を偲ばせるだけだ。それもただ少し土が盛り上がっているだけだから、知らなければ見落としてしまうだろう。


 親切にしてくれた地元の古老は、最後に、一際高くなっている場所に私を案内する。話によると、草木に覆われたその場所は古墳であり、城の一部だという。前方後円墳の円の部分に物見ものみやぐらを建て、敵が登ってくる側面は削って急斜面にしてあると。

 現代人の感覚として「人様の墓を勝手に削って勝手に使うって罰当たりすぎひん?」と思わざるをえない。エクストリーム不敬。呪われたりしない……? 大丈夫……? しかし攻めて攻められ滅ぼし滅ぼされの戦国時代には、そんなことを気にしている場合ではなかったのかもしれない。

 墓だと思うと、正直、登るのはちょっと怖い。古墳公園のように整備されて明るいわけでなく、木々に囲まれなんとなく仄暗い雰囲気を醸し出しているというのも恐怖心に拍車をかける。真面目な調査ではなく、ただの下賤な好奇心によるものだから猶更だ。後ろめたい。しかし、やはり、好奇心には逆らえなかった。


 古墳の上から見た風景は意外と雄大だ。内陸から続く低い丘陵の突端に位置し、かなり遠くまで見渡せる。重要な街道にも睨みを利かせられるだろう。この見晴らしの良さは正に防御にうってつけだ。


 どこまでも続く青空の下で、ひらかれた水田が規則正しく並ぶ。田植えを終えたばかりの稲田は太陽の光を照り返す水鏡だ。民家は疎らに点在し、その向こうには巨大な工場がそびえ立つ。更に奥には穏やかな内海が宝石のように煌めく。この地に住んできた人たちの営みが、歴史がここにある。

 私達は先人たちが築き上げたものの上に立っているのだ、などとおごそかに言ってみたくなった。今まさに立っているが、物理的に。


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