第18話
夜斗は紗奈への誕生日プレゼントが集荷されたことをメールで確認し、コンビニを出た
紗奈に直接渡すことは困難だと思われたため、宅配を頼んだのだ
出したのは夕方。明日には届くだろう
「夜斗」
「おう」
「もう帰るのか?」
「ああ。ほどほどに弥生を待たせてるだろうしな」
「そうか。なら、ほらよ」
霊斗が投げ渡してきたのは小包だ
表面には、「貴方の後輩より」と書かれており、即座に誰なのかを把握した
「雪菜か」
「ああ。代わりに渡しとけってよ」
「…ふむ。直接受け取りに行くこともできたんだがな」
「会いづらいんだろ、橘さんの件でモヤモヤしてるお前には。あの子が好きなのは、圧倒的余裕を見せる兄にも似た冬風夜斗だからな」
「…そう言われたのか?」
「半分は。兄と思ってるってのは本人が言ってた」
「ようやく恋愛対象から外れたか」
「らしいな。ま、そうであってくれないと困るけど」
どうやら本気で雪菜を好きになったらしく、霊斗は笑いながら少し睨んだ
フッ、と夜斗も笑い二人して空を見上げた
「星は変わらんな」
「ああ」
「俺たちの本質も、変わっていない」
「そうだな」
「また同じことを、近い未来に言えるよう祈っててくれ」
「…なるほど、わかった」
霊斗にはそのニュアンスが伝わったらしく、ニヤッと笑った
「「俺(お前)が恋をしたその日に、また言おう」」
そう言ってお互いに笑い、拳を握った腕をぶつけ合わせてそれぞれが帰路についた
30分後、夜斗はやっとの思いで自宅に到着した
途中、弥生からRaimuがきて買い物を頼まれ、自転車のかごいっぱいに荷物を積んできたのだ
「重い…。腕が折れる…」
玄関のドアを開けることもできず右往左往していると、中から弥生が出てきて少し隠れるようにして顔を出している
「…おかえり」
「…ただいま」
「予想より早かったからまだ終わってないけど…」
「何が?」
「…くればわかる」
重いビニール袋を半ば引きずるようにして中へと運び込む
そしてリビングのドアを開けて、絶句した
「…なーにこれ」
部屋の壁には紙で作られたリボンがこれでもかというほど貼り付けられており、机の上には手製と思われるケーキが鎮座していた
さらに、ケーキの両サイドに小箱が置かれている
「…夜斗の誕生日だから、頑張った」
「方向性凄まじいな。ガキの頃以來だ、こんな祝われ方したの」
表情はさして変わらないが、明らかに声のトーンが高くなり喜んでいるのが弥生にはわかった
買ってきたものを冷蔵庫に入れ、食卓へと向かう
「すごいな。1人でやったのか?」
「…莉琉さん呼んで手伝ってもらった。私はどういうのがいいかしらないから…」
「すげぇ…。つかあいつ暇なのかよ」
「呼んだら5分できた」
「明らかにこの辺彷徨いてたな…。そういや俺の家教えてなかったし」
莉琉も誕生日を渡そうとしていたのだろう
しかし大雑把な場所しか知らないため、近くをいったりきたりしていた
その中で弥生に呼ばれ、ここにきたのだと推測
「ケーキの右が紗奈、左が莉琉さん。ケーキ作ったのは私」
「包丁持つのも危うかった弥生がここまで成長したかと思うと先生涙出そうです」
「もう…」
食卓でいつものように向かい合い、いつもより明るい夜斗の目の前でケーキを切り分ける
とはいえさして大きくないため、包丁一太刀で半分にできた
「誕生日おめでとう」
「ありがとう。お返しは派手にしてやるよ」
「できれば質素にして」
「おまいう…」
ここにきて初めて、和気あいあいと食卓を囲む2人
所々で雑談をしながらケーキを食べ進めた
「あ…」
「うん?」
「これ、私から…」
「マジで!?」
「そんな驚く…?」
「いや、弥生から貰えるとは思ってなかったからつい…」
「前にショッピングモール行ったときに買った。夜斗が、紗奈のために駆けつけた日」
「あああの日か!全然知らんかった」
「紗奈と出かけたのは、これを買うため」
「想定外が過ぎる」
考えてみると住民票を移しに行ったとき、弥生は夜斗の住民票を見ていた
だから覚えていたのだろうと当たりをつけ、夜斗は弥生のものを見ていないため記憶していない
「弥生誕生日は?」
「…9月。なんで?」
「貰ったら返すのが俺の流儀だ。9月ならギリギリ義務同棲中だし渡せるな」
「…気にする必要はないけど」
「ただの自己満足だ、気にするな」
貰ったものを開封しながら笑みを浮かべる夜斗
