第5話 旅の準備
「———瑞稀、俺と一緒に日本中を周るぶらり旅をしないか!?」
「ええっ!?」
ソーラは再び部屋に戻ると、瑞稀にそう提案する。
対する瑞稀はいきなりの事で声をあげて驚く。
「ぶ、ぶらり旅で、ですか……?」
「そうだ! 様々な場所を目的地もなく適当に訪れて行く……俺の小さな頃からの夢なんだ」
「そ、そうですか……しかし……」
(た、旅は面白そうですが……だ、男性と2人きりで旅と言うのは……。そ、それもまだ会ったばかりですし……)
瑞稀の心の中で様々な考えが入り乱れるが、ソーラの一言でトドメを刺された。
「勿論俺と一緒に居れば出来る限りの安全は確保する。これからはゾンビに怯えなくても済む様に力も授けよう。だから一緒に旅をしないか!?」
「……一体どうしてそこまでしてくださるのですか?」
瑞稀は訝しげにソーラの顔を見上げる。
余りにも自分に得な事しかなかったからだ。
こんな世界に無償などありはしないと瑞稀は分かっていた。
事実、瑞稀はその美貌のせいで、沢山の男に、必ず守るや君を見捨てないなどと言われてきており、それが全て裏切られているのも知っている。
「何でそこまでするか……か。まぁこの世界で最初に会ったのもあるし、俺が瑞稀となら楽しそうだなと思ったからだ」
ソーラは何でも無いかの様に、自分が思った事をそのまま伝える。
それを訊いた瑞稀は、そのあまりの純粋な返答に少し顔を綻ばせるとクスッと笑う。
「ふふっ……確かにぶらり旅は楽しそうですね。是非私もご一緒させてください」
瑞稀はそう言うと、小さくて細い手を差し出す。
それをソーラは嬉しかったのか少し興奮気味に握り、ブンブンと振った。
「あ、ああ勿論! 必ず楽しい旅にするよ!」
▽▲▽
「ソーラさん……一体何をしているのですか?」
瑞稀は、壊れて軽く炎上している車を熱心に色んな角度から見つめるソーラに訊く。
ソーラは1度車から目を離すと、瑞稀の方を向いて首を傾げる。
「ん? 何をしてるって……この車を調べているんだが?」
「いえ、それは見て分かるのですが……何故調べているんですか?」
「———自分で作るため」
「自分で作る!? このキャンピングカーをですか!?」
瑞稀は驚きの声を上げる。
しかし瑞稀が驚くのもの無理はない。
ソーラが見ているキャンピングカーは所謂本格的な物で、軽トラックよりも大分大きく、とてもじゃ無いが人間が1人で作り出せそうなものでは無い。
それをソーラは少し見ただけで作ろうとしているのだ。
誰だって不可能だと思うだろう。
現に瑞稀もそう思っていた。
しかし———瑞稀の考えはいい意味で裏切られる。
「よし、大体コイツの構造は把握した」
それはソーラがキャンピングカーを見始めて3分が経った頃だった。
いきなりソーラはそう言うと、キャンピングカーから目を離して瓦礫の無い所に移動し始めた。
「此処らでいいか……瑞稀、危ないから少し離れていてくれ」
「い、今から何をするのですか!?」
ソーラは比較的瓦礫の少ない場所まで移動して瑞稀に向かって言うと、瑞稀は驚きの声を上げる。
するとソーラは何でも無い様に言った。
「いや、今から俺達が旅する為の車? って言う乗り物を作るんだよ。さっきので構造は覚えたしな」
「で、ですが、今の日本ではとてもじゃありませんが車を走らせれる様な道はない様な気がするのですが……」
「まぁそれは実物を確認してから言いな」
ソーラは瑞稀に悪戯っぽく笑うと、魔力を操作しながら詠唱を開始する。
「えっとまずは……———魔力の篭った鉄を生み出せ———【
ソーラが唱えると、地面に魔術陣が出現し、そこからズズッと2メートル程の長さの鼠色の金属が出てくる。
それは1つでは止まらず、最終的には何十本も積み上げられた。
「…………」
瑞稀はその光景に驚きすぎて、目を見開くのみで声も出ていなかった。
その為瑞稀が驚いている事に気付いていないソーラは、次々と車を作るのに必要な材料を召喚して行く。
先程キャンピングカーを見ていたのは、構造と必要な材料を確認する為だった。
幾つかソーラの知らない材料があったものの、分析すれば直ぐに作れる。
そうして作り出された材料をソーラは更に魔術で変形させて行く。
基本的には先程見ていたキャンピングカーと変わらないが、エンジンはガソリンから魔力コアに変える。
こうする事により、タイヤも着けずに材料全てに重力魔術を付与して浮かばせて風と炎魔術で移動できる様になるのだ。
更に全ての金属がミスリルの為、そんじゃそこらのゾンビでは絶対に破壊できない。
窓も硬化魔術のお陰でバズーカが当たっても砕けない程硬くなった。
中は空間魔術で広くし、魔力で動く冷蔵庫や照明、キッチンに洗濯機など、もはや家と言えるほどの設備が整っている。
更には水も小さな魔力コアに水魔術を付与する事によって、魔力が無くなるまで永遠に使えるため、トイレも水洗式だ。
部屋もリビングに浴室、寝室など沢山に分けられている。
こうして明らかにスペックオーバーなキャンピングカーが完成した。
初めてのものを作った達成感を味わいながらソーラが「どうだ?」と瑞稀に訊こうと振り返ると———
「…………」
大きく目を開き、口を半開きにして驚いている瑞稀の姿があった。
その姿にソーラは焦る。
「ど、どうしたんだ瑞稀……? な、何でそんな顔をして———」
「———幾ら何でもこれは予想外ですッッ!!」
瑞稀の心からの叫びが辺りに木霊した。
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下⇩⇩⇩の☆☆☆を★★★にしてくれると作者のモチベ上昇。
偶に2話投稿になるかも。
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