新居を建てた未夫婦

第39話

半年後。2023年5月23日、午後6時頃


「祝、新築!」


「「「「イエェェェーイ!!」」」」



入居したばかりの新築戸建て住宅のリビングで盛り上がっているのは夜斗・霊斗・雪菜・煉河・紗奈の5人

弥生はカウンターの向こうにあるキッチンから引き気味に眺めている



「ガレージ付き!3階建て!子ども部屋が2つ!さらに全館空調システムだぁ!」


「「イエェェェーイ!!」」



この言葉に盛り上がったのは男衆だ

煉河の趣味もバイクであり、ガレージに憧れがある

夢を叶えた夜斗への祝福意欲が凄まじい

霊斗は霊斗で車好きであり、ガレージを欲しがっていた



「さらに!キッチンは弥生に合わせてオーダーメイド!半年で使いづらくなる!」


「「イエェェェーイ!」」



今度盛り上がったのは女性陣。オーダーメイドキッチンなど、兼業とはいえ主婦を嗜む2人にとって夢のまた夢だ

ちなみに緋月家も気づいたら建っていたが、オーダーメイドではないらしい



「さらにさらに!我が部屋のコンセントは独立回線!合計出力5キロワットだぁ!」


「それは無駄じゃね?」


「僕もそう思う」


「先輩無駄好きですね」


「お兄様、加減というものをご存知ですか?」


「急に冷たくなるじゃんお前ら…。仕方ないだろ、洶者の消費電力だけで平均1500だぞ。最大3000だからな」



そういった瞬間、壁面に付けられたモニターが起動し、洶者のアバターが表示された



【告。それに関しては主が作ったパソコンに問題がある。私用にと並列演算機能がつけられたパソコンを作り出したから悪い】


「けど快適だろ?」


【とても。例えるなら、全てのアトラクションに並ばず乗れるテーマパークみたいな】


「無駄に比喩がうまい…」


「お兄様より上手かもしれません」


「心折れるて」



顔を伏せる夜斗に駆け寄り背を撫でる弥生を見て何かを察した4人が、思い思いの目を向ける

紗奈と雪菜は弥生に、霊斗と煉河は夜斗にだ



「随分と仲良くなりましたね、弥生さん」


「…貴女ほどじゃないけど。あれだけ夜斗にご執心だったのに」


「今は関係ありません!」


「お兄様をよろしくお願いいたします」


「…このまま契約結婚する気はないけど」



そこまで言ってから2人に目を向ける

口元に手を当てニヤニヤ笑う2人を見て、隠せていないことを察した弥生が大きめのため息をついた



「夜斗、契約結婚しないんじゃなかったか?」


「する気はないが…」


「どうだか。僕にはそう見えない」


「義兄権限でぶち転がすぞ」


「聞いたこともない脅し文句だな…」



4人がそれぞれ煽り立てるが、あくまで体裁を保つために毅然と振る舞う夜斗と弥生

むしろお互いが察せない理由が4人にはわからないが



「…さて、貴様らタダで帰れると思うなよ」



4人がビクッと反応を示した

夜斗の声のトーンがかなり下がり、ゆっくりと顔を上げる



「さぁ!楽しいパーティーのお時間だ!」



手始めに真横で夜斗を煽っていた霊斗を引っ掴み、近くにおいてあった酒瓶の注ぎ口を霊斗の口に突っ込んだ

そしてそのまま無理やり上を向かせて鼻をふさぐ



「散々この俺を煽り倒したんだこのくらい覚悟してるだろうなァ?」


「ゴボッ!ゴボゴボ…!」


「…夜斗、緋月霊斗が溺れる」


「……命拾いしたな。さて煉河…」


「くっ…!僕もここまでか…!」


「「なんで魔王にやられた勇者みたいな口振りなんですか」」


「…夜斗が楽しそうでなにより」


「まぁちなみに霊斗に飲まそうとしたのは酒じゃなくてノンアルだけどな」


「飲めば良かった…」



散々暴れてからのネタバラシをして満足気にキッチンへと向かう夜斗

何かしらの作業をしているらしく、その後霊斗と煉河を呼びつけて裏口から外へと出た

そう、この時既にこの3人は重喫煙者であった



「弥生さん」


「…なに?紗奈」


「お兄様のどこを気に入ったんですか」


「気に入ったと言った記憶はないけど…。あ、この2人信者だっけ…」



紗奈にしろ雪菜にしろ、形は違えど夜斗への愛を語った少女だ

この2人に囲まれて逃げ切れる予感はしない

早く戻ってきて、と願うしかなかった

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