日頃弥生の前ではほぼ動かない表情が目まぐるしく変わっていく
(…そう。そんな顔も、するんだ…)
「紗奈は…ガジェットか。この規格なら俺の端末に使えるな。Bluetoothでパソコンを操作できるみたいだが、後で試そう。雪菜は……うーん…?」
(…ネックレス。幸せや飛躍などを意味してる。大切な人だ、というのを示してるけど…夜斗はそういう表現を知らないみたい)
「まぁ、この十字架見て霊斗が悶絶しないことを祈るか」
「使うの?」
「雪菜に会うときは少なくともつける。貰ったのに使わないのは申し訳ないし、アクセサリーは何も持ってないからな。って話をあいつが覚えてたらしい」
そのネックレスは銃の照準を模したものだ
十字架に見えなくもないが、普通はそのような発想になることは少ないだろう
「霊斗はまぁ…うん。マジで使えんぞこれ」
「なにそれ」
「スマートホームリモコンってやつだ。対応する家電を遠隔からスマホなんかで操作できるんだが、この家の家電には使えない。ハブを噛ませれば使えるが、そんなの買ってまでスマートホーム化する必要はないしな」
「…全然わからない」
「まぁこのへんは俺の趣味だからな、分からなくて良い。1年経たず要らなくなる知識だ」
郵送されてきた煉河からの誕生日プレゼントはワンボードマイコンと呼ばれるものだった
夜斗が欲しがっていた機種である
「あいつよく覚えてんなぁ。1回しか話題にしてないのに」
「…そうなの?」
「ああ。煉河は記憶力がいいからな、下手なこと言うと一生バカにされる」
「……みんな、夜斗のことをよくわかってる。私だけが、当たり障りのないもの」
「当たり障りのないものかはまだ見てないからさておき、そういうのも新鮮だな。ここ最近はめちゃくちゃ欲しい物がピンポイントで贈られてきてたし。嬉しいけどパターンが決まってきたんだよ」
莉琉が置いていったという箱の中にはガラホが1台入っていた
初期設定が終わっており、SIMも刺さっている
いくつか登録されていた連絡先は八城・久遠・舞莉・翔・莉琉の5人だけで、莉琉のものだけ短縮ダイアルの設定がされていた
(定期的に連絡しろってことか。確かに莉琉の電話番号知らなかったな。弥生は何故か知ってるみたいだが…)
「言わなくてもわかるでしょ?だって」
「あー…そうだよな。弥生いるからあんま女と関係持たないようにしてると伝えたんだが…」
「夜斗を弟扱いしてるみたい。家族の中でもよく絡む5人の中でも歳が1番下だから、って」
「そういや莉琉1番若いんだよな。八城が25で久遠と舞莉、翔が24、莉琉が23だったはずだ」
「意外とばらつきがある」
「そこに俺が加わってたんだ、昔は。プライベートの記憶は消えなかったから、八城たちのことは覚えていた。で、俺の記憶が飛んだ2年後には全員揃うことも減って、中学卒業くらいに久遠と舞莉と翔は海外へ行ったんだよ」
そこまで話してようやく弥生が渡したものに手を触れた
前座を片付け、夜斗にとってはメインのものだ
「…期待しないで」
「期待してないわけじゃないがめちゃくちゃ期待してるかと言われるとそうでもない気がするな…」
開けて取り出し広げると、それは黒いパーカーだった
完全に無地かと思われたが、チャックに造形が見られる
「おー…?」
「ピンときてない?」
「まぁ…」
「なら、私の勝ち。夜斗がこれを知らないと思って買ったから」
「3ヶ月で俺のファッションセンスが見抜かれたか」
夜斗は量産型の安い服しか買わない
持ってる服の中で最も値段が高いのは、莉琉たちから貰ったバイクのウェアだ
自分で買ったものは全て五千円を切る
「値段は、調べてもいいけど私からは言わない。そのほうが面白みがあるでしょ」
「そうだな。ま、調べる気はないが。貰ったものの価値を調べるほど無粋じゃないさ」
綺麗に折りたたんでもとに戻し、今日貰ったものを一纏めにした
霊斗からもらったもの以外は夜斗にとって使い所があるようだ
「…人気者」
「ほぼ義理じゃね?まぁ、問題なのは明日だ」
「明日…?月曜日なのに?」
「月曜日だから、だよ。クラスメイトが毎年持ってくるんだ。ま…詳しいことは紗奈にでも聞けばいいさ」
苦い顔をしながらそう呟く夜斗
弥生の耳に届いた音は、若干の恐怖だった
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