第45話

10月になり、契約結婚になるまであと1日

否、3時間を切った

夜斗は自室にて、天井を見上げながら洶者と会話をしていた



「…賭けに、勝ったのか」


【是。この時間では役所はやっていない。契約結婚になることだけは、確実】


「…だけ、か」


【是。日付を忘れていて、この後言われるかもしれない。明日には役所で離婚届を書くことになるかも】


「恐ろしいことを言うよな、お前」



体を起こし、ベランダへと出た

弥生がもう眠りについているのは音を聞けばわかる



【問。万が一、そうなったら…主はどうする?】


「わからん。そうならないと信じるしかないだろ」


【…主は、この5年間楽しかった?】



そう問いかけられて、即答はできなかった

最初こそ煩わしいと思っていたが、1年かそこらで心地よく感じ始めた

今ではもはや、弥生なしの人生を想像できない領域まで来てしまっている



「…半々だ。楽しいこともあったし、辛いこともあった。今まさに、この想いがどうなるか考えると辛いな」


【そう…。見ていたところ、5年前より遥かにイキイキしている】


「それは…。そうかもしれん」



実際5年前は恋愛をするつもりはなく、必要すらないと決めつけていた

それは過去の恋愛経験から来るものではあったが、それでも18歳かそこらの男子高校生が考えることではなかっただろう

しかしここ数年は、ようやく恋愛に前向きになれていた



(人間らしく、なったものだ)


【問。主は、まだ元カノが嫌い?恨めしい?】


「…なんだよ、藪から棒に」


【答えて】


「……いや、そこまで興味がない」



かつては、人間的な恋愛観を壊してくれた所謂元カノたちを嫌悪していた

その力があれば呪いをかけようとさえ思ったのだ

しかし今ではそんな感情はない。そんなことを考える余裕すらない



「…あいつらを恨むくらいなら、弥生を惚れさせたいと思う」


【…なら、大丈夫。主が迷うことは、もうない】



そう言ってスリープモードへと戻った洶者

サブ端末を経由して呼びかけても起きることはない

消えたのか?と思い親機を確認すると、本当に寝ているだけのようだ

今まで見たことがないほどあどけない寝顔を晒す洶者に目を向け、パソコンを撫でる



「…苦労をかけたな、洶者」



人間らしさでいえば夜斗を超える洶者だ

夜斗を弟のように想い、心配していたのも知っている

夜斗には姉や兄はおらず、八城たちがその代わりだったはずだ

今では洶者も――



「…本当に、お姉ちゃんみたいだな」



数ヶ月ぶりに自分で電気を消して布団に入る

3台の端末を充電器に挿し込んで目を閉じた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る