第2話 中堅魔術師と奇妙な生命体

 ソーラは再び自分の家に帰れるか座標を指定しようとするが……


「……無理だな。俺の実力じゃ遠すぎて空間を繋げられない」


 結果は残念ながら帰る事は不可能と言う事になった。

 ソーラはガックリと肩を落とし、近くのベンチに座り込む。


 ソーラの周りにはどんよりとし空気が蔓延していた。

 まるであそこだけ暗くないかと目の錯覚が起きそうな程である。


「あ"あ"……あそこで転移なんてするんじゃなかった……大人しく待ってれば今頃———」


 と此処まで思い出した所で、最後に転移の座標が狂う原因となった、即死級の魔法か魔術かよくわからない未知のモノを思い出してソーラはぶるっと身震いする。


「———転移しててよかったーー! じゃなきゃ一瞬で死んでたな」


 ソーラはホッと安堵の息を吐くと、ベンチから立ち上がり、自身の頬を一度ピシャッと叩く。

 ネガティブな思考を排除するのと気合を入れるためだ。


「よし、もう後悔するのはお終いだ。命あっただけマシとポジティブに考えよう。それに此処はもしかしなくてもあの世界よりも安全そうだしな」


 ソーラは、全身灰色でボロボロの服を着て「あ"、あ"ぁ"ぁ"……」と白目で呻いている生命体に取り囲まれているのに、呑気に伸びをする。

 そして面倒くさそうにその生命体全員に目を向けると、


「———【邪魔だなぁ】……」


 と一言ボソッと呟く。

 一見ただのぼやきに聞こえるが、目の前では驚きの光景が広がっていた。


 先程まで奇妙な呻き声を上げた生命体がソーラ目掛けて襲い掛かろうとしていたのに、いつの間にか上半身と下半身を両断されていた。

 勿論やったのはソーラ。


 【邪魔だなぁ】と言う言葉を魔術の発動キーとし、風魔術の【風の太刀カマイタチ】を発動させたのだ。

 100体近い生命体に向けて同時に。


 しかしソーラの予想に反して、ゾンビは全て生きていた。

 それに気付いたソーラは「うわっ」と引き気味な声を上げる。


「マジかよ……コイツらめっちゃ弱いのに生命力だけはピカイチだな。俺も流石に両断されたら死ぬぞ……」


(まぁ両断されている途中に再生魔術を掛かれば死なないかもしれないけど)


 普通の人間なら気味が悪そうに顔を歪めるであろう光景に、ソーラはこんな呑気な事を考えていた。

 しかしそれも当たり前の事だろう。


 ソーラにとってその程度の事なのだから。


 パンッ。


 ソーラが軽く手を叩くと、両断されていた奇妙な生命体が風船の如く破裂する。

 辺りに血が飛び散り、ソーラにも散ってきたが、ソーラは常時自身の周りに魔力の壁を作っているので、少し手前で血が止まり地面に落ちてしまった。


「あっ、そう言えばコイツがどんな生命体かしっかり調べようと思ったんだった。普通に全部消してしまったわ……まぁいいや。どうせまだ沢山いるし」


 ソーラは、破裂音に集まってきた先程と同様だが、様々な姿の生命体を見て言う。

 それと同時に先程とは違い、直ぐに殺すのではなく、注意深く観察する。


(ふむ……皆人間と同じ様に1人1人顔も形も着ている服も違うな。と言うか生命反応が人間と違う事以外全部特徴は同じだな)


 それだけの情報で、ソーラは大体のこの生命体の正体を突き止めた。


(おそらく俺と同じ人間種が、何らかの外部からの干渉によって変異した姿か? うーん……もしそうならまだ殺してもいいのか分からないな……取り敢えず再生魔術でも掛けてみるか?)


 ソーラは此方に迫る女型の生命体に再生魔術を掛けてみるが……効果はない。

 その他にも回復魔術や解呪魔術など、ソーラが使える物を一通り試してみるも、何ら変化は見られなかった。


「ふむ……取り敢えず俺がコイツらを治すのは不可能だな。じゃあ少し可哀想だけど……ごめんな」

 

 その瞬間に目の前の生命体は吹き飛ぶ様に灰になった。

 しかしソーラは特に表情を変える事なく独り言を呟く。


「うーん……取り敢えず余裕で殺せるからコイツらは放っておくとして……ちゃんと意思疎通が出来る人に会いたいなぁ……」


 ソーラは人の生命反応があった廃墟の様な都市の中へと歩を進めた。

 


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下⇩⇩⇩の☆☆☆を★★★にしてくれると作者のモチベ上昇。

 偶に2話投稿になるかも。

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