失い弱る

第27話

翌週土曜日。某病院最上階特別研究室



「ということがあった」


「君も物好きだねぇ…。こんなところまで惚気けるためにきたの?」


「惚気けてるわけじゃねぇがな。別に両想いじゃない」



漣にここ最近の話をしながら紅茶を飲む

どこか明るい表情をしているため、その場にいなかった漣にも大体の顛末は理解できた



「大方君がその同棲相手に惚れたという話じゃないの?」


「なんでわかるんだ…」


「女の勘だよ。そういえば、君少し前に女の子3人フって泣かせたとか話してなかったっけ?」


「まるで俺が自慢げに話したかのような言い方をするな。内容はまぁ、事実だけど…いや、俺の目の前で泣いてたのは佐久間だけだな」


「ああ…理事長の娘か。あの人はどうも策士だからね。どこか、夜斗を知りすぎてる感があるよ。もしかして前世で知り合いだったりする?」


「輪廻転生か。非科学だな。俺にその前世の記憶があればその話に乗ってやるのも良かったが」


「輪廻転生はあることもないことも証明できないからねぇ」



キーボードを叩いていた手を止めて夜斗の前に移動した漣

ゆっくりとソファーへ座り、背もたれへと体を預けた



「ところでこれはあくまで雑談だけど、君の「眼」について文献で似たようなものを見つけたよ」


「雑談に文献なんて単語を出すなよ。それで?」


「ああ聞きたいんだ…。まぁ、ほとんど伝承はなくてかなり探したんだけど、それと同じ力を持つ人がかつていたらしいんだよ」



色を見る能力については調べても該当するものが出てこなかった

共感覚が最も近いのだが、共感覚による能力と大きく異なるのはオン・オフが切り替えられるということだ



「…それ歴史?神話?」


「どちらとも取れるね。書いてあることが本当ならその本が存在する意味がわからないし、嘘ならそれはそれで意味がわからない。その文献は国庫に仕舞われていたからね」


「…つまり、この「眼」について書かれた記述が嘘ならわざわざ国庫に仕舞う意味がないってことだよな」


「普通の国庫ならありえるけど、これがあったのは禁書庫だからね。一般人に教えたくない歴史上の事実が書かれた本が置かれる場所だよ」



原本は持ち出せなかったらしく、あくまで記憶の限りで話すと前置きした漣

ある程度は文字に起こしたらしく、紙を差し出した



「宇宙がビッグバンによって発生したのは知ってるよね?」


「まぁ、中学理科で話すことまでは」


「そのビッグバンは広がったあと収束するんだよ。そしてまたビッグバンが起きて新たな宇宙が生まれる。そして、この文献は前のビッグバンで生まれた地球での話が書かれてる」


「…なるほどな。本来滅んだはずの文明が遺せるわけがない、と」


「一応その内容は、かつて世界が1つの大地だった頃。この宇宙でいう数万年前に、巨大な桜があった。その桜には精霊が宿っていて、嫌われていた。死神と呼ばれた青年がこの精霊の話し相手となり、精霊は次第にこの青年を好きになっていった…という物語だよ」


「その死神が持つ眼が俺のこれと同じだと?」


「察しがいいね。そうだよ」


「…ま、詳しい話は今度聞くかな。時間も時間だし」


「もうこんな時間か…。したまで送ろうか?」


「いや別にいらんが…。また来る」


「ツレないねぇ…。またおいで」



時刻は18時を過ぎたところ

毎回この時間で区切りをつけて病院を出るようにしている

そのため漣も引き止めたりはしない



「…前世返り自体は、存在する話だよ。夜斗」



笑いながらそう呟く漣はどこか寂しげだった

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