『駅前禁足地』の裏話

八幡やわたやぶ知らず」という言葉をご存じでしょうか。

 慣用句としては、出口がわからないこと、迷うことの例えです。八幡にある藪に入ると、迷ってしまい出口がわからなくなると言われたところから来ています。そしてこの「八幡の藪」(不知しらず八幡やわたのもり)、令和になった現代でも、禁足地(立ち入ってはいけない土地)として残っているのです。(※これは空言ではありません)


 JR総武そうぶ本八幡もとやわた駅から歩いて四分か五分くらい。市町村でいうと千葉県市川いちかわ市になりますが、東京都江戸川区やディズニーランドのある千葉県浦安うらやす市と隣接しています。チーバくん(千葉県のマスコットキャラクター)で表すならば、口のあたり。

 隣にはファミマがあり、国道を挟んで反対側には市川市役所があります。もしも妖怪や怪異がいるとして、市役所にはあまり用事がないかもしれないけど、ファミマにファミチキを買いに行くことはあるのかなぁなんて考えてしまいますね。ファミチキ美味しいから。


 そんな都会のど真ん中に禁足地があるわけですが、広さはだいたい十八メートル四方です。おおよそ百坪になりますから、イメージ的には、学校にある二十五メートルプールくらいでしょうか。それなのに鬱蒼うっそうとしていて、入ると迷って出られない。この狭さが逆に怖くなってきますね。

 近現代に削られてしまったとかではなく、江戸時代には既にこのサイズ感だったようです。


 あまり迷いそうにない広さですが、迷って出口がわからなくなるとか、入ると神の祟りでたちまちに死んでしまうとか。運よく出て来れても藪の中で見た怪異のことを語った後、血を吐いて死んでしまうとか言われています。コワ~。

 その他にも色々と伝承や昔話がありますので、箇条書きで紹介します。


・白髪の老人(または若い女性)

 魑魅魍魎ちみもうりょうを従えている。藪の中に立ち入った水戸黄門の前に現れ、この地を出入り禁止とした理由を話し、「今回だけは許す」と藪の外に帰した。


機織はたおり娘

 藪の中から機織りの音が聞こえてくる。近隣の家に見知らぬ娘が機織りの道具を借りに来る。貸したところ、道具に血がついた状態で返ってきた。


・六人の武士

 討たれた平将門の首を近習(六人とも七人ともいう)が奪い返そうとするが、八幡の森付近で行方不明になり、土人形になってしまった。雨が降ると溶け、その土を踏むと祟りで死ぬ。


・大きなあぶ

 子どもたちに捕らわれていた大きな虻を、旅人が助けた。後日、藪の竹の本数を正しく数えた者に褒美を与えるという高札を見た旅人が藪に入ると、助けた虻が竹の本数を教えてくれた。


・狐憑き

 藪に住む狐が男の子に憑いたが、狼を祀る三峰山の掛け軸で追い払われた。


・戦国武将の亡霊

 藪に入ると、甲冑を纏い馬に跨った姿で現れる。戦国時代に北条氏と里見氏による国府台合戦があった。凄惨な戦だったため、この地域一帯には多くのほこらがあり、亡くなった将兵の霊を祀っているという。


 なんともバラエティ豊かですね。

 こういう伝承を元に書いた話がこちらになります。

 ↓

駅前禁足地 /現代ファンタジー

https://kakuyomu.jp/works/16817330655175422050


 作中で登場する「ホンダさん」は誉田別命ほんだわけのみことです。八幡はちまん様です。そして八幡神社の総本社は大分県宇佐市の宇佐八幡宮ですので、大分に行っていて不在ということになっています。


 さて、立ち入り禁止になった理由ですが、本当に色々と言い伝えられています。

 貴人の古墳があるから、日本武尊やまとたけるのみことが東征のときにここに陣を敷いたから、八幡宮を最初に勧請かんじょう(神仏の分霊や高僧を請い迎えること)した場所だから、葛飾かつしか八幡宮の放生池ほうじょうち(儀式に使う池、生き物を放っていのちに感謝する)だから、平将門討伐の際に敷いた呪術的な陣の一角だから、平将門の人形を埋めた土地だからなどなど。恐れ多い系とガチで恐ろしい系ですね。更には毒ガスの発生する穴があるから、底なしの沼があるからなんていう話まであります。


 あとは、行徳ぎょうとく村(八幡やわたから数キロ南方にある村)の飛び地だったので八幡やわた村の人は入れなかったからとか。

 今となっては何が本当なのかわかりませんし、長い年月を経て尾ひれも付いていることでしょう。しかし案外と、こういう拍子抜けしちゃうようなことが真実だったりするのかもしれませんね。知らんけど。



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