台風にまつわる伝承
昨日は風が強かったですね。せっかく咲いた桜もほとんど散ってしまいました。春の嵐と言えばなんとなく雅なかんじがしますが、台風並みの強風になりますと、やっぱり心がざわざわとして落ち着きません。
風の音を聞いてとある伝承を思い出したので、ここに書き残しておこうと思います。
私が幼少期を過ごした村では、台風のような風の強い日には、その風に乗って亡者が現れるとされていました。暴風によってあの世とこの世の境目が曖昧になり、混ざってしまうと考えられていたようです。だからしっかりと戸締りをして家の中で静かに通り過ぎるのを待ちます。どれだけ田畑の様子が気になっても、見に行くことは許されません。
そして、ガタガタと戸を揺らす風の音を、亡者が訪ねてきた音だと解釈していたようです。お盆でもないのに帰ってきてしまったご先祖様か、あるいは天地もわからなくなるほどの大風で迷子になってしまった見ず知らずの亡者か。どちらにせよ、あの世へ戻ってもらわねばなりません。
ここで登場するのが「亡者の弁当」と呼ばれる供物です。
本来はお盆の
私のところでは、ミソハギを浸した水、カボチャ(丸ごと一つ)、おはぎ、カボチャの煮もの、ナスの煮びたし、そうめん、白玉などを日を分けて順に捧げます。これらは全て陶器の皿に盛り付け、
そして最後に登場するのが「亡者の弁当」です。
簡単に言うと握り飯です。蓮の葉の上に、一口サイズの握り飯を六つ並べ、その一つ一つに、短く折った麻がらを立てます。イメージとしてはミニチュア版枕飯でしょうか。これを持って、盆明けにご先祖様はあの世へ戻っていくのです。
さて、話は台風に戻りますが、強風でこの世に来てしまった亡者にも、この弁当を捧げる風習があります。その場合は捧げるための棚などは作らず、戸越しにやりとりをします。
「
と、尋ねながら捧ぐのが決まりです。
しかし、台風が多く襲来するのは七月や八月。米を収穫するのは九月ですから、この時期にそう何度も弁当を出すわけにもいきません。そこで代替品として使われたのが、六月に収穫期を迎えるジャガイモだったわけです。
最初は潰して丸めるだけだった調理方法も、時代を下ると複雑になります。ジャガイモが足りなければ他の食材も足してみたり、少しでも握り飯の見た目に近づけようと衣をつけてみたり、冷めたままでは可愛そうだからと熱々の油で揚げてみたり。そして尋ね言葉の「
基本的に供物は役目を終えた後、川に流すことになっているのですが、味見した人がいたのか、その美味しさが伝わり一般的な料理となったようです。
これが台風コロッケの伝承です。
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