第22話
午後2時。今週はテスト週間となっており、授業はこの時間に終わってしまう
帰るタイミングを逃した夜斗は生徒会室でぐったりしていた
「夜斗、少しはシャンとしたらどうだい?」
「無理な話だ…女3人泣かせて心に負担がないとでも思ったか?」
「君の選択の結果だよ。あと忘れるように言ったよね?」
「悪かった悪かった謝るから辞書をフルスイングする構えを取るな」
持ち上げられた辞書に怯えながらソファーで項垂れる夜斗
佐久間は全く…と呟いて辞書を戸棚に戻し、パソコンに向き直った
「私を忘れたか!」
「深雪…。お前なんでここにいんの?」
「ボクが入れたからね。さすがに、ボクら3人だけ想いを伝えるのも失礼かなと」
「また俺心折れるよ?」
「それもまた一興だね。さて、ボクは月宮先生に書類を出してくるよ」
「おいおいおい!2人きりにすると!?」
夜斗の悲痛な叫びを無視して佐久間は生徒会室をあとにした
残されたのは夜斗と、何故か夜斗に付き纏う3年生女子・深雪の2人だけだ
「何しにきたんだお前」
「邪魔しにきた!」
「カエレ!!」
「どこかのブラウザゲームのトラウマが蘇るトーンで言うな」
ペシッと頭を優しく叩く深雪
その手はいつも以上に弱々しい
「…珍しく弱いな」
「ふざけるな。私は、いつも弱い」
「声が震えてることなどなかった」
「抑えていただけだよ。夜斗に悟られないように。けど、時津風にはバレてたみたいだけどさ」
言葉を紡ぐことができなくなった夜斗は、背後に佇む深雪を肩越しに振り返ろうとした
が、強引に顔を押さえつけられて動かせない
「…」
「今は見るな。まだ、覚悟ができてないんだ」
「そーかよ」
夜斗にとって今の深雪は気兼ねなく話せる友人でしかない
深雪がどう思おうが、夜斗の思考は変わらない上に、これからもそうかと言われるとそれはわからない
「…夜斗」
「おう」
「私は、今後夜斗の友人になれるのか?」
「…それは」
夜斗は連絡を絶とうとしている
弥生にはやらなくていい、と言われたにも関わらず自分の満足のために
「…夜斗」
「…雪菜は、我が親友の彼女だ。相談窓口として残してある」
「今は…!」
「まぁ聞け。佐久間は、俺が旧友に頼まれたことの補佐をするらしい。だから残した。アイリスは俺をデバッガーとして選び、フィードバックを送るために残すことを余儀なくされた」
「…奏音は?」
「何も無い。また会ったら、と言っていた」
今あえて他の3人と雪菜を提示したのは、選択肢を与えるためだ
何らかの夜斗にとって有意義だと思えれば、残す
やるかやらないか決めろ、と
「…私は、これでも女の子だ」
「そうだな」
「だから、少しは女の子の思考が理解できる」
「…ほう」
「…もし、今同棲してる子が苦しんでいて夜斗に理由がわからないとき、助言できる」
深雪にもその理由付けは弱いとわかっている
それでも、残す判断をされた3人のような「特別」ではない
だからこそ捻り出した。捻り出すしかなかった
「…なるほど、確かに俺の周りの女には相談しづらい。友人になら話せるだろう」
「…!」
「その場合、俺がお前に求めるのは「女を理解した男友達」だ。それに耐えられるなら、残すことを検討しよう」
「それでいい。私は、この学校で唯一できた友達を失いたくないだけだ」
「友達…よく言うぜ。好きあらば大声で告白してたのどこのどいつだよ」
「ここの私だ」
手が離れたため振り返ると、笑みを浮かべた深雪がいた
フッと笑い、立ち上がる
「まぁいい。遠慮なく相談させてもらう」
「任せてよ。得意だからさ」
「ああ」
「ま、良い答えも聞けたしこれあげるよ」
少し距離を取って深雪が投げたのは細長い箱
中に入っていたのはキーケースだ
「好きに使ったら良いさ。お礼は次の誕生日にもらうから」
「渡してやるよ。多少考えて買ってくる」
「もっと考えてよ」
笑う深雪の背後から佐久間と八城が現れ、温かい目を向ける
ちなみに八城が誕生日プレゼントとして夜斗に投げたのはバイク用のスマホホルダーだった
夜斗が持つ端末は特殊な形状が多く、何の偶然か取り付けられるのはアイリスからもらった専用端末だけだった
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